上 下
4 / 92
 第一節「レナトゥスの目覚め」

SCENE-003 角無しの金龍と既視感

しおりを挟む

 朝のお勤めを終えた双子が、帰りはのんびりと石階段を下りはじめる頃。
 八坂の里の上空に、それ・・は黄金色に輝く躯体をうねらせ飛来した。



角無し・・・の金龍……」
 蛇からみずち、蛟から龍へと至った妖には五百年ほどで角が生えてくる。

 護家の護人として対峙する可能性のある妖について、その生態や対処の仕方を余すことなく教え込まれている伊月は、空を飛ぶ角無しの龍を一目見て、それがよわい千五百はくだらない〝災害級ハザード・クラスの人外〟だと理解した。



 一夜にして一つの街を滅ぼしてのける脅威。
 徒人ひと人外ひとでなしの区別なく、災害級ハザード・クラスと呼ばれるのはそういう存在で。

 まともに考えて、護家の護人だろうと国津神を親に持つ神子だろうと、伊月や鏡夜のような徒人ただびと――大まかな括りで〝長命種メトセラ〟と呼ばれる人外ひとでなしほど長くは生きられないうえ、扱うことができる魔力量にも限りがある短命種――が真っ向から戦って敵う相手ではない。

 それだけに、だいぶ歯応えのありそうな獲物だな……と。伊月は値踏みするよう不躾な視線を、空の低いところをゆったりと飛んでいる角無しの金龍へと向ける。

(というか、あれって……)
 真性竜種――倭国には存在しない正真正銘のドラゴン――ほどではないにせよ、〝竜類りゅうのたぐい〟とされる龍もまた、稀少な存在であることに違いはない。

 そんな龍の姿を、伊月が目にするのは今日が初めてのことであるはずなのに。
 水の中を泳ぐ蛇のよう体をくねらせ空を飛ぶ龍の姿に、妙な既視感を覚えて。

(私、あの龍・・・を見たことがある……?)
 八坂神社の本殿がある小山の麓へと続く石階段の途中で、知らず知らずのうち、伊月は足を止めていた。



 陽の光を受けて黄金色に輝く鱗がまばゆいほどの龍。
 その姿を見れば見るほど、そこはかとない不快感・・・がこみ上げてくる。

「伊月?」
 どうかしたのと、かけられた声にも気付かずに。
 自分の中にある既視感と不快感の正体を求めて。もうすぐそこまで迫ってきている金龍を、伊月は凝視した。



しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

第2の人生はドラゴンに転生したので平和に人生を過ごしたい今日この頃

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:263pt お気に入り:2

彼と彼女の365日

青春 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:49

幼馴染み達がハーレム勇者に行ったが別にどうでもいい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:85pt お気に入り:879

女神と称された王子は人質として攫われた先で溺愛される

BL / 連載中 24h.ポイント:1,570pt お気に入り:169

声を失ったSubはDomの名を呼びたい

BL / 連載中 24h.ポイント:3,146pt お気に入り:923

犬のさんぽのお兄さん

BL / 連載中 24h.ポイント:1,108pt お気に入り:29

一家離散に追い込んでおいて、なぜ好きだなんて言うの

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:668pt お気に入り:11

わたくし、前世では世界を救った♂勇者様なのですが?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:668pt お気に入り:774

処理中です...