157 / 863
157:師匠
しおりを挟む月が沈む少し前に、彼女は起き出した。
家で身支度は済ませたようだ。
「おはよう、マティス。ごめんね、あのまま完全に寝ちゃったね。
マティスは?みんなも寝てないの?」
「ああ、うまい飯と、酒があったからな。それに移動の練習をしていた。
呼び寄せは問題ないが、自分が移動するとなると、すこしまごつくな。」
「そうなの?しんどくないんならいいけど。
自分の移動ね。んー、ああ、自分の姿かたちを把握してないからだよ、きっと。
脱衣のところに部屋にある鏡置いとくよ。それで、自分の姿を見たらいい。
あ、朝ごはんどうする?わたし作っておこうか?」
「いや、ここで、焼くだけでいいようにしている。
お前はコーヒーを入れてやってくれ。」
「うん、あ、先にお湯だけ浴びといで。歯磨きも。
さすがに酒臭いよ?」
「そうだな。ほら、風呂場に行くぞ。
そこに鏡がある。それで自分の姿を見てみろ。こけるなよ。」
「鏡ですか?あの家にあった?」
「ああ、もっと大きなものだ。さ、行くぞ。」
全身が映るものはセサミナも初めてだったようで、
体の薄さを気にしていた。
ルグとドーガーは筋肉の付き具合を確認していた。
むさいの一言しか言えない。
ワイプの落ち込みようはひどかった。
慰めようがない。
歯ブラシを配り、これは毛に使う材料を、草原ではないところから探すようで
すこしおくれていると言っていた。多少遅れてもそのほうがいいだろう。
着替えは最初に着ていたものをきれいにしてあるので、それを着てもらう。
戻ると彼女はエプロンをしてコーヒーを入れていた。
なにか、ぐっとくるものがある。
クッションはなくなりまた、テーブルと椅子が並んでいる。
「ん?ワイプさんどうしたの?」
「ああ、全身をな、よく映る鏡でじっくり見たんだ。そういうことだ。」
前髪を下ろしていたのだ。
「なんだ。へたに後ろの毛を前にするより、後ろに撫でるほうがいいよ。
知的な感じがするもの。この中で一番学があるって感じがするしね。」
「知的ですか?それはそうです。しかし、、」
「うーん、でも、気にすると余計にだめっていうしね。
ちょっとここ座ってみ?」
彼女がコーヒーを置いて、自分の前の椅子に座るようにいう。
「ちょっと触るよ。こうね、髪だけでなく頭皮をこう揉むと。
ま、お風呂にはいって、ゆっくりして、疲れをとって
おいしいもの食べたら、これ以上進まないと思うし、
それに頭の形がいいから、スキンヘッド、丸坊主もいいかも。
ワイプさんだったら絶対に合うね。これ、気持ちいいでしょ?」
まっさーじをしてやっている。後ろから頭だけだから許すが、それ以外だったら殺だ。
「これは気持ちいですね。マティス君?なんか刺さります。」
「マティス?ほら、朝ごはんつくって?
マティスには今度スペシャルでしたげるから。耳掃除付きで。」
「イエス!マム!」
ご機嫌に焼いていく。ワイプのは少し焦げたが問題ない。
花の蜜と、樹脂蜜も好きなだけ掛けれるようにおいた。
しょっぱい肉も、カリカリに焼く。卵は崩すように。マヨネーズも入れる。
「はぁ、モウ殿。これは素晴らしいですね。こう、血が巡るのが分かります。」
「なかなか自分ではできないけどね。ああ、そうだ、あとでいいの作ってあげるよ。
ほかのみんなにはジットカーフでいい上着があったから、王都に行くのに
かっこよく着てもらおうと思って準備したんだけど、ワイプさんの作れなかったから。」
「上着ですか?それはあまり興味がわきませんが、モウ殿の作ってくれるのののほうがいいですね。」
「姉さん?上着って?」
「ああ、あとだ、さ、できた。ルグとドーガー、並べてくれ。」
「この組み合わせはいいですね。いくらでも入る。」
ドーガーがかなりの興奮気味で食べている。
「そうだね、それが怖いよね。
ドーガー?覚えておかなくてはいけないよ?
