143 / 869
143:極悪人
しおりを挟む月が沈むと同時に街道に出て、
背負子にも重さを与え、進んでいく。
街道に出る前に月無し石に問いかければ5つほど残るそうだ。
多いね?と彼女が聞くと、ここを拠点にラーゼムまでを含めるからだそうだ。
彼女は範囲が広いと人材補充か、ほわいとだねーと感心していた。
帝都への街道なので、人の行き来がある。が、皆、馬を使っている。
歩きで帝都を目指しているのは私たちだけだ。
「みんな見ていくね。コムの村でも思ったけど
服が特徴的なのかな?ちらちら見ていくね。」
タロスから譲り受けた服を着た彼女は一見、男に見える。
あの豊かな胸元も、ゆったりした服の下ではわからない。
この服以外だと、ちらちらどころではなく、
皆が馬車を下りて、眺めていくだろう。
「砂漠に近いコットワッツは通気性の良いものを
ゆったり着るが、ここら辺は寒い、体の体温が逃げないように
ピッタリなものを来て、毛皮を着る。
この時期には毛皮を着ないから、体に密着した服が多い。
私たちみたいにゆったりとした服を着ているのが珍しいのだろう。」
「へー、物知りだね。」
「騎士団の仮入団時代にいろいろ教え込まれた。
屋敷で教えてもらう座学よりもその土地で教えてもらったことのほうが
よく覚えている。」
「ほかにどこ行ったの?」
「北西のジットカーフ、北のイリアス、東のナル-ザ、南のルポイドだ。
砂漠を挟んだ向こうのドルガナは敵対関係だ。
砂漠は誰の領土でもない。周りが自国ならそうだが、
サボテンの森があった砂漠は5つの国に囲まれている。
デジナは山を挟んだ向こうだから4つか。
石の収穫量でもめてな。サボテンの森から向こうでは
石を取らないという取り決めになったんだ。
父の代でな。
会わずの月の前の日で往復できる距離だ。
それでよく承諾したと思ったが、
範囲が狭いのに収穫高はコットワッツが群を抜いていてな。
それから揉めたんだ。
最初にルポイドが、それからドルガナ。
ドルガナも自国内に砂漠があり、それなり砂漠石はとれていたから
広い砂漠に対して収穫が少ないことに不満があたんだろう。
今思えば。砂漠の中心、石の原石があるところが、サボテンの森近くだったんだな。
それに近いナルーザとは揉めていない。
そのナルーザを抜けて、南の海に面しているリリクだ。そこは南の未開の地に面しているので
対野獣盗伐があったんだ。」
「へー。んと、今は西に向かって?その上が北?」
「あははは、地図がないと理解はしにくいな。
帝都で売っているかもしれんな。かなり高額だと思うが、見つけたら買っておこう。」
「そうだよ!地図!それを買おう。あと図鑑みたいなのないの?
動物の絵とか、植物の絵が載っていて、解説がついてるような。」
「はははは、それは院扱いだな。だが、誰もが字を読めるようになれば
本も普及してそういうものも出回るだろう。今度セサミナに教えてやれ。」
「んー、でも、きっと誰かが気付くよ。わざわざ教えることでもないな。
そこまで、わたしはいい人でもないから。セサミンが悩んでいたら知ってることがあればね
答えるけどね。」
「セサミナが言っていた。
お前をを捕えてしまう。その英知を絞りと取ってしまう。
領民のためだという大義名分でな。
でも、お前は姉なのだからできないとな。」
「あははは、その答えで十分だよ。」
月が昇ると、街道の横に少し大きな広場で、馬に水をやり
ここで宿営するのだろう。火を起こしている。
その馬車が数台あった。
そこの居た男たちの視線が刺さる。
(お前は声を出すな)
(え?うん、わかった。
ここで、みんな泊まるんだね。砂漠がなくても夜は進まないか。)
(そうだな。ここで、水の補給と食事をしてから進もう。
走り込んこんでも誰も街道にはいまい。いたとしても盗賊だ。
どうなろうとかまわんだろう。)
(マティス!かっこいい!!)
