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第四章 永遠の凍雨
答え
しおりを挟む「……もしもの話をしても、現状は何一つ変わらないよ」
静かに。だけど芯のある真っ直ぐな声で樹さんが現実を突き付ける。
それに驚いたのか。父が顔から手を外し、怒でも憂でもない……ただ真っ直ぐで純粋な瞳を樹さんに向ける。
「………ごめんね、愛月。
こんな状況になっていたなんて、思いもしなかった。
──確かに、愛月の言う通り、僕達が上手くいかなかったのは……東生のせいだったのかもしれない」
「……」
「あの日──電話で東生に呼び出された時、真奈美を泣かせるような事はするなって、予め東生に釘を刺されていたんだ。
待ち合わせの喫茶店には、当然、愛桜がいるものだと思っていた。……だから、まさか愛月がいるとは思いもしなくて。
姿を見た瞬間、動揺したよ。
それと同時に、東生の言葉の意味を悟った。僕が愛月に、まだ未練があるのを、東生に見透かされていたんだって……」
「……」
「愛月は愛桜と同棲していて、ゆくゆくは結婚するって聞かされていたし。これからの愛月の幸せと、皆との関係を思えば……ここで想いを断ち切って、さよならしなければいけないと思った」
「……」
樹さんの瞳が僅かに緩み、下に向けられる。
繋がれた手──その指先が、小さく震えていた。
「……だけどね。そんな簡単に割り切れるものじゃないよ。
真奈美と生きていく努力はした。でも、まだ愛月への気持ちが残っているのが伝わっていたんだろうね。
……突然、彼女の方から、別れを告げられた」
「……」
「何もかも壊れて、失って……途方に暮れたよ。
その隙間を埋めるように、何人かと関係を持ったりもしたけど……上手くいかなかった。
一緒になった相手に、愛月を重ねて求めていた事に気付いてからは……もう、誰かで心を埋めるのは辞めようと決めたんだ」
伏せていた樹さんの瞳が、迷い無く真っ直ぐ父を見る。
「──そう、決意した後に出逢ったのが、実雨だよ」
「──!」
……え……
樹さんの横顔を見上げるふたつの瞳が、大きく見開かれていくのが自分でも解った。
「最初は戸惑ったよ。愛月によく似ていたからね。
……でも、愛月の代わりじゃない。実雨自身に惹かれていって……愛おしく感じたんだ」
……心が……震える……
傷心から突然会いたいと言ってしまった、あの日──樹さんはそうじゃなかったんだ……
なのに僕が、樹さんを大空と重ねて求めてしまって……それを気に病んでしまったから……
だから樹さんは、僕の気を楽にさせようと、『お互いさま』って──
「……もう二度と、愛する人の手を離したくない」
「──!」
いつの間にか、樹さんの指先の震えは止まり、力強くぎゅっと握られる。
「あの時の傷が癒えるのに、凄く時間が掛かったよ。……本当に、好きだったからね。
でも、今は、実雨を大切に思ってる。
……色々あったけど、実雨と巡り会えて良かったと思ってる」
「……」
「ごめん、愛月。
──あの時、愛月の気持ちを確かめられなくて」
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