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グランド・アーク
盗賊と殺し屋
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「そこを通してもらえんかね。大切な仲間がいるのだ」
ダランが口を開いた。話が通じるとは思っていない。相手が人間だから、という常識以上の行動ではないのだ。
そして、密かに背中の槍に左手を回した。
翼竜槍。
ドラゴン勲章を頂く戦士に託された、名誉の槍だ。
ダランの通り名の由来でもあるその真紅の槍は、塔の鏡に映され一層、存在感を際立たせている。
「マジル。マジル=カヤルーサだ」
少女はまず名乗った。そもそも言葉を発すると思えないほどに無慈悲な眼差しであったため、ダランもスプスーも若干の驚きを隠せない。
「私はダラン。ダラン=リーグイースト」
「スプスーさんは、スプスーさんプリ」
二人も名乗った。これから戦う相手に自らを名乗る事は、この世界では暗黙に相手の実力を認めるという事だ。
それぞれが、互いの正確な力量を量りかねていた。
それほど、拮抗した実力者が揃ったのだ。
「私は、人殺しだ。それが私の仕事」
マジルは、砂漠の荒れ果てた町で育った。
親の愛もなく、子どもの頃から生きるか死ぬかの極限が当たり前。そんな世界を強いられてきたマジルが、悪の道に走るのに時間は掛からなかった。
暗殺組合。マジルはその闇組織に属した。
生きていくためだ。
最初の殺人は、5歳で犯した。
緊張で、指が震えていたのを今でもマジルは忘れない。それは感傷というより、戒めである。
殺しに甘さは許されない。彼女にとっては、そう学んだ原点なのだ。
「戦いは、やはり定めか」
隠し持った槍を、ダランは今度こそしっかり構えた。それだけで、達人にさえ空気がみしりと軋んだように感じられる。
戦士にとっては、気迫もまた武器なのだ。
「スプスーさんは、戦い、好きじゃないプリ」
そう言いながらも、呪文詠唱を始めたスプスー。
魔物は魔法を禁じていないため、スプリガンでも理論上は魔法を使う。ただ、実際にはそこまでの賢さを持つ者はスプリガンには少ない。
超魔導師。
スプスーは魔物の中でも屈指の魔法使いなのだ。
「いざ、尋常に勝負」
暗殺者には似つかわしくない台詞で、先に仕掛けたのはマジルだ。
隙だらけのスプスーへ、怒濤の猛攻。忍者の武器である苦無の二刀流が、マジルの戦い方だ。
「優しい泡」
スプスーは得意とする防御魔法でそれに応じた。魔力の泡が衝撃を限りなく相殺し、スプスーには傷ひとつない。
そして、すかさず背後にダランが回った。
阿吽の呼吸。達人同士の付け焼き刃の連携は、早くもその極致に辿り着いていた。
「峰打ちじゃ、許せ」
相手は子ども。思わず手加減したが、ダランのスマッシュ・ヒットは小さな殺し屋を気絶させるには十分だった。
一流の戦士は、才能を隠す。
敢えて闘気を抑えていたダランは最初から、勝利を確信していたのだった。
「ちっ、足止めにもならなかったか」
階段を上がってきたのがマジルでないのは、ワルガーにとって自らが動くしかないのと同義だ。
そう悟り、大盗賊はわざとらしいため息を漏らした。
鏡ばりの奇妙な塔に、無数の大盗賊が映し出された。
「この部屋は特別だ。鏡の力が最大限に使われている」
無数の大盗賊は、一斉に口を動かした。
「俺がどこだか分かるか、三下どもが」
盗賊らしい卑怯も辞さない戦いで、ワルガーは二人の達人に挑んできたのだ。
今までの階層と違い、複雑に配置された鏡が無数の盲点を生み出す。そして、相手は盗賊。素早さが持ち味の戦いを得意とする。
ダランも決して遅くはないが、ワルガーはマジル以上の歴戦の戦士だ。
更には、部屋の構造を知り尽くしているワルガーにとって、そこは正に独壇場。やりたい放題とも言える戦法なのであった。
「プポぉ。しょうがないプ。ボクちんがとっておきを用意するから、おっさんは時間を稼いでくれプリ」
二対一でも押されている。そう察知したスプスーは上級魔法の詠唱準備を開始したのだ。
魔法には、下級魔法と上級魔法がある。
バブル・ガードは下級魔法である。下級魔法は詠唱のみで発動する。
一方、詠唱の他に1つ以上の準備が必要なのが上級魔法だ。
スプスーは相手の実力も考えに入れ、1つの準備で詠唱出来る速充填魔法を選択した。
「合図を送るから、それまで耐えるプリよ」
スプスーは仮にも超魔導師。自分の身を守りながらくらいなら、詠唱準備と並行出来る。
ダランには戦い続けてもらうしかない。しかも魔法には有効射程が存在するため、遠くに逃げてこっそり準備するわけにも行かないのだ。
護符の完成。それが準備の内容だ。
護符そのものは、スプスーの持ち物に常に用意されている。しかし、そこに魔力を込めなければならないのだ。
