マグナムブレイカー

サカキマンZET

文字の大きさ
上 下
157 / 169
第4章 覇気使い四天王。

第157話 月の暴走。

しおりを挟む
「おい……冗談……だろ……? また……いつもの悪ふざけだろ……」

 今、直観している現実が理解できず、納得できず、受け入れずにいていた。
 もしかしたらと、その弾丸はペイントが入っているドッキリなのではかと、実はゴム弾で頭に接触すると血糊が出る仕組みではないかと、期待していた。

「!」

 虹矢の事は目に入らず、フラフラと桐崎へ接近し品川はへたりこむ。
 そして脱力された左手に両手で優しく触れた。
 左手は氷みたいに冷たく、ゆっくりと体温が下がっていくのを感じた。
 実感してしまった。身体から魂が抜けていく感覚、徐々に冷たくなる肉体、そこで失われた感情。
 全て初体験で、心は悲しみ、苦しみ、喪失に支配されていた。

「これって……現実……かよ……」

 死を受け入れられない品川は現実を疑う。

「残念だが、これは現実だ」

 虹矢による残酷な言葉により、品川の中にある何かが崩れた。
 品川が茫然自失している最中、虹矢は次を決めていた。

「次はお前だ。品川修二」

 それは品川だった。

「うおぉぉぉぉッ!」

 怒りの形相で吹雪は叫びながら虹矢へ勢いよくタックルした。
 タックルされた虹矢はバランスを崩し、吹雪は馬乗り状態となった。

「テメェ、ふざけんじゃねぇ! この野郎!
この野郎! この人殺し野郎がぁッ!」

 吹雪は怒涛の勢いで、虹矢の頬目掛けて交互ずつ殴り続ける。
 もはや覇気なんて使わず、人間として殺意のみで虹矢を倒そうとしていた。

「うぐっ!」

 更に発砲音が響いた。次に被害を受けたのは吹雪だった。
 どうやら腹部を至近距離で撃たれ、猛烈な痛みと火傷を感じ、虹矢から仰け反る形で離れた。

「吹雪……?」

 無気力で負傷した吹雪を見る品川。

「品川修二、これは貴様が決断した結果だ。その目でよく見ておけ」

 虹矢は次に吹雪へ向けて発砲しようとした。

(おい、またかよ……次は吹雪かよ……)

 品川の思考は色々と入り交じっていた。
『やめろ、早く逃げろ、また大切な者が失うのか? 殺せ、全て消し去れ、邪魔な物を全て……壊せ』と心の何処から響いていた。
 その黒い感情に影響されたのか、品川の右腕がピクリと動いた。

「覇気使いが死ぬとどうなるのか分からないが、貴様で試してみるか」

 虹矢は撃鉄を起こし、吹雪へ向けて発砲した。
 発砲された弾丸は途中で何者かに握られた。

「?」

 虹矢は品川の手かと思った。が、手だとしても異質過ぎていた。
 深い漆黒色の竜鱗に覆われ、変色した今紫色の腕だったからだ。
 よくよく見れば鉤爪かぎつめとして形成されていた。

「誰だ。お前は!?」

 虹矢が驚くのは無理もない。何故なら、品川の姿ではなく。
 ドラゴンをモチーフとさせたフルフェイスの兜でスーツ姿の男がいたからだ。

「……」

 兜の男は何も語らない。ジッと動かず虹矢を見ていたからだ。

「おいおい、なんだよ。テメェ等の仲間か!?」

「知らないぞ。変り者はいるが、あんな異質な奴は知らない」

「……なんやねん、コイツ……めっちゃ気持ち悪いぞ」

 遠くから見てた南雲、竹島、内藤はいきなり現れた男に対し、無知で驚愕する。

「────■■■■■■!」

 それは獣が怒り悲しみも混じった咆哮が東京に響き渡る。

(な、なんだコイツは!? いきなり叫び始めて……!)

 虹矢は兜男かぶとおとこがいきなり絶叫し始めたのには驚愕した。が、一番驚愕したのは兜男の拳が目前に迫ってきていた事にだった。
 虹矢は咄嗟の判断で虹を出し、迫り来る兜男の胴体を攻撃した。
 その反動で兜男は離し、自分も大きく距離を稼げた。

(な、なんだ!? コイツとは何も接点はないぞ。何故、ここまでいきり立っているんだ!)

 この兜男とは面識はなく、何故ここまで怒り狂っているのかも身に覚えがなかった。

「────■■■■■■!」

(まずい、次が来る!)

