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第5話

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「計画は順調だな」

噂ではティスアート公爵家の娘が体調不良で寝込んでいるらしい。
だがまだまだだろう。
ヴィオーラの体調がずっと悪ければ、それを理由に婚約破棄しても俺は責められないだろう。
健康面に不安があれば将来世継ぎを望めないかもしれない。
正当な理由があれば婚約破棄できる。

そのための計画なのだから。
とりあえずは順調で何よりだ。

「望まない相手だから仕方ないよな」

そもそもヴィオーラとの婚約は仕方なくしたものだった。
王太子という身分が婚約者候補の選択肢を少なくした。
それは事実上ヴィオーラと婚約しろという父の圧力でしかなかった。
一応俺が選ぶという体裁だったが、それだって責任逃れのためだろう。
ヴィオーラとの婚約は仕方なくしたものだった。
間違っても望んで婚約した相手ではない。

「人生、思い通りにはならないものだ。だが障害を乗り越えてこその愛だ」

予想外のことが起きたのはその後だった。
ナムサ伯爵令嬢のポリアナが俺への好意を打ち明けたのだ。
本気で俺のことを愛していると言い、嘘ではない証拠に体も許した。

ポリアナは伯爵家では婚約が難しいと言っていたが、それは絶対ではない。
王太子である俺が望めば婚約することだってできたはずだ。
だがそれもヴィオーラと婚約してしまった後だったから難しくなっていた。
ヴィオーラに婚約破棄すれば俺の有責になり、ティスアート公爵家との関係も悪化してしまうだろう。

そこで俺は考えた。
ヴィオーラが体調不良なら、それを理由にヴィオーラの有責で婚約破棄できる。
ティスアート公爵もヴィオーラに問題があるのだから俺を責めることはできないだろう。
ポリアナと問題なく婚約するためにはヴィオーラの責任で婚約破棄する必要があった。

俺の手元には宝物庫から調達した呪いの指輪があった。
呪いの力で体調が悪くなることはメイドで実証済み。
メイドには飽きていたから仕事を辞めさせることを理由に面倒な別れ話をせずに済んだから好都合だった。
まあ口止め料は退職金として支払ってやったから文句はないだろう。
そもそもメイドごときを俺が抱いてやったんだから感謝することはあっても恨むことはないだろうけどな。

とにかく、効果が実証されている指輪をヴィオーラにお詫びと称して送ってやった。
噂を信じるなら効果を発揮したようだし、もっと長期間体調が回復しなければ婚約破棄しても責められることはない。
もうしばらくの辛抱だ。

「待ってろよ、ポリアナ。ヴィオーラへ婚約破棄するまで、少しの間我慢させてしまうが許してくれ」

それまでは秘密の関係を楽しむとしよう。
愛と背徳感が堪らない。
そのような一風変わった愉しみを経験できるのも今だけだ。
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