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「……美味そうな匂いやな」

しっとりとした髪を、首に掛けたスポーツタオルの片端で拭きながら、凌がダイニングキッチンへと戻ってくる。
ラフな部屋着。首元には、バイオハザードマークのタトゥー。

どんな仕事をしているのか、詳しい内容は解らないけど。凌は夜の仕事をしていて、その出勤前に凌の住むこのマンションへ出向き、こうして朝食の用意バイトをしている。

スタイリッシュで高級そうなダイニングテーブル。そこに並ぶのは、昔ながらの和食──焼き魚、芋の煮っ転がし、金平牛蒡、ぬか漬け。そして、ごはんと味噌汁。
そのアンバランスさに違和感を覚えるのは、僕だけだろうか……


相向かいに座り、頂きますと両手を合わせる。

「……ん。これ、最高やん! 甘すぎず辛すぎず、俺好みの味付けや。
これなら毎日食べても飽きんわ!」

摘まんだ金平を口の中に放り込んだ瞬間、大袈裟に褒めちぎる凌。それに気恥ずかしくなって俯く。

「……じゃあ。明日も、作りましょうか?」
「おぉ、いっぱい作ってや! いくらでも食べたるで!」

怖ず怖ずと尋ねてみれば、凌が明るい口調で返してくれる。

「やっぱ日本人は、和食やな。
さくらちゃんの手料理食べてから、なんや身体の調子が良うなって、健康的になった気ぃするわ!」
「……」

そう言われてしまうと、悪い気はしない。でも、この人の本音は何処までなのか。そもそも、何処に本音があるのか……時々、解らなくなってしまう事がある。

金平を摘まんで口に含む。また同じ味が出せるよう、舌に記憶させながら。

「……あ、そうや!」

ご飯を口に入れ咀嚼を繰り返していると、凌が再び口を開く。

「急で堪忍なんやけど。明日、宴会したい思うてんねん。さくらちゃんの所でやらせて貰うても、ええ?」
「……」

……宴会?
宴会って、忘年会みたいなものかな……
明日は土曜日だから、準備する時間は充分にあるし。多少寝るのが遅くなっても、別に支障はない。

「……はい」

そう答えると、真っ直ぐ向けられた凌の眼が少しだけ緩む。

「おおきに、助かるわ。
ドリンクはこっちで用意するから、心配せんで。……んー、そうやなぁ。さくらちゃんも入れて、5人……まぁ、それ位のつまみと食事、適当に用意しといてや」
「わかりました」

そう返事をした後、もう一度金平牛蒡に箸を伸ばす。


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