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165:手癖
しおりを挟む部屋を出るとまた気配が1つついてくる。
なんとなく笑っているようだ。
苦肉の策で、適当に荷物を包んで持っていくとでも思っているのだろうか?
「お待たせしました。
どれをおもちすればいいいのか、迷いまして、遅くなっってしまいました。
申し訳ありません。」
待ってる間に食事は終わったのだろう。
大方の皿は下げられ、今は果物を食べている。
そうか、食後の甘味は果物なんだ。
給仕の仕事は終わっているので、マティスの横についた。
(ただいま)
(お帰り)
(燃やされてたよ。ひどいね。)
(部屋に置いてきたセサミナの失敗だな)
(そうかー、付いてきてよかったよ。姉ちゃんは心配で夜しか眠れない)
(そうだな。?夜しかって、ぶふっ!)
(ふふふ、わらってはいけないよ?)
(これは腹筋が鍛えられるな)
「お待たせしました。それで、ドーガー結局すべて持ってきたのか?」
「はい。モウさんも持ってくれるというので。」
「そうか、モウ殿、助かりました。」
にこりと笑ってかるく合図を送っておく。
(セサミナも頭の中はきっと、姉さん!の連呼だ。)
(あははは!そうだね)
「これがタオル地という綿から作った布で、ガウンとして仕立てたものです。
いま、我が館でいつでも入れる湯殿がありましてね、その風呂上がりに着るのに
いいのではないかと。同じような湯殿を、公衆浴場と呼んでますが
それを街に作っております。その湯上りに羽織るものですね。
風呂上がりに靴を履くのは抵抗ありますから、同じタオル地のもの
裏にはゴムを使っております。
これはそのゴムでつくったすこし気軽に履けるものですね。
耐久性がないので、安価でと考えています。
どうぞ、手に取ってください。
ああ、そのズボンは腰ひもの代わりにゴムが使ってあります。伸びますよ?」
粗を探そうとひっくり返しているが、ないでしょうよ?縫い目もないしね。
「・・・どれも庶民向けですな。」
「ええ、もちろん。貴族相手に商売をするわけではないですからね。
まずは我が領国で。隣国にも販売できればと思っております。
ああ、もちろん、こちらでも、いかがですか?」
「は!このようなものは必要ありませんな。」
「そうですか、やはり庶民向けですからね。ファンロ様に似合いませんね。
こちらの領民の方には良いと思いますので、販売路をつくっても、それはよろしいですか?」
「はは、我が領民がこのようなものを好むかはわかりませんが、お好きになさってください。」
「ありがとうございます。」
言質はとった。さすが、セサミン。
庶民向けだといいつつ、ジャージのズボンとバスローブには未練があるようだ。
だって、肌触りいいもの。楽だしね。
「それで、湯殿があるとか?それを街にも?
砂漠石が豊富にあるからでしょうが、これからはそうもいかないのでは?」
「ああ、最近なのですが、たまたま青い海峡石を手に入れましてね。
これから湯が出るのですよ。際限なく。」
「!!青の海峡石!紫ではないのか?」
「それもご存じなのですね。わたしの知らないことでも、ファンロ様は知っていそうだ。
ええ、紫もあります。それとは別ですね。」
筒抜けですな。
「その青の海峡石から湯がでると?それで風呂に入ってるというのですか?
しかもそれを街にも作ると?」
「ええ、衛生面でもいいと思いましてね。」
「その石は今は?」
「ああ、館の湯殿にあるものは盗難防止のために砂漠石で守っています。
我が館でそのような不心得ものは、もういませんがね、外部からはわかりませんので念のため。
他の石は最初は宝物庫にいれてましたが、持ち歩くのが一番安心できますのでね。」
「まさか、これがそうなのですか?」
だまって、バスローブやタオルをいじりまくっていたご婦人が声をあげる。
これというのは、色ガラスで作ったランプシェードだ。
「ははは、いえ、これが海峡石ならそれこそ国家予算並みの価値だ。
これはガラスですよ。」
「ガラス!これが?」
「ええ、ガラスに色を付けることを研究しておりましてね。
ああ、もちろんすべての色に石の隠匿は掛けてますが、これは試作品ですね。
このなかに明かりをいれるのです。やってみせましょうか?
