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4.ハイジ【居場所編】

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×××


「……むか、し……」

痺れた足先が本能的に細かく震え、意識が遠のきそうになるのを堪えながら、微かに唇を動かす。

「こん、な風に……された、っけ──母、に………」

声にならない声を絞り出し、滲んだ視界に映る男の顔をぼんやりと見つめる。
喉仏の辺りを押し込まれ、耳奥が塞がれるような感覚に襲われる。ドクドクと脈打つ頚動脈。膨張する痛みと息苦しさ。

「……!」

小さな呻きにも似た僕の声に、ふと我に返ったんだろう。僕の首を絞めていた男の手が、少しだけ緩む。

───ごほっっ、ケハッ……!
ひゅぅ、と喉奥から奇妙な音がしたかと思うと、大量の空気が一気に吸い込まれる。そのせいでまた:噎(む)せ返り、上手く呼吸が出来ない。
喉に残る圧迫感。差し止められていた血液が一気に流れ、じりじりと痺れる脳内。止まらない咳。溢れる涙で、目の前が霞んでいく。
その様子を、上半身裸の男──僕の上に膝立ちで跨がり、両手で首を絞めてきた張本人がじっと見下ろす。

「………なん、だよ……ソレ、」

弱々しく震える男の声。
痺れた指先で涙を拭えば、男の見開いた眼が小刻みに揺れていた。

「……殺され、かけた……んだ。
僕は……生まれた時、から……憎まれて、る……から……」
「い、今のは……違うぞ。ついカッとなっちまって……」

動揺を隠せず、男──確か、ハイジと名乗っていたその人が、柔く広げた両手のひらに視線を移す。その指先が、小刻みに震えていた。

「いきなり拒絶して、知らねぇ男の名前、呼びやがるから。……つい……」
「……」
「嫌なら、最初からついてくンじゃねぇよ!」

ぎゅっと手のひらを握り締め、そう言い捨てながら勢いよく僕から退く。

「……」

ラブホテルの天井に浮かぶ、満天の星空。紫色のブラックライトが窪んだ四方の側面に取り付けられ、無数の白い点々を光らせただけの……只の偽物。

この人の言う通りだ。
竜一を忘れる為に参加したゲイパーティーなのに。他の人で埋める事ができないのなら……

最初から、こんな事しちゃ駄目だったんだ。




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