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第一幕:彼岸花に呪われた王
1-5:散らされた純潔※
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紺色の空に瞬く星々が眩しい。館の二階、自室の窓から見える光景に、シュトリカはようやく一日で溜まった緊張を解きほぐした。広い室内には自分とペクだけ。鳥籠に収まったペクは、今は鳴くこともなく、羽根に頭をうずめるようにして眠っている。
着ている寝間着は薄く、開けていた窓から入りこむ風が少し、冷たい。裸足のまま硝子の窓を閉め、大きな寝台の隅に座ってため息をついた。
「……床で寝たら、さすがに怒られる……かな」
普段、直接い草の上で眠っていた身としては、寝台の柔らかさには慣れそうにもない。ただでさえ夜の湯浴みでも、気恥ずかしさが上回っていたのだから。令嬢という仮面を被るには、自分はあまりにも出来損ないだ。
せめて、隅の堅いところで寝るようにしよう――そう思い、寝台の横にある角灯を消そうとした、刹那。
扉が叩かれもせずに開く音がした。表のものではない。隣室の、エンファニオの寝室に続く扉が開いていた。その間の暗がりに見慣れた姿を見つけ、慌てて立ち上がる。
「へ、陛下。どうしたんですか? こんな夜に」
人影、すなわちエンファニオは答えない。うつむいたまま、部屋に入ってくる。
「陛下……?」
エンファニオもまた寝間着で、長い髪は解かれ、顔がよく見えない。正面に立ち、そっとその面を覗きこもうとした瞬間だった。
突然ペクが鳴いた。首だけで振り返る。途端、肩を突き飛ばされ、寝台へ倒れこむ。
「きゃっ……!」
小さく悲鳴を上げるシュトリカの上に、エンファニオが覆い被さってくる。両腕を押さえる力は強く、顔を上げないエンファニオの行動に、ただうろたえるばかりだ。
「……また会えたな。シュトリカ」
くぐもった声は低い。唖然とする自分の前で、エンファニオの面が上がる。その右頬に光るのは、彼岸花の紋様だ。紫の瞳には、底冷えするような冷たい眼差しがあった。
「嘘……」
理解する。呪いがまた、現れたのだと。確かに昼間、封じこめたはずなのに――驚愕と混乱で震えるシュトリカへ、エンファニオは酷薄な笑みを浮かべて顔を近付けてくる。
「言ったはずだ。俺を抑えこむことができると思うならば、と。確かに多少辛かったが」
「で、でも、あなたは消えたはずですっ。昼間だって、普通に」
「我ながらいい演技だったと思わないか? 善人ぶるのに反吐が出そうだったがな」
「そんな……陛下になりすましていたんですか……?」
そこで、気付く。ペクがエンファニオの下へ行かなかったことを。鳥は主人の変調を見越し、エンファニオへ近づかなかったのではないだろうか、と。顔が自然と青ざめる。
「いい顔だな、シュトリカ。笑顔もいいが、怯えているときの姿も好ましい」
「い、いや……」
首筋に息を吹きかけられ、体が跳ねる。逃れようと必死にもがくも、力は強く、片腕すら上げることが叶わない。足掻く自分を固めるように、エンファニオは体の隙間に長躯を滑りこませてくる。くつくつと小さく、逃れる様すら楽しむ笑みすら零して。
「お前が悲鳴を上げれば、使用人が来るだろう。だが、お優しい陛下が無理やり令嬢の体を貪っていると知れば……さて、どうなるだろうな」
「そんな……!」
自分が助けを求めれば、エンファニオの秘密が露見してしまう。それを示唆され、絶望の淵に叩きこまれた。抵抗する力が自然と抜ける。その隙を突くように、エンファニオが再び唇を首筋に当ててくる。
「ああ……いい香りだ。甘い、お前の香りがする。味は、どうだ」
「ふあっ……」
舌で筋をなぞられ、得体の知れない感覚が心身を襲う。執拗に首から鎖骨にかけて舐められていくうちに、舌の熱で頭がぼうっとしてきた。力がますます抜けていく。
「感じやすいな、シュトリカ。本当に愛らしい。お前の痴態をもっと、見せろ」
「やめて……陛下、やめて、下さい……」
「俺はお前の知る陛下ではない。そうだな……アーベと呼べ」
エンファニオ――いや、アーベはシュトリカの開いた胸元、その谷間すら舌で愛撫しながら、持ち上げるように胸を揉みはじめた。
「ん、んんっ」
「意外に大きいな。ほら、先ももう、こんなに尖っている。感じているんだろう?」
「あん……っ!」
寝間着の上から胸の頂きをしゃぶられ、シュトリカは背筋を反らした。胸の蕾を舌先で転がされる感覚は、今まで感じたことのない熱をもたらし、口からは勝手に嬌声が出る。
男女の営みは経験したことがない。ただ、雑技団で育ての母が男性と交わっている姿を見たことが数度、あるだけだ。恥ずかしくてすぐにその場を立ち去ったが。そのとき聞いた義母の声音と、今、発している声はどこまでも似ており、淫らな自分に涙が出てくる。
けれど、助けは呼べない。あの優しいエンファニオの秘密が、自分のせいで暴かれてはならないのだ。恥辱に耐え、ただ、唇を噛みしめて声を殺す。
「ふん……服が邪魔だな。少しの間動くなよ、シュトリカ」
顔を外したアーベが、小さく何かを唱えた。二本の指先に緑色の光が灯る。風の魔術、そう理解した途端、指は鋭利なナイフと化し、易々と着ていた寝間着を切り裂いた。胸元から、それこそ恥骨の近くまで。自分の肌を覆い隠すものはもう、何もない。
「み、見ないで……あ、っ」
暴かれた胸を隠そうとしたが、無駄だった。手を動かすより早く、アーベが肌に口付けを落としてくる。啄むように乳房の頂点、尖った乳首を吸われて、また上擦った声が出る。
アーベの動きは止まらない。完全に前を破き、下の和毛へと手を伸ばしていく。
「だめ……こんなの、だめ、です……」
「お前の泣き顔は俺を煽る。だからこそ俺が出た。啼け、シュトリカ。俺のためだけに」
「あ、あっ!」
和毛の下、自分以外に触れたことのない秘芽をアーベの指が爪弾いた刹那、体に淫悦が走る。溢れた愛蜜を掬うように擦られて、立てた膝がガクガクと震えた。
「いや、いや……ぁ!」
頭の中に閃光が走る。目の前が真っ白になり、一際大きく体がひくついた。
「ほう、達したか。下の蜜はより甘く感じるぞ。どんな蜜より濃厚な甘露だ」
感じたことのない悦楽に翻弄されるシュトリカの前で、アーベは指にまとわりついた愛液を口に含む。シュトリカは息が上手くできず、答えることすらままならない。すっかり力が抜けたのを見越してだろう、アーベが静かに唇を重ねてくる。
舌で無理やり唇をこじ開け、歯列をなぞられた。苦しくて余計に口を開けば、舌を絡められて強引に吸われる。想像もできない濃密な口付けは、ますます思考を奪っていく。
「う、ぅん……」
体中を弄っていたアーベの手が、再び秘部に降りた。愛芯をくすぐりながら、ゆっくりと隘路の中へと指を突き入れられ、胎からくる違和感にただ身をよじる。長い指が奥の一部を擦ったとき、全員に稲妻が走ったようになって、思わず顔を背けた。
「あ、あっ……いやっ。そこ……ぉっ」
「なるほど、お前の善い部分は、ここか」
唇を離したアーベはまるで、獣のような精悍な笑みを浮かべてシュトリカを責め立てる。苦しさと快感に喘ぎ、身を震わせるだけしかできない様を楽しむように。胸の尖りを舐め、乳暈ごとむしゃぶりつきながら、隘路で動かす指を増やしていく。
「ひあ、ああ、だめ、やめて……ぇ」
重点的に弱い部分をいじられたシュトリカは、子供みたく頭を振る。体が熱い。何も、考えられない。ただ涙を零し、与えられる淫らな感覚をただ、恐れた。
また、来る――波のような感覚が体を支配した瞬間、指が秘孔から抜けていく。
「そろそろ頃合いだな」
「あ……」
両膝を掴まれ、広げられた。閉じようとしても無駄だった。いつの間に衣を脱いだのか、裸体となったアーベの下腹部、昂りの先が、秘裂にぴたりとあてがわれている。
「やめて、それ、それだけはやめてっ」
「お前の中は物欲しそうに蠢いていたぞ? 正直な体に、褒美をくれてやる」
わななくシュトリカとは裏腹に、アーベが浮かべる笑いは凄惨たるものだ。情欲の炎が瞳には灯り、嗜虐で口元は歪んでいる。見たこともない恐ろしい顔に、逃れようと腰を引く。だがそんな抵抗も、強い力で引き戻されては無意味だった。
「ああぁあっ!」
腰を掴まれた瞬間、同時に怒張がシュトリカの純潔を引き裂いた。破瓜の激痛と奥から来る圧迫感に悲鳴が漏れる。
「ああ……シュトリカ。ようやく一つになれたな。痛いか?」
アーベが腰を打ちつけてくる都度、異物感と痛覚でシュトリカは涙を零す。何度呼吸をしても苦しさが止まらず、シーツを握る手に余計、力がこもった。
「いた……っ……抜い、てっ……」
「お前の泣き顔も、声も、やはりいい。安心しろ、じきに善くなるぞ。毎晩抱いてやろう。お前が慕うあいつではなく、この俺が、お前に女の喜びを叩きこんでやる」
酷薄な台詞を聞きながら、体を襲う激痛に、シュトリカは全てを諦めた。力が抜ける。涙だけが溢れ、寝台が軋む音とアーベの荒い呼気だけをただ、聞いていた。
あのまま雑技団にいたなら、いずれはこうなる定めだったのだ。名も知らぬ貴族に売られかけたことも、幾度となくある。乙女でなくなるのは、早いか遅いかの違いだけ。
「……何を考えている」
シュトリカは潤む視界で見た。アーベの瞳を。エンファニオと同じで、全く異なる目を。
どうして彼は、わたしなんかを抱くのだろう――途切れそうになる意識の中、そう思った。女なら誰でもよかったのだろうか。だとしたら、犠牲になるのは自分だけでいい。
優しいエンファニオのことを考えた。エンファニオがこのことを知れば、きっと胸を痛めるだろう。苦悶に満ちた彼の顔を想像するだけで、心が痛くなる。優しい陛下には笑っていてほしい。その力になるため、そのために自分がいたのに、叶わなかった――
「俺を見ろ、シュトリカ。名を、呼べ」
「……アーベ、様……」
「そうだ。お前を抱いているのはエンファニオではない。俺だ。アーベだ」
この人はエンファニオではない。自分の純潔を奪ったのは、呪いの化身。そのことに、どこか寂しさにも似たものを感じるけれど、体の変調が思考をさらった。
「ん、んん……」
蜜壺の奥近くを熱い塊で擦られるたび、じわじわと痛みではなく別の感覚がせり上がってくる。それは紛れもない快感だ。回すように腰を動かされれば、より深くそれを感じる。
「あっ……あ、んっ」
「凄いな。突いていなくても絡みついてくるぞ……ここが、弱いのか」
「ふあ、あっ……やぁっ」
何度も、何度も、執拗に肉楔で弱いところを嬲られる。いつしかシュトリカの媚肉は適格な責め立てで、肉竿の動きと大きさに馴染むようになっていた。
「あ、ああ、んっ。ん、う……」
「いい声で啼く。全てが愛らしく可愛いな、シュトリカ」
「あ、だめ、わた、しっ……変に、なる……ぅ」
二人の結合部からは、蜜が猛りで掻き回される、いやらしい音が響いている。シュトリカの口からは甘い声が漏れ出て止まない。足を広げて持ち上げられ、激しく腰を打ち据えられれば、より強い淫楽が痛みを乗り越えてシュトリカの中で暴れる。
「あ、あ、わたしっ、わたし……こんな、ああっ」
「そろそろ出すぞ。胎の中に全部出してやる。俺の子を、孕め」
「いや、あぁっ、あ、あああっ、いや、だめぇ……!」
拒絶と悦楽の最中をさまよっているためか、呂律は回らない。だが、馴染んだ蜜肉はきゅうきゅうに雄茎を締めつけ、それを悟ったアーベがより激しく腰を突き動かした。
「ひっ、あ、あーっ!」
亀頭の先で感じる部分を擦られた刹那、シュトリカは法悦の果てに達し、のけ反る。その勢いに吐息を漏らしたアーベは遠慮も迷いもなく、ありったけの欲望をシュトリカの胎内へと放った。どくどくと熱い奔流が流れてくる感覚に、シュトリカの体はひくつく。
「く、っ……」
涙を散らし、溶岩の熱さにも似た飛沫を受け止めるシュトリカの前で、アーベは一つ呻くと頭を垂れた。そして、シュトリカの上へ倒れこむ。
恐ろしく静かな空間に変わった部屋。シュトリカは回らない思考で、ただ熱を帯びた男の体温だけを感じていた。
どうしよう――何をどうすればいいのか、全く頭が回らない。体は気怠く、酷く重い。
少し身じろぎをしたとき、ゆっくりとアーベが体を起こしたのに気付く。
「……シュト、リカ……?」
その声は優しく、自分を覗きこむ瞳もまた、ぼんやりとしていたが穏やかだ。
「……陛下?」
これは、アーベではない。そう思って渇いた喉でエンファニオを呼ぶと、その美しい顔が悲痛なものに変わった。整った肢体が震えている。我に返ったのだろう、状況を理解したのか静かに、揺れる手でこちらの頭を労るように撫でながら。
「私は……私は君に、なんということを……」
「元に、戻ったん、ですね……」
よかった――そうささやいて、強烈な微睡みの赴くままにシュトリカは目を閉じた。
すまない、と何度もささやくエンファニオの声を、耳にしながら。
着ている寝間着は薄く、開けていた窓から入りこむ風が少し、冷たい。裸足のまま硝子の窓を閉め、大きな寝台の隅に座ってため息をついた。
「……床で寝たら、さすがに怒られる……かな」
普段、直接い草の上で眠っていた身としては、寝台の柔らかさには慣れそうにもない。ただでさえ夜の湯浴みでも、気恥ずかしさが上回っていたのだから。令嬢という仮面を被るには、自分はあまりにも出来損ないだ。
せめて、隅の堅いところで寝るようにしよう――そう思い、寝台の横にある角灯を消そうとした、刹那。
扉が叩かれもせずに開く音がした。表のものではない。隣室の、エンファニオの寝室に続く扉が開いていた。その間の暗がりに見慣れた姿を見つけ、慌てて立ち上がる。
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人影、すなわちエンファニオは答えない。うつむいたまま、部屋に入ってくる。
「陛下……?」
エンファニオもまた寝間着で、長い髪は解かれ、顔がよく見えない。正面に立ち、そっとその面を覗きこもうとした瞬間だった。
突然ペクが鳴いた。首だけで振り返る。途端、肩を突き飛ばされ、寝台へ倒れこむ。
「きゃっ……!」
小さく悲鳴を上げるシュトリカの上に、エンファニオが覆い被さってくる。両腕を押さえる力は強く、顔を上げないエンファニオの行動に、ただうろたえるばかりだ。
「……また会えたな。シュトリカ」
くぐもった声は低い。唖然とする自分の前で、エンファニオの面が上がる。その右頬に光るのは、彼岸花の紋様だ。紫の瞳には、底冷えするような冷たい眼差しがあった。
「嘘……」
理解する。呪いがまた、現れたのだと。確かに昼間、封じこめたはずなのに――驚愕と混乱で震えるシュトリカへ、エンファニオは酷薄な笑みを浮かべて顔を近付けてくる。
「言ったはずだ。俺を抑えこむことができると思うならば、と。確かに多少辛かったが」
「で、でも、あなたは消えたはずですっ。昼間だって、普通に」
「我ながらいい演技だったと思わないか? 善人ぶるのに反吐が出そうだったがな」
「そんな……陛下になりすましていたんですか……?」
そこで、気付く。ペクがエンファニオの下へ行かなかったことを。鳥は主人の変調を見越し、エンファニオへ近づかなかったのではないだろうか、と。顔が自然と青ざめる。
「いい顔だな、シュトリカ。笑顔もいいが、怯えているときの姿も好ましい」
「い、いや……」
首筋に息を吹きかけられ、体が跳ねる。逃れようと必死にもがくも、力は強く、片腕すら上げることが叶わない。足掻く自分を固めるように、エンファニオは体の隙間に長躯を滑りこませてくる。くつくつと小さく、逃れる様すら楽しむ笑みすら零して。
「お前が悲鳴を上げれば、使用人が来るだろう。だが、お優しい陛下が無理やり令嬢の体を貪っていると知れば……さて、どうなるだろうな」
「そんな……!」
自分が助けを求めれば、エンファニオの秘密が露見してしまう。それを示唆され、絶望の淵に叩きこまれた。抵抗する力が自然と抜ける。その隙を突くように、エンファニオが再び唇を首筋に当ててくる。
「ああ……いい香りだ。甘い、お前の香りがする。味は、どうだ」
「ふあっ……」
舌で筋をなぞられ、得体の知れない感覚が心身を襲う。執拗に首から鎖骨にかけて舐められていくうちに、舌の熱で頭がぼうっとしてきた。力がますます抜けていく。
「感じやすいな、シュトリカ。本当に愛らしい。お前の痴態をもっと、見せろ」
「やめて……陛下、やめて、下さい……」
「俺はお前の知る陛下ではない。そうだな……アーベと呼べ」
エンファニオ――いや、アーベはシュトリカの開いた胸元、その谷間すら舌で愛撫しながら、持ち上げるように胸を揉みはじめた。
「ん、んんっ」
「意外に大きいな。ほら、先ももう、こんなに尖っている。感じているんだろう?」
「あん……っ!」
寝間着の上から胸の頂きをしゃぶられ、シュトリカは背筋を反らした。胸の蕾を舌先で転がされる感覚は、今まで感じたことのない熱をもたらし、口からは勝手に嬌声が出る。
男女の営みは経験したことがない。ただ、雑技団で育ての母が男性と交わっている姿を見たことが数度、あるだけだ。恥ずかしくてすぐにその場を立ち去ったが。そのとき聞いた義母の声音と、今、発している声はどこまでも似ており、淫らな自分に涙が出てくる。
けれど、助けは呼べない。あの優しいエンファニオの秘密が、自分のせいで暴かれてはならないのだ。恥辱に耐え、ただ、唇を噛みしめて声を殺す。
「ふん……服が邪魔だな。少しの間動くなよ、シュトリカ」
顔を外したアーベが、小さく何かを唱えた。二本の指先に緑色の光が灯る。風の魔術、そう理解した途端、指は鋭利なナイフと化し、易々と着ていた寝間着を切り裂いた。胸元から、それこそ恥骨の近くまで。自分の肌を覆い隠すものはもう、何もない。
「み、見ないで……あ、っ」
暴かれた胸を隠そうとしたが、無駄だった。手を動かすより早く、アーベが肌に口付けを落としてくる。啄むように乳房の頂点、尖った乳首を吸われて、また上擦った声が出る。
アーベの動きは止まらない。完全に前を破き、下の和毛へと手を伸ばしていく。
「だめ……こんなの、だめ、です……」
「お前の泣き顔は俺を煽る。だからこそ俺が出た。啼け、シュトリカ。俺のためだけに」
「あ、あっ!」
和毛の下、自分以外に触れたことのない秘芽をアーベの指が爪弾いた刹那、体に淫悦が走る。溢れた愛蜜を掬うように擦られて、立てた膝がガクガクと震えた。
「いや、いや……ぁ!」
頭の中に閃光が走る。目の前が真っ白になり、一際大きく体がひくついた。
「ほう、達したか。下の蜜はより甘く感じるぞ。どんな蜜より濃厚な甘露だ」
感じたことのない悦楽に翻弄されるシュトリカの前で、アーベは指にまとわりついた愛液を口に含む。シュトリカは息が上手くできず、答えることすらままならない。すっかり力が抜けたのを見越してだろう、アーベが静かに唇を重ねてくる。
舌で無理やり唇をこじ開け、歯列をなぞられた。苦しくて余計に口を開けば、舌を絡められて強引に吸われる。想像もできない濃密な口付けは、ますます思考を奪っていく。
「う、ぅん……」
体中を弄っていたアーベの手が、再び秘部に降りた。愛芯をくすぐりながら、ゆっくりと隘路の中へと指を突き入れられ、胎からくる違和感にただ身をよじる。長い指が奥の一部を擦ったとき、全員に稲妻が走ったようになって、思わず顔を背けた。
「あ、あっ……いやっ。そこ……ぉっ」
「なるほど、お前の善い部分は、ここか」
唇を離したアーベはまるで、獣のような精悍な笑みを浮かべてシュトリカを責め立てる。苦しさと快感に喘ぎ、身を震わせるだけしかできない様を楽しむように。胸の尖りを舐め、乳暈ごとむしゃぶりつきながら、隘路で動かす指を増やしていく。
「ひあ、ああ、だめ、やめて……ぇ」
重点的に弱い部分をいじられたシュトリカは、子供みたく頭を振る。体が熱い。何も、考えられない。ただ涙を零し、与えられる淫らな感覚をただ、恐れた。
また、来る――波のような感覚が体を支配した瞬間、指が秘孔から抜けていく。
「そろそろ頃合いだな」
「あ……」
両膝を掴まれ、広げられた。閉じようとしても無駄だった。いつの間に衣を脱いだのか、裸体となったアーベの下腹部、昂りの先が、秘裂にぴたりとあてがわれている。
「やめて、それ、それだけはやめてっ」
「お前の中は物欲しそうに蠢いていたぞ? 正直な体に、褒美をくれてやる」
わななくシュトリカとは裏腹に、アーベが浮かべる笑いは凄惨たるものだ。情欲の炎が瞳には灯り、嗜虐で口元は歪んでいる。見たこともない恐ろしい顔に、逃れようと腰を引く。だがそんな抵抗も、強い力で引き戻されては無意味だった。
「ああぁあっ!」
腰を掴まれた瞬間、同時に怒張がシュトリカの純潔を引き裂いた。破瓜の激痛と奥から来る圧迫感に悲鳴が漏れる。
「ああ……シュトリカ。ようやく一つになれたな。痛いか?」
アーベが腰を打ちつけてくる都度、異物感と痛覚でシュトリカは涙を零す。何度呼吸をしても苦しさが止まらず、シーツを握る手に余計、力がこもった。
「いた……っ……抜い、てっ……」
「お前の泣き顔も、声も、やはりいい。安心しろ、じきに善くなるぞ。毎晩抱いてやろう。お前が慕うあいつではなく、この俺が、お前に女の喜びを叩きこんでやる」
酷薄な台詞を聞きながら、体を襲う激痛に、シュトリカは全てを諦めた。力が抜ける。涙だけが溢れ、寝台が軋む音とアーベの荒い呼気だけをただ、聞いていた。
あのまま雑技団にいたなら、いずれはこうなる定めだったのだ。名も知らぬ貴族に売られかけたことも、幾度となくある。乙女でなくなるのは、早いか遅いかの違いだけ。
「……何を考えている」
シュトリカは潤む視界で見た。アーベの瞳を。エンファニオと同じで、全く異なる目を。
