いわゆる異世界転移

夏炉冬扇

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157:師匠

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月が沈む少し前に、彼女は起き出した。
家で身支度は済ませたようだ。

「おはよう、マティス。ごめんね、あのまま完全に寝ちゃったね。
マティスは?みんなも寝てないの?」
「ああ、うまい飯と、酒があったからな。それに移動の練習をしていた。
呼び寄せは問題ないが、自分が移動するとなると、すこしまごつくな。」
「そうなの?しんどくないんならいいけど。
自分の移動ね。んー、ああ、自分の姿かたちを把握してないからだよ、きっと。
脱衣のところに部屋にある鏡置いとくよ。それで、自分の姿を見たらいい。
あ、朝ごはんどうする?わたし作っておこうか?」
「いや、ここで、焼くだけでいいようにしている。
お前はコーヒーを入れてやってくれ。」
「うん、あ、先にお湯だけ浴びといで。歯磨きも。
さすがに酒臭いよ?」
「そうだな。ほら、風呂場に行くぞ。
そこに鏡がある。それで自分の姿を見てみろ。こけるなよ。」

「鏡ですか?あの家にあった?」
「ああ、もっと大きなものだ。さ、行くぞ。」



全身が映るものはセサミナも初めてだったようで、
体の薄さを気にしていた。
ルグとドーガーは筋肉の付き具合を確認していた。
むさいの一言しか言えない。
ワイプの落ち込みようはひどかった。
慰めようがない。

歯ブラシを配り、これは毛に使う材料を、草原ではないところから探すようで
すこしおくれていると言っていた。多少遅れてもそのほうがいいだろう。
着替えは最初に着ていたものをきれいにしてあるので、それを着てもらう。


戻ると彼女はエプロンをしてコーヒーを入れていた。
なにか、ぐっとくるものがある。
クッションはなくなりまた、テーブルと椅子が並んでいる。

「ん?ワイプさんどうしたの?」
「ああ、全身をな、よく映る鏡でじっくり見たんだ。そういうことだ。」
前髪を下ろしていたのだ。
「なんだ。へたに後ろの毛を前にするより、後ろに撫でるほうがいいよ。
知的な感じがするもの。この中で一番学があるって感じがするしね。」
「知的ですか?それはそうです。しかし、、」
「うーん、でも、気にすると余計にだめっていうしね。
ちょっとここ座ってみ?」

彼女がコーヒーを置いて、自分の前の椅子に座るようにいう。

「ちょっと触るよ。こうね、髪だけでなく頭皮をこう揉むと。
ま、お風呂にはいって、ゆっくりして、疲れをとって
おいしいもの食べたら、これ以上進まないと思うし、
それに頭の形がいいから、スキンヘッド、丸坊主もいいかも。
ワイプさんだったら絶対に合うね。これ、気持ちいいでしょ?」

まっさーじをしてやっている。後ろから頭だけだから許すが、それ以外だったら殺だ。

「これは気持ちいですね。マティス君?なんか刺さります。」
「マティス?ほら、朝ごはんつくって?
マティスには今度スペシャルでしたげるから。耳掃除付きで。」
 「イエス!マム!」

ご機嫌に焼いていく。ワイプのは少し焦げたが問題ない。
花の蜜と、樹脂蜜も好きなだけ掛けれるようにおいた。
しょっぱい肉も、カリカリに焼く。卵は崩すように。マヨネーズも入れる。

「はぁ、モウ殿。これは素晴らしいですね。こう、血が巡るのが分かります。」
「なかなか自分ではできないけどね。ああ、そうだ、あとでいいの作ってあげるよ。
ほかのみんなにはジットカーフでいい上着があったから、王都に行くのに
かっこよく着てもらおうと思って準備したんだけど、ワイプさんの作れなかったから。」
「上着ですか?それはあまり興味がわきませんが、モウ殿の作ってくれるのののほうがいいですね。」
「姉さん?上着って?」
「ああ、あとだ、さ、できた。ルグとドーガー、並べてくれ。」

「この組み合わせはいいですね。いくらでも入る。」
ドーガーがかなりの興奮気味で食べている。
「そうだね、それが怖いよね。
ドーガー?覚えておかなくてはいけないよ?
甘いものとしょっぱいもの、この2つの欲望には勝てないだ。
だからその時は抵抗しない。受け入れるんだ。」
「はい!」

彼女とドーガーは時々おかしな会話を始める。
ワイプが黙っているのはすでに受け入れているからだ。
多めに焼いておいてよかった。かってにとっていってくれ。

「はー、月が沈むと同時にこれほどのものが食べれるとは。
ありがとうございます。
ああ、モウ殿、出発前に手合わせをお願いしたい。棒術で。」
「おお!棒術!マティス!いい?ワイプさん、棒術の師匠はマティスなんだ。」
「ああ、思いっきりな。」
「はい、マティス師匠!あ、その前に、上着だすね。」
テントに戻り少ししてから、戻ってきた。
上着を置くと、またテントに戻り、籠にいれた茶葉を持ってきている。
「スーとホー達にも朝ごはん出さなきゃ。赤馬たちにも。
お茶飲まなかったから、昨日の分と今日の分。
なんか、すごく増えてた。これあげて来るね。
マティスは服の説明してあげて。じゃ、行ってくる。」
彼女が馬たちのほうに走っていく。

