ヤクザのせいで結婚できない!

山吹

文字の大きさ
53 / 111

51. スゲー嫌いとか、暴走予告とか

しおりを挟む
 耳慣れない単語に、頭の中で漢字変換するのに時間がかかった。
 とうちょう……登頂旗? いや、違う。

「ええ!? 盗聴器って……ストーカーが使う奴だよね?」
「まあ、あんまり良い意図では使われねえよな」
「だ、誰がそんなもの仕掛けたの? まさか、風間くん……」
「いやオレじゃねえから! 仕掛けられんのは朱虎サンしかいないっしょ」
「朱虎が?」

 あたしはまじまじとペンダントを見た。
 ということは、最近のあたしの言動、朱虎は全部監視してたってこと?
 今も?
 ムカッとしてきて、あたしはペンダントに向かって怒鳴った。

「ちょっと朱虎! 何でそんな機能つけてんのよバカッ! このヘンタイ! 何とか言いなさいよ~っ!」
「トランシーバーかよ……盗聴器っても、四六時中聞かれてるってわけじゃねえからさ。ある程度近くにいないと電波をうまく拾えねえし」
「え、そうなんだ」
「あと、つけてる目的は主に志麻センパイの所在確認と動向把握のためだと思うぜ。実際、志麻センパイが誘拐されたときもスムーズに駆けつけられただろ」
「……まあ、確かに」

 あの時、朱虎が駆けつけてくれなかったらあたしと環はもっとひどい目に遭わされてたはずだ。

「あと、部室に居る間は大丈夫だぜ。ジャマーっつう、盗聴の邪魔する機械があるから」

 風間くんが部屋の隅を示した。よく見ると、何だか黒い筒みたいな機械が置いてある。

「そ、そっか。なんかちょっと安心……」
「で、だ。獅子神蓮司が、志麻センパイに正体告白した時も、そのペンダント持ってたんだよな。そんでもって、朱虎サンは近くで待機してたと」

 ほっとしかけたあたしはまたしても固まった。

「それってまさか、朱虎も話聞いてたってこと!?」
「朱虎サンが獅子神蓮司と会ってる時の志麻センパイの言動、気にしてないはずがねえしな。多分……いや、確実に聞いてると思う」

 風間くんはいつになく真面目な顔できっぱり断言した。

「えっと……じゃあ、朱虎は蓮司さんの正体を知ってるってこと?」

 風間くんと環が同時に頷く。

「で、でも、もし蓮司さんの正体がばれちゃってるなら今頃絶対大騒ぎになってるはずだよ? 警察のスパイでした、なんておじいちゃんが黙ってるはずないもん」

 あたしの言葉に、風間くんが顔をしかめて頭をかいた。

「ってことは、朱虎サンが報告してないんじゃねえの。組長サンにさ」
「ウソ!? 知ってて知らんぷりしてるってこと?」

 何だか混乱してきて、あたしは頭を抱えた。
 おじいちゃんに忠実な朱虎が、警察のスパイを見逃すなんて信じられない。
 一体何を考えて黙ってるんだろう?

「もしかして、朱虎って蓮司さんのことすごく気に入ってるのかな? だから庇って」
「ない!」

 風間くんが食い気味に否定してきた。

「朱虎サンが獅子神蓮司を気に入ってる? あり得ないって。むしろ朱虎サン、獅子神蓮司のことスゲー嫌いだから」
「何それ!?」

 あたしは唖然として風間くんを見た。

「そんなわけないよ。だって朱虎は蓮司さんのこと『有能』とか『男前』とか褒めてたし」
「そりゃ旦那候補なんだから、志麻センパイの前で悪くは言わねえだろ。でもオレ、朱虎サンから直で聞いたから。なんか気に食わねえんだってよ~」
「えっ、何で朱虎と風間くんがそんな突っ込んだ話してんの」
「ふふん、意外と仲良しなんだぜ~オレら」
「仲良し……!?」

 朱虎と風間くんが仲良しなところは全く想像もつかなかったけど、自慢げな風間くんの言葉は妙に説得力があった。

「じゃあ、ほんとに朱虎は蓮司さんのことが嫌い……?」
「だからそう言ってんじゃん。つか、志麻センパイは朱虎サンの一番近くにいるんだからさあ、そのくらい気づいてやれよ」

 風間くんは呆れたように鼻を鳴らした。

「志麻センパイ、マジ鈍すぎ。あーあ、朱虎サンも報われねえよなあ」
「うっ、うるさいな! でも、じゃあ何で朱虎は黙って……」
「君のためだろう」

 腕を組んで考え込んでいた環が不意に呟いた。

「あの日、兄が君にプロポーズした時に、君はYESともNOとも言わず、返事を保留した」
「うっ、うん」
「おそらく朱虎さんはそのやりとりを聞いて、君が兄と結婚したいが、立場の違いで即答できずに悩んでいると解釈したのではないか」
「……え」
「君が好いた相手だと思えばこそ、ことを荒立てないよう沈黙を守ってくれたのだろう」 