どうして彼は、わたしなんかを抱くのだろう――途切れそうになる意識の中、そう思った。女なら誰でもよかったのだろうか。だとしたら、犠牲になるのは自分だけでいい。
優しいエンファニオのことを考えた。エンファニオがこのことを知れば、きっと胸を痛めるだろう。苦悶に満ちた彼の顔を想像するだけで、心が痛くなる。優しい陛下には笑っていてほしい。その力になるため、そのために自分がいたのに、叶わなかった――
「俺を見ろ、シュトリカ。名を、呼べ」
「……アーベ、様……」
「そうだ。お前を抱いているのはエンファニオではない。俺だ。アーベだ」
この人はエンファニオではない。自分の純潔を奪ったのは、呪いの化身。そのことに、どこか寂しさにも似たものを感じるけれど、体の変調が思考をさらった。
「ん、んん……」
蜜壺の奥近くを熱い塊で擦られるたび、じわじわと痛みではなく別の感覚がせり上がってくる。それは紛れもない快感だ。回すように腰を動かされれば、より深くそれを感じる。
「あっ……あ、んっ」
「凄いな。突いていなくても絡みついてくるぞ……ここが、弱いのか」
「ふあ、あっ……やぁっ」
何度も、何度も、執拗に肉楔で弱いところを嬲られる。いつしかシュトリカの媚肉は適格な責め立てで、肉竿の動きと大きさに馴染むようになっていた。
「あ、ああ、んっ。ん、う……」
「いい声で啼く。全てが愛らしく可愛いな、シュトリカ」
「あ、だめ、わた、しっ……変に、なる……ぅ」
二人の結合部からは、蜜が猛りで掻き回される、いやらしい音が響いている。シュトリカの口からは甘い声が漏れ出て止まない。足を広げて持ち上げられ、激しく腰を打ち据えられれば、より強い淫楽が痛みを乗り越えてシュトリカの中で暴れる。
「あ、あ、わたしっ、わたし……こんな、ああっ」
「そろそろ出すぞ。胎の中に全部出してやる。俺の子を、孕め」
「いや、あぁっ、あ、あああっ、いや、だめぇ……!」
拒絶と悦楽の最中をさまよっているためか、呂律は回らない。だが、馴染んだ蜜肉はきゅうきゅうに雄茎を締めつけ、それを悟ったアーベがより激しく腰を突き動かした。
「ひっ、あ、あーっ!」
亀頭の先で感じる部分を擦られた刹那、シュトリカは法悦の果てに達し、のけ反る。その勢いに吐息を漏らしたアーベは遠慮も迷いもなく、ありったけの欲望をシュトリカの胎内へと放った。どくどくと熱い奔流が流れてくる感覚に、シュトリカの体はひくつく。
「く、っ……」
涙を散らし、溶岩の熱さにも似た飛沫を受け止めるシュトリカの前で、アーベは一つ呻くと頭を垂れた。そして、シュトリカの上へ倒れこむ。
恐ろしく静かな空間に変わった部屋。シュトリカは回らない思考で、ただ熱を帯びた男の体温だけを感じていた。
どうしよう――何をどうすればいいのか、全く頭が回らない。体は気怠く、酷く重い。
少し身じろぎをしたとき、ゆっくりとアーベが体を起こしたのに気付く。
「……シュト、リカ……?」
その声は優しく、自分を覗きこむ瞳もまた、ぼんやりとしていたが穏やかだ。
「……陛下?」
これは、アーベではない。そう思って渇いた喉でエンファニオを呼ぶと、その美しい顔が悲痛なものに変わった。整った肢体が震えている。我に返ったのだろう、状況を理解したのか静かに、揺れる手でこちらの頭を労るように撫でながら。
「私は……私は君に、なんということを……」
「元に、戻ったん、ですね……」
よかった――そうささやいて、強烈な微睡みの赴くままにシュトリカは目を閉じた。
すまない、と何度もささやくエンファニオの声を、耳にしながら。
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