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グランド・アーク
鏡の塔
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ダランとスプスーは、鏡の塔に来ていた。
明らかに狼狽えるスプスーに、ダランが問い詰めたのだ。
話は二時間ほど前に遡る。
「おや、スプスー殿ともあろう偉大なスプリガンがどうなさったのです」
「いや、なんでもないプ」
「どうなさったのです」
「え。いや、だから、なんでもないプ」
しらを切るスプスーに、ダランは奥の手を使った。
「仕方ありませんね。どうやら、私の本気をお見せするしかないようです」
槍を構え、そのままダランは動かなくなった。
「な、何が起きても何にも話さんプリけど」
豚とカバを足して2で割ったような、スプリガン特有の顔に、くるくる巻きの三本の髪の毛。スプスーの見た目はそのように個性溢れるのだが、頭頂部のその毛、それを槍で切ったのだ。
「頭が、す、すーすーするプリ」
事の重大さに思いいたり、脅迫という言葉も知らない素朴なスプリガンのスプスーは、怯えながら事態を説明し始めた。
結論から言うと今回の原因は、スプスーにあった。
スプスーは、人の言葉を話せる、進化したスプリガンだ。そして、才能ある者の多くがそうするように、仲間のスプリガンたちに自慢した。
当然、怒る。スプスー以外のスプリガンたちは、そのまま出て行ってしまったのだ。
「確か、鏡の塔がある方へまっすぐに走り去って行ったんプリ」
曖昧になりかけていた記憶を手繰り寄せながら、スプスーはダランに白状したのであった。
「上級冒険者1人に、スプリガン1匹だとォ」
塔の最上階、白盾の間。
大盗賊は、持ち前の豪快な野太い声を存分に荒ぶらせた。
「ドラゴン勲章がありました。間違いありません」
スフィアと同年齢ほどの少女が報告している若白髪の男こそ、ワルガーだ。
意外にも、噂からは分からないもので中肉中背、ほとんどが白髪になっており、左目に大きな切り傷がある以外は目立った特徴のない男である。
しかしそれが、むしろ不気味な空気を放つのに一役買っていた。
一方の少女は、緑がかった長髪を独特な編み方で結び、さながら古の血族を思わせる古めかしい意匠だ。
紺色のマントを振り向きざまに靡かせ、大盗賊は少女に指図した。
「少なくとも、生かして帰すな。場合によっては、その場で即刻」
「仰せのままに」と少女は遮った。即刻の後には、決まって「殺す寸前まで痛め付けて放っておけ」が続く。
少女にとっては、いつもの事だ。
上級冒険者と知っても臆する事のない瞳に、殺意はない。
しかし、それは優しさのためではない。
単なる仕事に、無駄な感情は持たないのだ。
ワルガーの背後にはたくさんのスプリガンがいた。
そしてさらにその奥、隠された小さな部屋に、スフィアは捕らわれていたのだった。
鏡の塔・1F。
盗賊が潜んでいると知っているだけに、ダランは塔が見えてきた辺りから細心の注意を払いつつ進んだ。
盗賊と言えば、その身を外敵から守るために罠を仕掛ける輩もいる。
だが、どんなに卓越した冒険者であっても、罠を見破るのは難しいとされる。
生き物の気配ならば気が付ける。しかし罠というのはその大部分が物質だ。気配がない以上、注意して観察する以外には為すすべがないのだ。
スプリガンは、なるべく倒さずに進む。
スプスーがいる手前というのもあるが、スフィアならそう望むはずだと、ダランは考えた。
「ま、どうしてもアイツたちがボクちんを許さないなら、倒しちゃって大丈夫プリ」
ダランの気持ちを、スプスーは知らない。
「とにかく、気を引き締めてくれ。ところで、スプスー殿は戦えるのか」
「まあ、いずれ分かるプ」
話題を変えたところで、良くも悪くも図太いスプスーである。
しかし、1Fには盗賊も魔物も見当たらない。 まるで、さっさと進めと言わんばかりだ。
最初こそ警戒を緩めなかったダランも、徐々にぐんぐんと歩き出した。
至る所に仕掛けてあったらしい罠の痕跡を、次々と見つけたからである。
それは、とりもなおさず、罠が外されているという事だ。つまりは、やはりさっさと進めという意味なのだろう。
ペースを早め、2Fへの階段を登って行く。
一通り調べ、1Fに地下に続く階段は、隠されてでもない限りはなさそうだったからだ。
鏡の塔・2F。
ところで、鏡の塔は三階立てだ。つまり、次に階段があれば、最上階に続くわけである。
ただ、ダランたちは慎重に探索を進めて行った。
きっと盗賊の親玉なら、最上階を好むだろうとは素人にも分かる。ただ、スフィアがどこかにいるかもしれないと思うと、探さずにはいられないという事なのだ。
「お姫さまは、もしかして捕まってないかもプリ」
そうであってほしい、ダランもそう願っている。だが、罠を外してまで待つという事は、ここだと言うのと同じである可能性がずっと高い。
