127 / 869
127:威嚇
しおりを挟む「ワイプ!ワイプ!起きろ!」
足先でつついてみる。
活を入れた瞬間戻されても困るからだ。
「ほら!」
「ん、はっ!」
すぐに体制を起こし間合いを取る。
口元を押さえているが根性で抑え込んだようだ。
「冷たい水を出した。これを飲め。」
「マティス君、黒い塊は?」
「うぬ、色は認識できたのか?黒い?ほかには?」
「わからない!このわたしが恐怖?違う!死を覚悟した!それも違う!死んだと!!」
「ああ。ならいい。お前が威嚇なんぞするからだ。相手を見てすることだ。」
「あれはマティス君だったんですか?ああ、なら納得です。
わたしの鍛錬不足ですね。もっと頑張らねば。」
「戻さないのはさすがだな。」
「それはあり得ない!しかもこの食事に対しては絶対です!!」
「そうか、さ、それでも口の中は気持ち悪いだろ?
水を飲め。」
「ああ、ありがとうございます。あ、冷たくておいしい。
水もこんなにおいしのですね。スーとホーもこの水だったら喜ぶかな?」
「それはどうだろうな?あとで、モウに出してもらえ。あ、モウ、来たか?」
「はい、あのワイプさん?」
「あ、奥さん、目が覚めたんですか?どうしました?」
「彼女も気の動きが”多少”わかるんだ。」
「そうでしたか!では驚かれたでしょう?ちょっとおふざけが過ぎました。
威嚇のつもりが本気以上のもので制されましたよ?」
「ほら、モウ、大丈夫だから。」
「ああ、怯えさせてしまたんですね。申し訳ない。」
「あの、大丈夫なんですか? 」
「ええ、大丈夫ですよ。あ、おいしい水をいただきまして、すっきりです。
奥さんはこれ以上においしいお水をお持ちとか?いただけますか?」
「出してやってくれ。」
一応テントに戻り、コップを二つ持ってきた。
「これです。馬たちにはこれを飲んでもらいました。」
「ほう?・・・これは怒るはずだ、これを捨てたのですね。
で、この味の水を出せと?・・・無理だ。」
「いえ、そこまでいってませんよ。おいしい水、湧き水とかでいいんじゃないでしょうか?」
「そうですか、約束ですものね。このワイプ約束はたがえません。」
「それで?話の続きだ。モウ、お前も聞いておけ。
気は押えろ。膨らませもするな。
鍛錬と思えばいい。」
「奥さんも鍛錬されてるんですか?それまた素晴らしい、鍛錬は、、、」
「いいから!モウ、押さえろよ?
ダードに依頼されたんだろ?始末してこいと。」
彼女は驚いた顔は見せたが、気はそのままだ。
えらいぞ!
「ええ、そうなんですよ。面倒この上ない。
わたしはもう、暗部でもないし、そもそも暗部なんてない。時代遅れだ。
しかし雇われの身、一応片目片腕の男が領主の近くにいたら拘束しますとね。
でも、いないし、はんばあぐはないしで、そもそも始末って何ですか?
そんなことを言って実行すれば大審判に掛けられたら本人も同罪ですよ?」
「大審判も押さえれる自信があるのだろう。」
「えー、大審判、天秤院もですか?あー、ありえそうですね。
なにがしたいんだ?ダードは?」
「相続がらみで、上2人の兄にそそのかされたかして3番目の兄リップルが
私を石の力で始末しようとしたんだ。だが、失敗して血殺しの反動で本人が死に
リップルの母君に恨まれている。だから、伯父にあたるダードが絡んでくるのはわかるが、
コットワッツの資産にまで目を付けているとなるとまた違った話だ。
ワイプ、変動の話は知っているのか?」
「ああ、あの揺れ、コットワッツの砂漠が枯渇したんでしょ?振動は王都まで来てましたよ。
驚きました。」
「前もって知ってたんじゃないのか?」
「それはないですよ。知っていたら、豆のスープをこぼしたりするものですか!」
「そうか、天文院は把握している。800年に一度だそうだ。
お前だから言うが、当然砂漠を有する辺境領主のセサミナも知っている。
ただ、800年目が今年だとは知らなかった。あと2年の猶予があると天文院から
教えられていたそうだ。中央院の指示でな。
変動があれば、砂漠の資源は枯渇する。
代々それを知っているコットワッツの領主は王都に知られぬよう砂漠石を少しずつ蓄えていた。
それが年予算の20年分だ。それとメディングの資産とを賭けてセサミナが勝ったんだ。
それが譲渡の理由だ。余程自信があたんだろう、真名の宣言の書式で交わした。
これだけはどうやっても逃げられない、言い逃れできない。
譲渡はされる。だが、そのあとだ、持ち帰りの方法にケチをつけるかもしれない。
だからその場にお前が立ち会ってほしい。セサミナは正々堂々持ち帰るだろう。
その方法は何でもいいはずだ。それを認めてさせてほしい。」
「ええ、それはもちろん、そう約束しましたし、約束するほどのことでもないような気がしますが?」
「お前も甘い、辺境といえど、20年分のリングだぞ?