この部屋の明かりを落としてください。」
ファンロが消えろとおもったのだろうか、一瞬で真っ暗になった。
砂漠石での明かりは明るくなるか、消えるか。調光はできない。
セサミンが懐から黄色の海峡石を出す。
わたしがあげたものではない、ゼムさんに渡した小さいものだ。
「すこしだけ明るく」
調光が効く黄色い海峡石にみなが驚いている。
それを色ガラスの中にいれれば、色とりどりの光が四方に広がる。
「大きく、小さく」
波が動くように光が動く。
みながうっとりとしているが、
そういえば師匠は何をしているかとそちらを見れば、
まだ食べていた。?いや、移動させている。え?どこに?
(ワイプ師匠何やってるんですか?)
(?モウ殿ですか?これは?先ほどと同じですか?)
(考えるだけでいいですよ。表層の表層です。で、何やってるんですか?)
(いえ、なかなかにおいしかったので、モウ殿にも食べてもらおうと
部屋に大皿を移動させて、そこに移しています。いまはこの果物です。
あとでいただきましょう。)
(やった!師匠天才!!)
(そうですよ?知っています)
(そんなのは食べなくてもいい!私が作ってやるから!)
(でも、いろんな料理を食べるのはいいことだよ?一緒にたべようね。それで味の研究をして
よりおいしいものをつくってね?)
(もちろんだ。)
(あ、それはわたしも食べたいです)
(貴様のはない!)
そのとき気配を消している一人がわたしに近づき、また触れようとする。
気配を消していることが分かるということは動きも把握している。
いったいなんなんだというしかない。
「兄さん」
「ああ」
『明かりよ灯れ、闇に隠れしもの姿を現せ』
と、厨二病を炸裂させる。
急に明るくなったので、皆がざわつき、
それに加え、気配を消していたもの3人が姿を現す。
当然わたしの目の前にいたものと目線が合う。
そのまま、マティスの蹴りが入り壁際まで吹っ飛んでいく。
「何事です!!」
タンタンが声をあげるが、見たらわかるだろう?
電気がついて痴漢が退治されたんだ。
セサミンがこちらを向いた瞬間に、
テーブルに置いたままのランプシェードを手癖の悪い娘がゆったりとした袖の中に隠した。
わたしが見ていると気付いているのに!ほかの人も見てるのに!ルグとドーガーも目が点だ。
ふふん、と平然としている。怖!
怖いので、腸詰めを作るときに、試しに血抜きした血をつめたものと交換した。
100%血である。ブラッドソーセージは背脂などいれるらしいが、とりあえず血だけをつめたものだ。
出来心である。
「明かりがついたらあまりにも近くにいたので、おもわず蹴りを入れてしまいました。」
虫をけった時と同じ言い訳をするマティス。
「暗闇の中で気付かなかったのでしょう。我が弟子が申し訳ない。
ティス、暗かったとはいえ気配に敏感にならなくては。」
「はい、師匠」
丸見えだから逆にどうしようもなかったんですがね。
師匠もわかっていってる。その証拠に笑いをこらえている。
「急に明るくなさるから驚きました。ファンロ様にはこれもお気に召さなかったようだ。
ん?ルグ、ドーガー?もう、片付けたのですか?」
ぶんぶんと首を振るが。ここで、領主の娘が盗んだとは言えない。
(セサミン、いいよ。わたしが回収した。うまくごまかして。)
(?はい姉さん)
「えーと、ではそろそろ部屋に戻りましょう。
ファンロ様、今日はありがとうございました。よい食を堪能させていただきました。
明日の手合わせも楽しみにしております。
われわれはこれで。ああ、こちらには湯殿はないのですね。
部屋に大きな桶がありましたから。砂漠石、海峡石は持参しておりますのでお気遣いなく。
では、ワイプ様引き揚げましょうか?」
「ああ。ファンロ殿。ありがとうございました。では、いきましょうか。
ティス、モウ、ほら、足元に転がっている人を踏んではいけませんよ?」
「「はい、師匠」」
テーブルにあるバスローブやらを回収して部屋もどった。
最後までバスローブを握りしめていたのはファンロとその奥方だった。
ジャージはその親戚たち。
ルグが無理やり奪っていった。お疲れ様です。
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