甘いものとしょっぱいもの、この2つの欲望には勝てないだ。
だからその時は抵抗しない。受け入れるんだ。」
「はい!」
彼女とドーガーは時々おかしな会話を始める。
ワイプが黙っているのはすでに受け入れているからだ。
多めに焼いておいてよかった。かってにとっていってくれ。
「はー、月が沈むと同時にこれほどのものが食べれるとは。
ありがとうございます。
ああ、モウ殿、出発前に手合わせをお願いしたい。棒術で。」
「おお!棒術!マティス!いい?ワイプさん、棒術の師匠はマティスなんだ。」
「ああ、思いっきりな。」
「はい、マティス師匠!あ、その前に、上着だすね。」
テントに戻り少ししてから、戻ってきた。
上着を置くと、またテントに戻り、籠にいれた茶葉を持ってきている。
「スーとホー達にも朝ごはん出さなきゃ。赤馬たちにも。
お茶飲まなかったから、昨日の分と今日の分。
なんか、すごく増えてた。これあげて来るね。
マティスは服の説明してあげて。じゃ、行ってくる。」
彼女が馬たちのほうに走っていく。
「マティス君が師匠と呼ばれているのがいささか、むかつきますね。
手合わせ後はワイプ師匠となるでしょう。うむ、これはいいですね。」
「はっ!いってろ!逆にお前が彼女のことを師と仰ぐことになるぞ?」
「棒術の何たるかを知らぬものが師匠と呼ばれるのがおかしいということですよ?」
「槍と棒の違いだけだ。」
「そこからがおかしい、そもそも、、、」
「おはよう!あ、お水だいぶ減ってるね?
入れておくね。冷たいの。これは2番茶、3番茶ね。どうぞ。
月無し石君たちは?もういい?じゃ、ふきふきしてから袋に戻ろうか?」
石をふきふきしながら腰の袋に入れていく。
いまはわたしのほうにすべて入ってる。またあとで、半分はマティスの方に移動してもらう。
「え?おいしい?サボテンと同じ?そりゃよかった。
これから王都に行く間に変なのが湧くんだって。
気を付けてね。みんな強いから大丈夫だから。危なくなったらすぐ逃げて?
そっちのほう助かるかるから。お願いね。」
戻るとなぜかマティスとワイプさんが手合わせをしていた。
槍と棒だ。
ルグとドーガーが真剣に見つめている。
「さきにやってるの?」
「ええ、いろいろありまして。」
「ふーん。」
今のうちにヘッドマッサージャーを作るかな。熊手タイプの先端にボールがついてるやつ。
あとツボ押しグッズ。事務職は疲れるからねー。砂漠石でつくっちゃおう。
で、こっそり癒してもらうと。おお!パワーストーン系?まじもんの!!
「姉さん?上着の説明がないままはじまったので、これは?」
「ああ!そうなの?えっとね、紫の襟がセサミンで、赤の襟がルグとドーガー。
ジットカーフの新作の上着で砂漠トカゲを染めたものを付けてもらったの。
トックスさんって人の店。タロスさんも頼んでたところ見たい。趣味がいいんだ。
内側にもトカゲの皮がついてるの。ポッケになってるから。
あ、これ、各自専用の秘密ポッケにしてあげるね?内緒だよ?
ね?着てみて?」
ルグとドーガーもこちらに着て、袖を通していく。サイズはあってるね。
うん、かっこいい!!
「いいね!さすが、トックスさん!大元の意匠はマティスだよ?
ああ!ここに来て王子様キャラが出て来るとは!!目福!目福!
瞳の色がますます映えるね。
ルグとドーガーの赤は赤い塊の赤ね。わたしの心の部下だからね。お揃い。」
「姉さん!すごくいいですね。タロスの着道楽は有名です。
その服を手掛けていた方の服というのは、さすがとしか言いようがありません!!」
「奥方様!感無量です!!」
寒くなったとき用の襟巻も渡す。
こどものように頬ずりしている。わかるわー。
「あ、わたしの今回の赤い塊の服も着て来る。ちょっと待ってて。」
部屋に戻って、ぴちぴちボディースーツを着ようとしたのだが、
これって、着てる状態を呼べばいいのかな?ハニー〇ラッシュみたいな?
!
できた、すごいねー。
テントから出ると、3人の拍手喝采が起きる。
ちょっとカッコつけてターンしてみる。
それに気付いたマティスが、素早くこちらに戻ってきた。
「愛しい人、素敵だ。ああ、誰にも見せたくない。
上着は脱いではいけないよ?」
「でも、脱がないとやぱり動きにくいよ?そんなにやらしくないからいいんじゃないかな?」
「マティス君、逃げるとは卑怯な!」
「逃げていない。お前との手合わせ終わりが見えない。
死んでもいのならまた違うが、いまはいくらやっても同じだ。」
「それもそうですね。では、モウ殿?やりましょうか?」
「ぜひ!でも、続けてやるのは大丈夫ですか?」
「ははは、問題ありません。武は呼吸です。つかれるようではだめなのですよ?