そして、ダランは最上階への階段を守る殺し屋の少女に遭遇したのだった。
明らかに狼狽えるスプスーに、ダランが問い詰めたのだ。
話は二時間ほど前に遡る。
「おや、スプスー殿ともあろう偉大なスプリガンがどうなさったのです」
「いや、なんでもないプ」
「どうなさったのです」
「え。いや、だから、なんでもないプ」
しらを切るスプスーに、ダランは奥の手を使った。
「仕方ありませんね。どうやら、私の本気をお見せするしかないようです」
槍を構え、そのままダランは動かなくなった。
「な、何が起きても何にも話さんプリけど」
豚とカバを足して2で割ったような、スプリガン特有の顔に、くるくる巻きの三本の髪の毛。スプスーの見た目はそのように個性溢れるのだが、頭頂部のその毛、それを槍で切ったのだ。
「頭が、す、すーすーするプリ」
事の重大さに思いいたり、脅迫という言葉も知らない素朴なスプリガンのスプスーは、怯えながら事態を説明し始めた。
結論から言うと今回の原因は、スプスーにあった。
スプスーは、人の言葉を話せる、進化したスプリガンだ。そして、才能ある者の多くがそうするように、仲間のスプリガンたちに自慢した。
当然、怒る。スプスー以外のスプリガンたちは、そのまま出て行ってしまったのだ。
「確か、鏡の塔がある方へまっすぐに走り去って行ったんプリ」
曖昧になりかけていた記憶を手繰り寄せながら、スプスーはダランに白状したのであった。
「上級冒険者1人に、スプリガン1匹だとォ」
塔の最上階、白盾の間。
大盗賊は、持ち前の豪快な野太い声を存分に荒ぶらせた。
「ドラゴン勲章がありました。間違いありません」
スフィアと同年齢ほどの少女が報告している若白髪の男こそ、ワルガーだ。
意外にも、噂からは分からないもので中肉中背、ほとんどが白髪になっており、左目に大きな切り傷がある以外は目立った特徴のない男である。
しかしそれが、むしろ不気味な空気を放つのに一役買っていた。
一方の少女は、緑がかった長髪を独特な編み方で結び、さながら古の血族を思わせる古めかしい意匠だ。
紺色のマントを振り向きざまに靡かせ、大盗賊は少女に指図した。
「少なくとも、生かして帰すな。場合によっては、その場で即刻」
「仰せのままに」と少女は遮った。即刻の後には、決まって「殺す寸前まで痛め付けて放っておけ」が続く。
少女にとっては、いつもの事だ。
上級冒険者と知っても臆する事のない瞳に、殺意はない。
しかし、それは優しさのためではない。
単なる仕事に、無駄な感情は持たないのだ。
ワルガーの背後にはたくさんのスプリガンがいた。
そしてさらにその奥、隠された小さな部屋に、スフィアは捕らわれていたのだった。
鏡の塔・1F。
盗賊が潜んでいると知っているだけに、ダランは塔が見えてきた辺りから細心の注意を払いつつ進んだ。
盗賊と言えば、その身を外敵から守るために罠を仕掛ける輩もいる。
だが、どんなに卓越した冒険者であっても、罠を見破るのは難しいとされる。
生き物の気配ならば気が付ける。しかし罠というのはその大部分が物質だ。気配がない以上、注意して観察する以外には為すすべがないのだ。
スプリガンは、なるべく倒さずに進む。
スプスーがいる手前というのもあるが、スフィアならそう望むはずだと、ダランは考えた。
「ま、どうしてもアイツたちがボクちんを許さないなら、倒しちゃって大丈夫プリ」
ダランの気持ちを、スプスーは知らない。
「とにかく、気を引き締めてくれ。ところで、スプスー殿は戦えるのか」
「まあ、いずれ分かるプ」
話題を変えたところで、良くも悪くも図太いスプスーである。
しかし、1Fには盗賊も魔物も見当たらない。 まるで、さっさと進めと言わんばかりだ。
最初こそ警戒を緩めなかったダランも、徐々にぐんぐんと歩き出した。
至る所に仕掛けてあったらしい罠の痕跡を、次々と見つけたからである。
それは、とりもなおさず、罠が外されているという事だ。つまりは、やはりさっさと進めという意味なのだろう。
ペースを早め、2Fへの階段を登って行く。
一通り調べ、1Fに地下に続く階段は、隠されてでもない限りはなさそうだったからだ。
鏡の塔・2F。
ところで、鏡の塔は三階立てだ。つまり、次に階段があれば、最上階に続くわけである。
ただ、ダランたちは慎重に探索を進めて行った。
きっと盗賊の親玉なら、最上階を好むだろうとは素人にも分かる。ただ、スフィアがどこかにいるかもしれないと思うと、探さずにはいられないという事なのだ。
「お姫さまは、もしかして捕まってないかもプリ」
そうであってほしい、ダランもそう願っている。だが、罠を外してまで待つという事は、ここだと言うのと同じである可能性がずっと高い。
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