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ようやく空いたベンチを見つけ、そこに腰を下ろす。
嫌味な程、雲ひとつない青空。
楽しげな親子三人が、目の前を通り過ぎる。
ふわりと浮かんで揺れる、赤い風船を引き連れながら。

「……」

……そうだ。
樹をどんなに想っても、ああいう未来が用意されている。
それが、この社会では普通なんだ。

『俺には…お前だけだ』

──なぁ樹。何であんな事言ったの……?
そのせいで、気付いちゃったじゃん……

ベンチの背に身を預け、目を瞑ったまま天を仰ぐ。
瞼の裏が、遮った筈の陽光色に変わる。
温かくて柔らかい、晩秋の日射し。
優しくそっと僕を包んで、切ない程に癒してくれる。

女なら……良かった。
そしたらもう少し、素直になれたかもしれないのに。
……僕が、女なら……


「……愛月」


突然の声に、胸が高鳴った。

見なくても解る。
──この声は、樹だ。


「大丈夫?」
「……ん」

身体を起こし、目を開く。
隣に座る樹に、ドキドキと心臓が高鳴って、煩い。僕自身も、そわそわして落ち着かない。
以前のように、肩が触れ合う程の近い距離ではないけど……樹が追い掛けて来てくれた事が、素直に嬉しかった。

「樹は、いいのか……?」
「……はは。僕が絶叫系苦手なの、知ってるよね」
「まぁ、……うん」

どうしよう。会話が続かない。
今までだったら、こんな事無かったのに……

「……なぁ、樹」
「ん……?」

熱い。顔が……身体が……
緊張して、まともに樹の顔が見られない。

「……僕らって、友達……だよな」

何言ってんだよ。
チラッと樹を横目で見てから、慌てて口を開く。

「前みたいじゃなくても、いいからさ。……だから、せめて……避けたりは、すんなよ」
「……」
「樹に避けられんの、……結構、堪える……から」

精一杯の言葉だった。
想いを伝えたい。だけど、伝える訳にはいかない。
だったらもう、……友達のままでいいから。樹の傍にいさせて欲しかった。

近い将来、樹に恋人が出来たとして。
その子と上手くいって、ゴールインしたとして。
それで傷付く事があるとしても。

──今だけは。
樹と、離れたくない。


「……うん。そうだね」

優しげな口調。
口角を緩く上げ、樹が柔らかな視線を僕にくれる。

「ごめん、愛月あき
「……」

嬉しかった。
正直、東生にはムカついてたけど。……来て良かったと思えたら、誘ってくれた事に初めて感謝した。




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