井戸があり、そこから水を汲む。
彼女が言うにはコウスイだと。これはからだにいいが、味はいまいちだそうだ。
彼女の出す水になれたらそうなるだろうな。
合わさりの月に近いので夜と言えどとても明るい。
干し肉とパンを食べ、背負子を背負い込むと、
一人の男が声を掛けてきた。
(お前は声を出すなよ)
「おい!あんたたちは今から街道進むのか?」
「ああ、できるだけ早く帝都に行きたいのでな。合わさりの月の前だ、明るさは問題ないしな。」
「あわさり?ああ、重なり月のことだな。
国境近くでもそういうな。帝都に近いこの辺りでは重なり月というんだ。
その服装は見ないな。ということはニバーセルから来たのか?」
「そうだ、よくわかったな。ニバーセル、コットワッツの砂漠の民だ。ここでは重なり月というのか?」
「そうだ。砂漠の民か。それが帝都に行くのか?」
「海に出るつもりだ。夜に街道を進むことはジットカーフでは禁止なのか?」
「いや、そんなことはない。国によって月の呼び名が違うが、
どこでもそんなことは禁止なんぞしないさ。
それに、これも同じだろ?盗賊に襲われても自己責任ってことさ。本人の自由だ。」
「ああ、そうだ。なら、襲った盗賊をどうしようとこれも問題ないな?」
「あははは、それをわかっているのならいい。
夜の街道を抜けれるのはよっぽど腕に自信があるか、盗賊に合わない運のいい奴かどっちかだ。」
「運のいいことを祈るよ。」
「・・・警告はしたぞ。」
「では、失礼する。」
彼女を促し、広場から街道に戻る。
(警告って?)
「ああ、もういいぞ。さあな、親切心なのか、街道に出られると追わないと襲えないから
あの広場に止めたかったのか、わからんな。」
「あー、そっちもあるのか。なんせよあそこで泊まるのは無理だよ。」
「あははは、臭いだな?魚をはこぶ荷馬車だったな。
コムに行くのか、ほかの村に行くのか。
言われてみれば気になったな。」
「そうでしょ?あー、だめだ。」
「ますくといったか?あれをするか?」
「赤い塊と間違われない?」
「赤い服で、口元を覆っていたらそうなるが、大丈夫だろう。
砂漠風がひどいときは口元を覆うんだ、それにこの服を見て砂漠の民とは気づかなかったが、
砂漠の民は知っているようだ。砂漠の民の装束だと言えば問題ないだろう。」
「おお!いいねそれ。黒いの目立つから、
あ、肌触りのいい絹にしておこうか?そういえば、この絹は、どんな方法で作られてるの?」
「蚕だ。」
「あ、いっしょ。桑の葉?」
「そうだ、よく知っているな。絹糸はナルーザの名産品だ。他の国は糸を買い製品にする。
2番目の兄スチックの繊維工場では綿製品のほうが多い。
絹製品はコットワッツとおなじ領国でナルーガに近いフレシアのベースという街で作っているな。」
「その大きさは?蚕と桑の葉の。」
「桑の葉は手のひらぐらいかな?詳しくはないが、それぐらいだったと思う。
蚕は見たことはないな。蚕が桑の葉を食べて糸を産むとしか。」
「産む?吐き出すとかではなくて?」
「ああ、産むと聞いた。蚕はナルーザでは神扱いだ。謎が多い」
「ああ、お蚕様ね。」
「!よく知っているな。そう呼ばれている。
ニバーセルの妖精様、ナルーザのお蚕様、どちらも美しいという例えだ。」
「あー、あんまり見たくないな。うん。」
「コットワッツ、砂漠の民のモウ様が一番だがな。」
「もう!」
ここまで、小走りで進んでいる。
準備運動だ。ここから速度を上げ、少し落とす、上げる、これを続ける。
何も道具はいらない一番手軽な鍛錬だ。
負荷も当然かける、これも重くしたり軽くしたりだ。
「そろそろ、速度を上がるか?」
「はーい。」
「ああ、その前にお客さんだ。」
「え?・・・あ、蹄の音だ。ほんと耳いいね。」
「どうする?」
「どうとは?」
「3頭の馬だな。ああ、ひとも3人だ。
あの場にいたもの半分だな。お前が相手をするか?