「マティス君が師匠と呼ばれているのがいささか、むかつきますね。
手合わせ後はワイプ師匠となるでしょう。うむ、これはいいですね。」
「はっ!いってろ!逆にお前が彼女のことを師と仰ぐことになるぞ?」
「棒術の何たるかを知らぬものが師匠と呼ばれるのがおかしいということですよ?」
「槍と棒の違いだけだ。」
「そこからがおかしい、そもそも、、、」





「おはよう!あ、お水だいぶ減ってるね?
入れておくね。冷たいの。これは2番茶、3番茶ね。どうぞ。
月無し石君たちは?もういい?じゃ、ふきふきしてから袋に戻ろうか?」

石をふきふきしながら腰の袋に入れていく。
いまはわたしのほうにすべて入ってる。またあとで、半分はマティスの方に移動してもらう。

「え?おいしい?サボテンと同じ?そりゃよかった。
これから王都に行く間に変なのが湧くんだって。
気を付けてね。みんな強いから大丈夫だから。危なくなったらすぐ逃げて?
そっちのほう助かるかるから。お願いね。」

戻るとなぜかマティスとワイプさんが手合わせをしていた。
槍と棒だ。
ルグとドーガーが真剣に見つめている。

「さきにやってるの?」
「ええ、いろいろありまして。」
「ふーん。」

今のうちにヘッドマッサージャーを作るかな。熊手タイプの先端にボールがついてるやつ。
あとツボ押しグッズ。事務職は疲れるからねー。砂漠石でつくっちゃおう。
で、こっそり癒してもらうと。おお!パワーストーン系?まじもんの!!

「姉さん?上着の説明がないままはじまったので、これは?」
「ああ!そうなの?えっとね、紫の襟がセサミンで、赤の襟がルグとドーガー。
ジットカーフの新作の上着で砂漠トカゲを染めたものを付けてもらったの。
トックスさんって人の店。タロスさんも頼んでたところ見たい。趣味がいいんだ。
内側にもトカゲの皮がついてるの。ポッケになってるから。
あ、これ、各自専用の秘密ポッケにしてあげるね?内緒だよ?
ね?着てみて?」

ルグとドーガーもこちらに着て、袖を通していく。サイズはあってるね。
うん、かっこいい!!

「いいね!さすが、トックスさん!大元の意匠はマティスだよ?
ああ!ここに来て王子様キャラが出て来るとは!!目福!目福!
瞳の色がますます映えるね。
ルグとドーガーの赤は赤い塊の赤ね。わたしの心の部下だからね。お揃い。」
「姉さん!すごくいいですね。タロスの着道楽は有名です。
その服を手掛けていた方の服というのは、さすがとしか言いようがありません!!」
「奥方様!感無量です!!」

寒くなったとき用の襟巻も渡す。
こどものように頬ずりしている。わかるわー。

「あ、わたしの今回の赤い塊の服も着て来る。ちょっと待ってて。」

部屋に戻って、ぴちぴちボディースーツを着ようとしたのだが、
これって、着てる状態を呼べばいいのかな?ハニー〇ラッシュみたいな?



できた、すごいねー。

テントから出ると、3人の拍手喝采が起きる。
ちょっとカッコつけてターンしてみる。
それに気付いたマティスが、素早くこちらに戻ってきた。

「愛しい人、素敵だ。ああ、誰にも見せたくない。
上着は脱いではいけないよ?」
「でも、脱がないとやぱり動きにくいよ?そんなにやらしくないからいいんじゃないかな?」
「マティス君、逃げるとは卑怯な!」
「逃げていない。お前との手合わせ終わりが見えない。
死んでもいのならまた違うが、いまはいくらやっても同じだ。」
「それもそうですね。では、モウ殿?やりましょうか?」
「ぜひ!でも、続けてやるのは大丈夫ですか?」
「ははは、問題ありません。武は呼吸です。つかれるようではだめなのですよ?
棒術はそれが基本です。」
「そうかー、そこらへんはやっぱり無知なんだ。教えてもらえますか?」
「ええ、喜んで。」
「そうなると、ワイプさんも師匠になるね。」

一歩引いて礼をする。
「ワイプ師匠、よろしくお願いいたします。」

「ふはははは!よろしい!では、始めましょう。」
「ふん、片付けが終わるまでだ。愛しい人、隙あらば殺してもかまわない。
そいつは極悪人だ。」
「はーい。」
「ほら、ルグ、ドーガー、あの2人の動きを見て
自分も同じように動けるなら参加してこい。
まだ早いと思うなら、片付けを手伝え。」
「「手伝いさせてもらいます。」」

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