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「……」

でも……あの時の言葉に、そんな意味が込められているなんて思いもしなかった。
ハイジが怒るのも、無理はない。

「……ごめん」
「もういいって」

興ざめだとばかりに吐き捨てると、ハイジがベッドから降りる。

背の低い僕と、そう変わらない身長。
細身ながら、しなやかに引き締まった筋肉。肩まである、サラサラとした白金色の髪。切れ長でくっきりとした二重の眼。
幼さの残るその顔立ちは、よく見れば綺麗に整っていて。どうして僕なんかを……と、思わずにはいられなかった。

「それより。親に殺されかけたって何だよ。大事に育てられた『お姫様』みてェな面してんのによ」

背中にドクロと十字架がプリントされた、フード付きの白いトレーナー。立ったまま片手で拾い上げると、先に腕を通してから頭に被る。
脱色しすぎたんだろうか。左耳の上辺りの髪先が溶けかけ、そこだけが縮れてごわごわと広がっている。それを隠すように、ハイジがフードを被せる。

「……やっぱり、そう見える……?」
「ああ。見えンな」
「……」

そっか。
そう、だよね……
ハッキリと言い切られ、心臓が抉られるように痛い。
だけど、別に解って貰おうなんて思ってない。どうせ、僕の気持ちなんて誰にも解らないんだから。

ハイジから視線を外し、天井に浮かぶ偽物の星空をぼんやりと眺める。

「少なくとも、親元で暮らせるのは贅沢だぜ」
「──!」

贅沢?
なにそれ。本気で言ってんの?

「殺されかけたのに?」

皮肉を込めて、そう言ってやる。
何にも知らない癖に。
知らない癖に──!

「僕が生まれたせいで、父が死んで。母に恨まれ続けているのが贅沢?
出来の良い兄が溺愛されて、僕は虐げられてばかりで……
挙げ句、兄の友達に強姦されたとしても?
それでも、贅沢?」
「……」

蟠っていた感情を、一気に吐き出す。
少し口にしただけなのに。あの忌まわしい感情までもが蘇ってしまう。
勝手に溢れる涙。
そのせいで。天井に浮かぶ満天の星々が一層煌めき、皮肉にも綺麗に映る。

「……悪ぃかった。人を見掛けで判断してよ」

それまで押し黙っていたハイジの、弱々しい声。

「……!」

思いも寄らない台詞に驚き、瞬きをして涙を切り落とせば……憂いを帯びた瞳を揺らすハイジが、くっきりとした視界に映る。

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