 環の言葉に、朱虎の鋭いまなざしを思い出す。

「あんたが欲しいなら俺が必ずあの男を手に入れてやるから」

 今から殺しに行く、と言ってるような鋭い目つき。
 朱虎は、あの言葉をどういうつもりで言ったんだろう。

「朱虎さんは、個人的な好悪や銀蔵氏への忠義よりも君の方が大事なのだろうな」

 胸の中がざわざわと波立った。居ても立ってもいられないような気持ちになって、あたしはぎゅっと胸を押さえた。

「昨日……朱虎から蓮司さんのこと、グダグダ悩んでないでもっと簡単に考えたらいいって言われたの。あたし、ムカっとしちゃって、何にも知らないくせにって八つ当たりしちゃって」
「マジで? ヒッデーの。朱虎サンはいけ好かねえ上に警察のスパイだって相手を、志麻センパイのために庇ってるってのによ」
「だ、だってそんなこと知らなかったんだもん!」

 風間くんの責めるような視線に、あたしはむきになって言い返した。

「それに朱虎だって、『蓮司さん』なんて随分距離が縮まった呼び方してるだとか、『蓮司さん』からのお願いなんだから叶えてあげたらいいとか、すんごい嫌味っぽい言い方して来るし!」
「あのな~、朱虎サンだって人間だぞ。嫉妬くらいさせてやれよ」
「しっ……え?」

 あたしがぽかんとすると、風間くんはかりかりと頭をかいた。

「どうせ志麻センパイのこったから無神経に朱虎サンの前で『蓮司さん』『蓮司さん』って連呼しまくったんだろ」
「無神経って何よ! ていうか嫉妬って、そんなの……嫉妬?」

 そうか。朱虎、蓮司さんに嫉妬してたのか。
 それって、なんかちょっと……可愛いかも。
 そう思った途端、胸のざわざわが一気にどよどよ、くらいにレベルアップした。
 何だこれ。いまだかつて経験したことがない、フワフワとかソワソワって感じ。
 胸の奥で、風船がぷうっと大きく膨らまされてるみたいな――

「まー、アレだけべったり志麻センパイの世話を焼いてたからなあ、朱虎サン。娘を嫁にやる父親的感情なんじゃね?」
「……あ、そっち?」

 あっという間に風船がしぼんだ。
 そうか、嫉妬ってそういう系か。
「や、でも、お父さんってあんなことする? しないんじゃないの? ええ?」
 唇にリアルな感触が蘇って、ぞくりと背筋がしびれる。

「……志麻? どうした、口を押さえてブツブツ言って」

 環の訝しげな声にあたしはハッと我に返った。

「顔が赤いぞ。どうも妙だな、さっきから」
「へ!? そ、そんなことないけど、別に……」
「もしかして朱虎さんと何かあったのか」

 思わずぎくりとしてしまう。風間くんの目がギラッ! と光った。

「おっ、いつもと反応が違う。どしたんよ」
「えっ、や、あの」

 もともと環に相談するつもりではあった。
 あったんだけど、風間くんがいるとすごく恥ずかしい。

「……大したことじゃないから、また今度」
「大したことないナニかはあったわけだ! 今度じゃなくて今話してみ?」
「だ、だから今度話すってば……それより! 朱虎に、ホントに蓮司さんのこと知ってるのかどうかちゃんと聞いてみないと!」

 風間くんの追及を避けようと、あたしは慌ててスマホを取りだした。

「マジか~、ついに朱虎サンの獣が目覚めちまったかー。さすが魔性の女・志麻センパイ」
「その呼び方やめてってば! ……って、あれ?」

 スマホに蓮司さんからメッセージの通知が来ていた。三時間くらい前に届いていたようだ。

「環、蓮司さんから連絡来てる! 良かった、メッセージとか送れるんだ」
「フン、惚れた女に真っ先に連絡をよこすとはな。つくづくわかりやすい男だ」
「も~、無事だったんだからそういうこと言わな……い」

 メッセージ画面を開いたあたしはそのままの姿勢で硬直した。

《志麻さん、昨日はごめん。大きな動きがあって、安全なところに一旦身を隠しています。不破さん経由で雲竜組長から連絡をもらったので、夕方に少しだけ病院へ伺います。ちょうどいい機会なので、腹を割って色々と話そうと思う。充電が切れそうなので返信は不要です。では》
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

処理中です...