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38.戻れ

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×××


茜色に染まる夕映えが、蝋燭の尽きた炎のように消えかかり、陽の沈んだ方とは反対側の空から闇が迫り来る頃──様々な色のネオンがあちこちで煌めき、行き交う人々の様相もガラリと変わる。昼間とは違う喧騒。次第に夜の街へと変貌していく繁華街を、ハイジと肩を並べて歩く。

「……」

珍しい。いつもなら、バイクを飛ばしながら安いラブホテルを探し回るのに。
そう思っていた矢先、それまで押し黙っていたハイジが唐突に口を開く。

「太一に、絡まれたんだってな」
「……え」

その台詞に、一瞬息を飲む。

「うん……」

昼に僕を助けてくれた二人が、ハイジに告げたのだろうか。

「何も、されてねぇンだよな」

念押ししながら、ハイジが僕を横目で見る。その眼は、疑わしそうに尖っていて……

『殺されても、知らねぇから』──あの人の言う通り、豹変したハイジならやりかねない。

「……うん」

別に、太一を庇いたい訳じゃ無い。
これ以上、ハイジには同じ過ちを繰り返して欲しくないだけ。



「……あー、どうすっかなぁ……」

ポケットに手を突っ込んだハイジが、大きな溜め息と共に独りごちる。
再び視線を向ければ、そこから取り出したものをじっと見ていた。

「もう、ネカフェしかねぇか……」

ハイジが握り締めていたのは、くしゃくしゃになった五千円札一枚。

夏の終わりから今まで、一体どれだけハイジにお金を使わせてしまったんだろう。幾らラブホテルが安くても、積み重ねたら相当な額になっている筈。

「……」

僕のせいで、傷害事件を起こして。チームの雰囲気が悪くなって。ハイジを苦しめてる。
もし僕が、最初からいなかったとしたら……ハイジは今も、チームの仲間と楽しく過ごせていたかもしれないのに。

「………腹、減ったな」

眉間に皺を寄せたハイジが、くしゃくしゃの紙幣をポケットに仕舞う。

「そうだ。この先に、美味いラーメン屋あったろ。……そこ、行こうぜ!」

満面の笑みを向けたハイジは、以前のやんちゃで優しいハイジで。
こんな状況の中でも、僕に気遣ってくれる事に……胸が痛む。



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