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──え……


僕の中の何かが、音を立てて壊れていく。



全ての元凶を生み出したのは──若葉だった。

若葉が、父を刺さなければ……
そもそも母を襲っていなければ、こんな事にはならなかったんだ……


「……ふふっ、」

堪えていたものが溢れてしまったような、若葉の笑み。
目を見開いたまま、ゆっくりと若葉の方へ視線を移せば……物陰から突然飛び出し、脅く様を見て喜ぶ子供のように、無邪気に微笑んでいた。

「さくらを出産した時に、達哉が交通事故に遭った、ですって?
……ふふふ。本当、可笑しな事言うわよね、あの女。それで子供を怨む親なんて……何処にいるのかしら」


一体……なにが可笑しいんだろう……


若葉の狂気じみた笑い声が、僕の精神を蝕んでいく。

「……」

確かに。それだけで僕を酷い目に遭わせてきた母に、同情なんかしたりしない。
産まれてこなければ良かったのなら、最初から僕なんて産まなければ良かったんだ。
望んでなかったのなら、尚更──


「僕はね……温かい血を流し、もう目覚める事のない達哉を眺めながら、家族三人で暮らそうと思ったの。あの女に邪魔されない──あの世で。
だから、達哉の胸部に刺さったこのナイフを握り締めて……さくらを探したのよ」
「……」
「そしたらね、……ふふ。
アゲハとさくらが、同じ布団の中で仲良く並んで眠っていたの。
その姿はまるで、幼い頃の達哉と僕そのもの──」

冷たく光る、バタフライナイフ。その刃先が、僕の腰上に跨がったアゲハの脇腹に向けられる。
黒眼だけを動かし、その存在を認識したアゲハが、再び僕に視線を戻す。

「だからね。アゲハとさくらは、僕の思いを継いでくれなくちゃ。
僕はその為に、今まで生きてきたんだから……」

「……!」


それは……つまり……


浅くなっていく呼吸。
この異常な状況に、気がおかしくなりそうになるのを必死で堪える。


「……」

強張る僕の顔を挟むように、アゲハが両手を付く。

熱っぽい瞳。
小刻みに震える僕の右頬に、浮かせたアゲハの指先がそっと触れる。



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