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第一章 梅雨の幻影
悪ノリ
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×××
昨夜から、降ったり止んだりを繰り返すしとしと雨。
灰色の空。
湿気を含んだ、重苦しい空気。
じめじめとした校舎内に入れば、あちこち雨や泥で汚れ、それだけで憂鬱な気分になる。
けど……
大空とバイクで出掛けた日の出来事が、僕の気持ちを押し上げてくれた。
梅雨の季節が、少しだけ嫌なものではなくなる。
薄暗い廊下。
元気な声を上げる女子生徒達の横を通り、教室のドアを開けた。
「……おぉー!」
目に飛び込んだのは、窓際に固まって何やら騒いでいる数人の男子。
その輪の中にいた今井が、僕に気付くなり片手を上げて手招いた。
「お前もこっちに来いよ!」
ニヤニヤする今井に気後れしながらも、断れずにそっと近付く。
今井の傍に立って見れば、その中心にいたのは──大空。
「……で、どうだったんだよ」
「佐藤を家に連れ込んで。……で、その後、カモぉーン!」
「カモぉーン!」
興奮気味の男子五人が、一人椅子に座る大空に前のめりになる。
状況が把握できないまま戸惑っていれば、僕の肩に腕を回した今井が、耳元に唇を寄せて囁く。
「今から大空が、聞かせてくれんだってよ。……佐藤とのセックス」
……え……
突っ立ったままの僕に気付いた大空が、僕を横目で見上げる。
鋭くて、怖い目……
「………」
視線が合ったまま、逸らせない。
『……カムフラージュかもよ?』──ミキさんの言葉が、脳裏を掠める。
「何だよ大空。勿体ぶんなよ」
「……ヤったんだろ?」
次々と囃し立てる、傍聴男子達。その異様な空気の中、無表情に変わった大空が、僕から視線を外して口を開く。
「……まーな」
───瞬間。
しとしとと降り出す雨。
僕の頭上に。心に。
じめじめと重たい空気が、僕の体に纏わり付く。
昨夜から、降ったり止んだりを繰り返すしとしと雨。
灰色の空。
湿気を含んだ、重苦しい空気。
じめじめとした校舎内に入れば、あちこち雨や泥で汚れ、それだけで憂鬱な気分になる。
けど……
大空とバイクで出掛けた日の出来事が、僕の気持ちを押し上げてくれた。
梅雨の季節が、少しだけ嫌なものではなくなる。
薄暗い廊下。
元気な声を上げる女子生徒達の横を通り、教室のドアを開けた。
「……おぉー!」
目に飛び込んだのは、窓際に固まって何やら騒いでいる数人の男子。
その輪の中にいた今井が、僕に気付くなり片手を上げて手招いた。
「お前もこっちに来いよ!」
ニヤニヤする今井に気後れしながらも、断れずにそっと近付く。
今井の傍に立って見れば、その中心にいたのは──大空。
「……で、どうだったんだよ」
「佐藤を家に連れ込んで。……で、その後、カモぉーン!」
「カモぉーン!」
興奮気味の男子五人が、一人椅子に座る大空に前のめりになる。
状況が把握できないまま戸惑っていれば、僕の肩に腕を回した今井が、耳元に唇を寄せて囁く。
「今から大空が、聞かせてくれんだってよ。……佐藤とのセックス」
……え……
突っ立ったままの僕に気付いた大空が、僕を横目で見上げる。
鋭くて、怖い目……
「………」
視線が合ったまま、逸らせない。
『……カムフラージュかもよ?』──ミキさんの言葉が、脳裏を掠める。
「何だよ大空。勿体ぶんなよ」
「……ヤったんだろ?」
次々と囃し立てる、傍聴男子達。その異様な空気の中、無表情に変わった大空が、僕から視線を外して口を開く。
「……まーな」
───瞬間。
しとしとと降り出す雨。
僕の頭上に。心に。
じめじめと重たい空気が、僕の体に纏わり付く。
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