予め、魔力を通すわけには行かない。物質に与えた魔力は、時間が経つだけですぐに抜けてしまうからだ。
スプスーとダラン、それぞれの戦いが始まった。
ダランが口を開いた。話が通じるとは思っていない。相手が人間だから、という常識以上の行動ではないのだ。
そして、密かに背中の槍に左手を回した。
翼竜槍。
ドラゴン勲章を頂く戦士に託された、名誉の槍だ。
ダランの通り名の由来でもあるその真紅の槍は、塔の鏡に映され一層、存在感を際立たせている。
「マジル。マジル=カヤルーサだ」
少女はまず名乗った。そもそも言葉を発すると思えないほどに無慈悲な眼差しであったため、ダランもスプスーも若干の驚きを隠せない。
「私はダラン。ダラン=リーグイースト」
「スプスーさんは、スプスーさんプリ」
二人も名乗った。これから戦う相手に自らを名乗る事は、この世界では暗黙に相手の実力を認めるという事だ。
それぞれが、互いの正確な力量を量りかねていた。
それほど、拮抗した実力者が揃ったのだ。
「私は、人殺しだ。それが私の仕事」
マジルは、砂漠の荒れ果てた町で育った。
親の愛もなく、子どもの頃から生きるか死ぬかの極限が当たり前。そんな世界を強いられてきたマジルが、悪の道に走るのに時間は掛からなかった。
暗殺組合。マジルはその闇組織に属した。
生きていくためだ。
最初の殺人は、5歳で犯した。
緊張で、指が震えていたのを今でもマジルは忘れない。それは感傷というより、戒めである。
殺しに甘さは許されない。彼女にとっては、そう学んだ原点なのだ。
「戦いは、やはり定めか」
隠し持った槍を、ダランは今度こそしっかり構えた。それだけで、達人にさえ空気がみしりと軋んだように感じられる。
戦士にとっては、気迫もまた武器なのだ。
「スプスーさんは、戦い、好きじゃないプリ」
そう言いながらも、呪文詠唱を始めたスプスー。
魔物は魔法を禁じていないため、スプリガンでも理論上は魔法を使う。ただ、実際にはそこまでの賢さを持つ者はスプリガンには少ない。
超魔導師。
スプスーは魔物の中でも屈指の魔法使いなのだ。
「いざ、尋常に勝負」
暗殺者には似つかわしくない台詞で、先に仕掛けたのはマジルだ。
隙だらけのスプスーへ、怒濤の猛攻。忍者の武器である苦無の二刀流が、マジルの戦い方だ。
「優しい泡」
スプスーは得意とする防御魔法でそれに応じた。魔力の泡が衝撃を限りなく相殺し、スプスーには傷ひとつない。
そして、すかさず背後にダランが回った。
阿吽の呼吸。達人同士の付け焼き刃の連携は、早くもその極致に辿り着いていた。
「峰打ちじゃ、許せ」
相手は子ども。思わず手加減したが、ダランのスマッシュ・ヒットは小さな殺し屋を気絶させるには十分だった。
一流の戦士は、才能を隠す。
敢えて闘気を抑えていたダランは最初から、勝利を確信していたのだった。
「ちっ、足止めにもならなかったか」
階段を上がってきたのがマジルでないのは、ワルガーにとって自らが動くしかないのと同義だ。
そう悟り、大盗賊はわざとらしいため息を漏らした。
鏡ばりの奇妙な塔に、無数の大盗賊が映し出された。
「この部屋は特別だ。鏡の力が最大限に使われている」
無数の大盗賊は、一斉に口を動かした。
「俺がどこだか分かるか、三下どもが」
盗賊らしい卑怯も辞さない戦いで、ワルガーは二人の達人に挑んできたのだ。
今までの階層と違い、複雑に配置された鏡が無数の盲点を生み出す。そして、相手は盗賊。素早さが持ち味の戦いを得意とする。
ダランも決して遅くはないが、ワルガーはマジル以上の歴戦の戦士だ。
更には、部屋の構造を知り尽くしているワルガーにとって、そこは正に独壇場。やりたい放題とも言える戦法なのであった。
「プポぉ。しょうがないプ。ボクちんがとっておきを用意するから、おっさんは時間を稼いでくれプリ」
二対一でも押されている。そう察知したスプスーは上級魔法の詠唱準備を開始したのだ。
魔法には、下級魔法と上級魔法がある。
バブル・ガードは下級魔法である。下級魔法は詠唱のみで発動する。
一方、詠唱の他に1つ以上の準備が必要なのが上級魔法だ。
スプスーは相手の実力も考えに入れ、1つの準備で詠唱出来る速充填魔法を選択した。
「合図を送るから、それまで耐えるプリよ」
スプスーは仮にも超魔導師。自分の身を守りながらくらいなら、詠唱準備と並行出来る。
ダランには戦い続けてもらうしかない。しかも魔法には有効射程が存在するため、遠くに逃げてこっそり準備するわけにも行かないのだ。
護符の完成。それが準備の内容だ。
護符そのものは、スプスーの持ち物に常に用意されている。しかし、そこに魔力を込めなければならないのだ。
予め、魔力を通すわけには行かない。物質に与えた魔力は、時間が経つだけですぐに抜けてしまうからだ。
スプスーとダラン、それぞれの戦いが始まった。
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