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64.違和感

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電車を乗り継いだ先にある、都心に近い繁華街。降りて直ぐ、背の高い商業ビルよりも人の多さに圧倒される。

……ここは、ハイジとよくホテル探しで訪れた場所だ。
妖しく煌めく夜とは違い、随分と健全な顔を装っている。



『……明日は、休みだよね』

シャワーを浴びてリビングに戻ると、ハルオが夕飯の用意をしてくれていた。
普段は余り料理をしないんだろう。ガラステーブルに置かれた炒飯は、豪快に大皿に盛られ、所々黒く焦げていた。

『……はい……』
『じゃあ、色々必要なものを買いに行こうよ』
『……』
『アメニティグッズは勿論だけど。……それ、大きすぎるから。さくらくんの部屋着も揃えたいね』

優しい口調で微笑むハルオ。
確かに。借り物のこれは、袖が長くて何度も捲り上げないとだし。元々広い襟ぐりは、鎖骨の下の方まで開いてしまって。ハイジが付けた赤い:鬱血痕(キスマーク)を、隠せそうにない。

『……はい』



昨夜の出来事を思い出しながら、背の高いハルオと並んで商業施設に入る。
忙しい喧騒。休日ともあって、施設内の広い共用廊下は、人、人、人で溢れ返っていた。

アパレルショップを軽く覗いた後、キッチン雑貨の店に入り、ハルオが食器類を一式買い揃えてくれる。
ハイジが来るまでの間だけだから、わざわざ用意してくれなくてもいいのに。嬉しさよりも、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「……あ、これいいね」

別の雑貨店で見掛けた、ダークグレーとライトピンクのカップル用ルームウェア。それぞれの胸ポケット部分に、可愛らしい猫の刺繍が施されている。

「このピンク、さくらくんによく似合うよ」
「……」
「俺も、そろそろちゃんとした部屋着が欲しいと思ってた所だから。お揃いにするのもいいね」

……え……
付き合ってる訳じゃないのに、何で……?

不審に思いながら見上げれば、そんな事など気にも止めないハルオが、優しげな笑顔を向ける。

「……」

そんな事考える僕が、可笑しいのかな……

答えられずにいれば、肯定と捉えたんだろう。その瞳を外し、包装用のビニール袋に入った商品を掴んだハルオがレジへと向かう。

「………でも、昨日の俺シャツの方が、可愛かったけどね」

背を向けたハルオが独りごちるものの、その声は小さく、僕の耳までは届かなかった。


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