それを目の前に積み上げて、10数えるうちにどうぞ、それ以降は無効ですなど言われてみろ、
一握りのものしか持ち帰れない。そのまま資産院に預けるにしても、いったん持って帰れと言われたら?
なんとでもいえるだろう?」
「ああ、、なるほど、そうですね。
うーん、権利を主張する?これはセサミナ殿のものだから、時間制限云々はおかしいとか?」
「それもだめです。セサミナ殿のもの?ならばセサミナ殿一人でお運びください、とかね。」
「あー、奥さん、すごいですね。それより、20年分をそろえるのにどれだけ時間がかかることか!
職員総出ですよ!」
「100個のものは80個、
5000リングは3857リングというくらいい加減なんじゃないんですか?」
「5000リング聞いた数字ですね。ああ、メディングの手合わせの賭けの賞金ですね。
早馬で知らせがあって、急遽用意しましたよ、我々資産院が。5000リングと1000リング分相当の砂漠石を」
「それはどうやって?」
「え?リングは、箱を用意して、そこにこれぐらい?というような。
1000リング分の石は変動しますが大体大きさで決まっています。」
「うわー、塩一つまみみたい。20年分もそんな感じ?」
「まさか!自分の資産を引き出すのと、譲渡では違いますよ、1リングまで数えます。
それこそ、1つ1つ。あとで足りないなど、資産院の恥です。」
「足りないなんて、あとで、何とでも嘘が言えるのでは?」
「それこそ、大審判に掛けられればわかることですよ。」
「いい加減なようできっちりしてるね。じゃ、セサミンがもらうのはきっちり20年分なんだね。よかった。」
「せさみん、先ほども、あの甘いもの2つはその方のところで食べられるとおっしゃってましたね。
ああセサミナ殿のことですね、なるほど、義弟となるわけか。ああ、楽しみだ。
それで、5000リングが3857リングというのは?」
「お前は本当に食い物と数字のことしか興味がないのだな。5000リングの賞金を数えたら
3857リングだったんだ。」
「それはすくなかったですね。え?数えたんですか?なんともご苦労なことで。
ん?賞金はマティス君がもらったんですか?
ん?まさか強奪したとか!!これは拘束ものですよ!面倒なのでしませんが。」
「そこは働け。いや、違う。はぁー、護衛同士が手合わせして、勝ったほうが賞金をもらうという話は
知ってるんだろ?」
「ええ、もちろん。5000リングと石を運んだのはわたしの配下です。
戻ってきてえらい興奮してましたよ?
で、あれでしょ?メディングの女護衛2人と領主殿の高原の民の護衛。
あ、見たんですか?話を聞く限りなかなかのものだったらしく、これには私も興味が出ました。
もう一人の王都の人間は中央院の者なんですが、その高原の民、男性もいたようで、
その2人を探しに来たんですよ。聞かれたでしょ?ほんとは秘密裏にってことなんですが、
街の人に聞きまくってましたからね。ここで話しても同じでしょ。
領主殿のもとは離れていて、なんでもお金で動くとか。
いいですよね?その考え。で、その2人から奪ったと?」
「・・・ちがう、その2人が私たちだ。手合わせをしたのはモウだ。さっきお前を失神させたのも、モウだ。」
「え!!奥さんが?それより、あなた方、砂漠の民では?高原の民の赤い服を着てないじゃないですか?」
「ふふふ、高原の民、2人はずっと赤いあの服を着なくてはいけないの?
ワイプさんも高原の服を着れば高原の民に見えるし、
砂漠の民の服を着れば砂漠人になりますよ。それと、さっきはごめんなさい。
威嚇と本気の区別がつかなかった。精進します。」
「なんと、そうですか、ああ、なるほど、言われてみればそうですね。あははは、その中央院の男、
赤い服を着た人間を片っ端から問い詰めていましたよ。
しかし、奥さんがあの女護衛を。はー、わたしもまだまだ鍛錬しないといけませんね。
あの2人もの鍛錬を見たことは有るのですが、さほど力があるとも思えなかった。
しかし、試合や実際の格闘では常に勝利していたんですよ。本番に強いのだと思っていました。」
「広場で、皆に見られながらの手合わせだったのでいつもの実力以上のものが
でなかったんでしょうね。」
「ああ、うまいことをいいますね。そう思っておきましょう。」
「ええ、お願いします。」
14
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
魔界建築家 井原 ”はじまお外伝”
どたぬき
ファンタジー
ある日乗っていた飛行機が事故にあり、死んだはずの井原は名もない世界に神によって召喚された。現代を生きていた井原は、そこで神に”ダンジョンマスター”になって欲しいと懇願された。自身も建物を建てたい思いもあり、二つ返事で頷いた…。そんなダンジョンマスターの”はじまお”本編とは全くテイストの違う”普通のダンジョンマスター物”です。タグは書いていくうちに足していきます。
なろうさんに、これの本編である”はじまりのまおう”があります。そちらも一緒にご覧ください。こちらもあちらも、一日一話を目標に書いています。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
俺の伯爵家大掃除
satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。
弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると…
というお話です。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる