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校門から出てくる生徒の数が、次第に減っていく。
視線の先に見える上空が、次第に明るさを失っていく。少しだけ強い風が吹き、剥き出しの肌から容赦なく体温を奪う。

「……」

駅の方、行ってみようかな……
待ち合わせの場所を、勘違いしたのかもしれない。足下に置かれたショルダーバッグを拾い、僅かな希望を抱え、その場を離れた。



いま、何時だろう。
辺りが仄暗さに包まれ、中央線のない細い公道の端を歩く。時折通り過ぎる車のライトが、いつの間にか眩しく感じる。
駅まで、あと少し。なのに、闇を切り取ってその足下だけを照らす外灯の灯火が、道の両端に点々と続いているだけで、何とも心許ない。

パッパ──ッ!
その時、背後から現れた車が僕を眩い光に包む。驚いて振り向けば、それは僕の直ぐ脇で急停止した。
運転席側のパワーウインドウが開き、男の顔が現れる。

「……よぉ」

黒い短髪。鼻筋の通った、大人っぽい顔立ち。
切れ長の二重で、ガラス玉のような無機質な眼。


───ドク、ンッ、!


その瞬間、心臓を強く打ち抜かれる。
その風穴に、何とも名前の付け難い様々な感情が渦巻き、僕を支配していく──


「久し振りだな」


リュウ……
どうして、リュウがここに……


「ハイジの女……確か名前は、さくらと言ったな」
「……」
「こんな所で、何してる」

その眼が、じっと僕を捕らえて離さない。

「………まさか、迷子じゃねぇだろうな」

少しだけ持ち上がる、口の片端。
シニカルに微笑む眼。
それは──妙な所で気遣いをする、あの時の眼に似ていて……
アゲハの部屋で受けた痛みと恐怖、そして、一番欲しいと願っていた、あの心地良い温もりをも引き連れて、僕に襲い掛かる。

「乗れ」

真顔に戻ったリュウが、顎で助手席を指す。
鋭く突き刺すような、冷たい眼。

「……でも……ハイジと、これから会う約束をしていて……」
「いいから、乗れ」

有無を言わさず、冷たく言い放たれる命令口調。

「……」

乗っちゃいけないって、解ってる。
だけど……僕の行動ひとつで、ハイジの立場が悪くなってしまったら……

長年植え付けられてしまった従順体質のせいで、上手く拒否できない。
その言い訳をするように、心の中で呟きながら助手席のドアを開けた。


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