 兜男は諦めず、虹矢を襲う態勢へと移っていた。
 即座に危機を感知した虹矢は兜男へ、照準を合わせ、容赦なく発砲する。
 兜男は両籠手のみで銃弾を防いでいた。

「おい、テメェ無関係な奴に発砲してんじゃねぇ!」

 冷静など失っている南雲は未だに蛮行を繰り返す虹矢へ向けて、怒号を放つ。

「貴様! 今、この状況見て分からないのか!
異質な者に襲われてるんだぞ!」

「うるせぇ! 人殺しが、そんな発言してじゃねぇ!」

「ちっ、おい竹島、内藤。副社長命令だ! この異質な者を倒すの協力しろ」

「あ、あぁ……」

「わ、分かりました」

 当然だが南雲の協力は得られず、呆然としていた竹島と内藤に助力を求めた。
 前に虹矢、左後ろに内藤、右後ろが竹島という三角形の陣形だった。

「……!」

 三人が兜男に気を取られている間、南雲は素早く吹雪の元へ向かった。

「おい、アホパーマ無事か?」

 南雲は吹雪を抱え、銃撃以外の異常がないか尋ねた。

「腹が熱いし痛いわ。熱した鉄を深々と刺された感じや」

 苦しみながらも、銃撃以外は他に怪我してない返答だった。

「よし、じゃあ逃げるぞ。この状況で戦闘に巻き込まれたら命がねぇ!」

「あ、あぁ……それより桐崎さんの遺体も一緒に持って行けるか?」

「……悪いが、お前一人背負うだけでも背一杯だ。お前を安全な所まで避難させてから、桐崎さんを回収する。それでいいか?」

「でも、アイツ・・・の為にも……アイツ?」

 吹雪は何か引っ掛かる表情を見せた。

「あ? 何言ってんだよ。アイツって誰だよ? 俺たち二人・・で桐崎さん助けに来たんだろうが。何寝惚けてんだ?」

 こんな状況で急に吹雪が不思議な事を言い始めたので、南雲は叱責する。

「あ、あぁ、そう……だったな」

 何故か自然と納得してしまう自分がいた。

「そうと決まれば……なんだお前……」

 南雲が行動に移そうとすると、目前に多種多様のジャージ姿でキャップ、口元をハンカチで隠したギャング達が出現した。
 それも大人数で囲まれていた。

「よし、コイツ等だ。手っ取り早くやるぞ」

「はい!」

 リーダーらしき男が二人を見ると、目的だったらしい。
 リーダーの指示でギャング達はロープを取り出し、全員で二人へ襲いかかった。

「ちくしょう……」

 吹雪は何も抵抗できない悔しさで、されるがままになった。


 一方その頃、数分前に遡り兜男と三人は睨み合うだけだった。

(なんだコイツは一体……目的が分からない。だが、私に敵意は向けているようだ。だったら……)

 自分に敵意があるなら、それを利用するまでと考えた虹矢。アイコンタクトを竹島と内藤へ送った。
 二人は頷き、静かに合流する。
 兜男が虹矢に注目してる間、竹島は両拳に岩を纏わせる。
 その岩に内藤が軽く触れた。が、瞬間的に兜男は行動を察知した。

「「!」」

 いや、問題ない。この距離ならこちらの方が有利だから、反撃されても攻撃は当たると二人は思っていた。
 けれど、その脳裏に浮かんだ浅はかな考えは消え失せる事になる。
 攻撃のモーションに入る前、竹島の両腕は兜男によってガッチリと握られていた。

「■■■■■■」

 意味不明な事を発し、兜男は掴んでいた腕を離し、腹部目掛けて前蹴りで竹島を大きく吹き飛ばす。

「や、ヤバッ……!?」

 あまりにの異常事態に内藤は逃亡を図ろうとした。が、右手でアイアンクローされ、持ち上げ竹島が吹き飛んだ一緒の所へ投げ捨てる。

「く、クソっ!」

 虹矢は急ぎリロードを行う。
 兜男はゆっくりと歩きながら虹矢へ向かう。

「来るんじゃねぇ! この私が貴様に何をした!
無関係は横槍入れてくるんじゃねぇ!」

 虹矢の汚い本性が露となり兜男へ恫喝する。
 だが、そんなのは意味もなく兜男は接近する。

(お、落ち着け。奴はゆっくりと近づいてくるだけだ。至近距離で撃ってしまえばいい。深呼吸し、気持ちを落ち着かせ、手早くリロードしろ……そうだ。それでいい、俺の敵はあの兜野郎だけだ)

 虹矢は徐々に落ち着きを取り戻し、手早く装填を済ませた。
 そして目前となれば全弾叩き込もうと計画していた。
 その時が来た。

「くたばれ!」

 指をトリガーに掛け、容赦なく射撃する。
 だが……

「……」

 虹矢の目前に出現したのは兜男ではなく、黒いフードを深々と被った男だった。

「貴様! その手を離せ!」

 男は右手全体の指圧だけでシリンダーを掴み、発射させないようにしていた。

「……お前に三度言う必要はないから楽だ。お前ごときに伝える物がないからな」

 その男は村井黒政だった。
 黒政は油断している虹矢の拳銃を力ずくで奪い、振り向きざまに左ストレートで顔面を殴った。
 虹矢は猛烈な痛みで後退する。が、状況確認する前に、黒政は左肘で後頭部目掛けて素早く振り下ろした。
 激しく脳震盪を起こし、虹矢はその場で倒れる。

「……さて、残るのは俺と……名も知らない君だけだ。君だけには状況説明しておこう」

「■■■■■■!」

 黒政が説明する前に兜男は襲いかかる。

「一つ、俺の目的は君を戦闘不能にし、拘束し、連行する事、二つ、桐崎流星の遺体回収、三つ、吹雪雅人、南雲暖人を保護。この三つが今日の俺の仕事だ。お前に三度は言わない。二度言う前に終わらせるからだ」

 黒政は説明を終わらせ、被っていたフードを投げ捨てる。
 そこには顔を覆い隠すバイザーグラス、カラスモチーフのくちばしマスク、銀髪でツイストパーマ、黒タンクトップ、白のバルーンパンツ。
 所謂、不審者の村井黒政が、コンバットナイフ両手持ちで待ち構えていた。

「さて、やるか」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

「今日でやめます」

悠里
ライト文芸
ウエブデザイン会社勤務。二十七才。 ある日突然届いた、祖母からのメッセージは。 「もうすぐ死ぬみたい」 ――――幼い頃に過ごした田舎に、戻ることを決めた。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

"わたし"が死んで、"私"が生まれた日。

青花美来
ライト文芸
目が覚めたら、病院のベッドの上だった。 大怪我を負っていた私は、その時全ての記憶を失っていた。 私はどうしてこんな怪我をしているのだろう。 私は一体、どんな人生を歩んできたのだろう。 忘れたままなんて、怖いから。 それがどんなに辛い記憶だったとしても、全てを思い出したい。 第5回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。ありがとうございました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...