複数人で、殺さずにだ。気を膨らませずに、体術だけで。」
「なるほど。やってみるね。じゃ、棒術でやってみる。
師匠、我が鍛錬の成果をご覧ください。」
「ああ。」
これは彼女の師の対戦相手の技で、こんなのもできると披露してもらった。
これはさすがに動きが甘かったが、そこからは鍛錬を重ねなかなかなものになったとおもう。
彼女にこれの師はマティスだねと言われたときはうれしかった。
馬が3頭並んでくればかなりの地響きだ。
コム産の馬なのだろう。どれもよい馬だ。
「やっと追いついた!砂漠の民ってのはこんなに足が速いのか?」
「いいじゃないか、追いついたんんだ。」
「おい!その重そうな荷と女を置いて行け。隠してもわかるんだよ!」
なんと、さすがに隠し切れないものがあったか。
やはり口元を隠さなければならないな。
「警告しただろ?あの場にいれば荷だけで済んだのにな。
離れるから、女が危険な目に合うんだ。」
「では、あの場にいればの荷だけで済んだのか?」
「まぁ、そうだな、荷を奪うのはだれも文句はねえが、女を襲うのは嫌がる奴らがいるからよ。」
「荷を奪うことは認めて、自分たちの居ないところでやれば文句は言わないだけだから同罪だな。」
「夜に街道を進むからだよ。運のないあんたたちが悪いのさ。」
「あの場に泊まっても荷はとられるのだろう?」
「死ぬよりましってことさ。」
3人が馬を下りて笑いながら近づく。
「ティス?もういい?」
「ああ、殺してもいい。向こうがそう来たんだ、かまわんさ。」
「うん、わかった。これが初だよ。」
「そうか、相手に非があるほうが、後が楽だ。」
「なるほど。では!」
「おいおい、女に、ぶげっ!!」
踏み込む彼女に顎を砕かれる。
その返してで、腹もつく。
残り2人は少しは腕に覚えがあるのか、素早く間合いが取るが、
彼女の跳躍を考えれば、近い。むしろ良い位置だ、彼女にとって。
ナイフでとびかかるが、上空はダメだ。ほら、下から払い上げられ、
そのまま、肩を砕かれる。
最後の一人は、槍術のようだ。彼女が受けるが、
鍛錬にもならない。4、5回合わせて、槍を上空に
そのまましりもちをついた男に先端を突き付けた。
気を失ったようだ。
「よくやったな。が、相手が弱すぎる。
それに、生かしておくのか?」
「うん、もうちょっと悪人じゃないと、だめかな?」
「そうか、次は極悪人がいいな。」
「ふはっ!どっちが極悪人なんだ!」
馬3頭にそれぞれ乗せてやり、戻るように促すと、かなり文句を言われたようだ。
彼女がなだめながら、話を聞いてやっていた。
戻るのは残した仲間だけで荷を引かすのが悪いからいいのだが、
こいつらを乗せるのは勘弁してもらいたいとか。
しかし、置いていって君たちだけで戻ったら、また、ここに戻って
様子を見に来るんじゃないか?とか。
そうなると荷の匂いがどんどんひどくなるから、仕方がないと納得したようだ。
馬もあの匂いが嫌なようだ。
氷も入れているが、ここにつく前に溶けてしまうらしい。
3頭を見送り、鍛錬を開始した。
走りながら彼女との手合わせはなかなかのもで、
彼女は地形をうまく利用して飛び込んでくる。
私ももっと鍛錬しなければいけないと感じた。
13
あなたにおすすめの小説
魔界建築家 井原 ”はじまお外伝”
どたぬき
ファンタジー
ある日乗っていた飛行機が事故にあり、死んだはずの井原は名もない世界に神によって召喚された。現代を生きていた井原は、そこで神に”ダンジョンマスター”になって欲しいと懇願された。自身も建物を建てたい思いもあり、二つ返事で頷いた…。そんなダンジョンマスターの”はじまお”本編とは全くテイストの違う”普通のダンジョンマスター物”です。タグは書いていくうちに足していきます。
なろうさんに、これの本編である”はじまりのまおう”があります。そちらも一緒にご覧ください。こちらもあちらも、一日一話を目標に書いています。
男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜
タナん
ファンタジー
オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。
その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。
モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。
温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。
それでも戦わなければならない。
それがこの世界における男だからだ。
湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。
そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。
挿絵:夢路ぽに様
https://www.pixiv.net/users/14840570
※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
【完結】大魔術師は庶民の味方です2
枇杷水月
ファンタジー
元侯爵令嬢は薬師となり、疫病から民を守った。
『救国の乙女』と持て囃されるが、本人はただ薬師としての職務を全うしただけだと、称賛を受け入れようとはしなかった。
結婚祝いにと、国王陛下から贈られた旅行を利用して、薬師ミュリエルと恋人のフィンは、双方の家族をバカンスに招待し、婚約式を計画。
顔合わせも無事に遂行し、結婚を許された2人は幸せの絶頂にいた。
しかし、幸せな2人を妬むかのように暗雲が漂う。襲いかかる魔の手から家族を守るため、2人は戦いに挑む。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる