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第四章 永遠の凍雨
フラッシュバック
しおりを挟む……あの人が、東生……
何処かで借りてきた子供向けのDVDを流し、僕にそれを黙って見てるよう脅し、母と共に父の部屋へと入っていき──
パン、パン、パン……
………あぁぁんっ!
肉と肉のぶつかる音。母の泣き叫ぶような声。淫らな水音。
それらが、否応なしに聞こえて。
堪らなく怖くて……、堪らなく嫌で………
──ガクガクガク
突然目の前に掛かる、灰色のフィルター。フラッシュバックが起き、当時の空気、湿気、臭い、息苦しさまでもが僕に襲い掛かる。
痺れて感覚を失う指先。暴れ出す心臓。僅かに乱れる呼吸。
不安に駆られ、唯一の命綱である樹さんの手を、きゅっと握る。
「相手にしなかったら、そのうち出て行ったよ。
……実雨を置いてな」
「……」
繋がれた樹さんの指がぴくりと痙攣し、そこから次第に現実が流れ込む。
導かれるまま樹さんの横顔を見上げれば、それまであった穏やかさは消え、唇を引き結び、険しい瞳で父を見据えていた。
「………絶望したよ──
俺への、最後の嫌がらせだと思った……
いきなり親の役目を全部押し付けられて……目の前が真っ暗になった……」
樹さんから視線を外し、揺れながら伏せた父の瞳に、憂いの色が滲む。
顔のすぐ傍に、片手のひらを広げて構えた後、ゆっくりと額に指をあて、その目元を全て覆い隠す。
「……それでも、現実俺しかいねーし。俺なりに実雨を愛そうとしたんだ。
でも、実雨を見ているうちに、愛桜の面影がちらついて……そのうち東生のしたり顔が浮かんできて……無性に、腹が立って、実雨を──」
「……」
「そんなんじゃ駄目だってのは、解ってる。解ってるけど──
……全然、愛情を注いでやれねーんだよ……!」
涙で濡れた頬。そこに新たな涙が伝って顎先からぽたぽたと零れ落ちる、
「……」
父なりに愛そうとした。
望んでなどいなかった家族だけど、一度は向き合おうと努力してくれた。
愛情を掛けては貰えなかったけど、母のように僕を捨てたりしないでくれた。
──それでも。父が今までしてきた事を許せる程、簡単じゃない……
「──なぁ、樹。
もしあの時、俺の気持ちに気付いていたら……俺と、向き合ってくれたか……?」
「……」
「俺の気持ちに、ちゃんと答えてくれたか……?」
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