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34.過去

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×××


それから暫く、平穏な日々が続いた。
ハイジが望んでいた通り、陽の当たる世界に身を置いてはいるけれど。僕だけがこの場所にいていいのか……時々、解らなくなってしまう。

突然襲う不安。重くのし掛かる罪悪感。胸が、押し潰されそうになる。

それでも。立ち止まってなんかいられない。
前へと、進まなくちゃ……







「おぉー! 凄いご馳走じゃないですかっ!」

小さな長テーブルの真ん中に置かれた、二~三人用の土鍋。卓上コンロでグツグツと具材が煮え、立ち上る湯気のお陰で部屋の中がしっとりとして温かい。
寄せ鍋の中身を立ったまま覗き込んだ岩瀨が、コートを脱いでマフラーを外す。

「美味そうだなぁ。これ、若葉さんが?」
「ええ。……って、言いたい所だけど。これ全部、さくらが用意してくれたのよ」
「………へぇ、」

それまで嬉しそうにニヤけていた顔が、一瞬引き攣る。邪魔者の僕ではなく、大好きな若葉の手料理を期待していたんだろう。

引っ越し当日、僕が倒れてしまったせいで延期になっていた食事会。岩瀨は遠慮していたそうだけど。手伝って貰った上に残りの手続きまでして貰った手前、そういう訳にはいかず。

「それ、預かるわね」
「……あぁ、すいません」

受け取った岩瀨のコートとマフラーを、ハンガーに掛ける若葉。その様子を見つめながら、テーブル前に腰を下ろす岩瀨。二人の様子を見守った後、台所へと足先を向ける。

「……」

スーパーでの一件もあって、気まずいと思っていたけれど。岩瀨の方は、別段気にしてないようだった。寧ろ、若葉に夢中でそれ所じゃないんだろうけど。

冷蔵庫から缶ビールを二本取り出し、パタンとドアを閉める。コップや取り皿等は既に用意してある為、真っ直ぐ居間へと戻る。


「嫌いなものがあったら、遠慮無く言ってね」

綺麗な所作で、岩瀨の深皿に鍋の具材をよそる若葉。その様子をじっと見つめる岩瀨。その瞳は何処か潤み、少しだけ顔を綻ばせているようにも見えた。


「……」


もし、この二人が付き合う事になったとしたら。

きっと僕は、本当に邪魔な存在でしかない。


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