棒術はそれが基本です。」
「そうかー、そこらへんはやっぱり無知なんだ。教えてもらえますか?」
「ええ、喜んで。」
「そうなると、ワイプさんも師匠になるね。」
一歩引いて礼をする。
「ワイプ師匠、よろしくお願いいたします。」
「ふはははは!よろしい!では、始めましょう。」
「ふん、片付けが終わるまでだ。愛しい人、隙あらば殺してもかまわない。
そいつは極悪人だ。」
「はーい。」
「ほら、ルグ、ドーガー、あの2人の動きを見て
自分も同じように動けるなら参加してこい。
まだ早いと思うなら、片付けを手伝え。」
「「手伝いさせてもらいます。」」
12
お気に入りに追加
369
あなたにおすすめの小説
義弟の婚約者が私の婚約者の番でした
五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」
金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。
自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。
視界の先には
私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。
私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ
Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」
結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。
「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」
とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。
リリーナは結界魔術師2級を所持している。
ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。
……本当なら……ね。
※完結まで執筆済み
【R18】幼馴染の男3人にノリで乳首当てゲームされて思わず感じてしまい、次々と告白されて予想外の展開に…【短縮版】
うすい
恋愛
【ストーリー】
幼馴染の男3人と久しぶりに飲みに集まったななか。自分だけ異性であることを意識しないくらい仲がよく、久しぶりに4人で集まれたことを嬉しく思っていた。
そんな中、幼馴染のうちの1人が乳首当てゲームにハマっていると言い出し、ななか以外の3人が実際にゲームをして盛り上がる。
3人のやり取りを微笑ましく眺めるななかだったが、自分も参加させられ、思わず感じてしまい―――。
さらにその後、幼馴染たちから次々と衝撃の事実を伝えられ、事態は思わぬ方向に発展していく。
【登場人物】
・ななか
広告マーケターとして働く新社会人。純粋で素直だが流されやすい。大学時代に一度だけ彼氏がいたが、身体の相性が微妙で別れた。
・かつや
不動産の営業マンとして働く新社会人。社交的な性格で男女問わず友達が多い。ななかと同じ大学出身。
・よしひこ
飲食店経営者。クールで口数が少ない。頭も顔も要領もいいため学生時代はモテた。短期留学経験者。
・しんじ
工場勤務の社会人。控えめな性格だがしっかり者。みんなよりも社会人歴が長い。最近同棲中の彼女と別れた。
【注意】
※一度全作品を削除されてしまったため、本番シーンはカットしての投稿となります。
そのため読みにくい点や把握しにくい点が多いかと思いますがご了承ください。
フルバージョンはpixivやFantiaで配信させていただいております。
※男数人で女を取り合うなど、くっさい乙女ゲーム感満載です。
※フィクションとしてお楽しみいただきますようお願い申し上げます。
完結 R18 媚薬を飲んだ好きな人に名前も告げずに性的に介抱して処女を捧げて逃げたら、権力使って見つけられ甘やかされて迫ってくる
シェルビビ
恋愛
ランキング32位ありがとうございます!!!
遠くから王国騎士団を見ていた平民サラは、第3騎士団のユリウス・バルナムに伯爵令息に惚れていた。平民が騎士団に近づくことも近づく機会もないので話したことがない。
ある日帰り道で倒れているユリウスを助けたサラは、ユリウスを彼の屋敷に連れて行くと自室に連れて行かれてセックスをする。
ユリウスが目覚める前に使用人に事情を話して、屋敷の裏口から出て行ってなかったことに彼女はした。
この日で全てが終わるはずなのだが、ユリウスの様子が何故かおかしい。
「やっと見つけた、俺の女神」
隠れながら生活しているのに何故か見つかって迫られる。
サラはどうやらユリウスを幸福にしているらしい
伯爵様の子供を身篭ったの…子供を生むから奥様には消えてほしいと言う若い浮気相手の女には…消えてほしい
白崎アイド
ファンタジー
若い女は私の前にツカツカと歩いてくると、「わたくし、伯爵様の子供を身篭りましたの。だから、奥様には消えてほしいんです」
伯爵様の浮気相手の女は、迷いもなく私の前にくると、キッと私を睨みつけながらそう言った。
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる