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終章 いつまでも物作りを
第161話 ずっと未来の礎を作るのがおれたちなら
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数日間に渡る会談の結果、グラモルと各国との休戦条約を無事に締結させることができた。
そして帰り際、おれはアルミエスに声をかける。
数日前に語らい合ったとき、彼女が見せた寂しそうな顔がずっと引っかかっていた。
「アルミエス、ショウ・シュフィール氏の件だけれど……。あなたは期待外れと言ったけれど、おれじゃなくて、べつに生まれ変わりがいるのかもしれないよ」
アルミエスは表情に諦観を滲ませる。
「どうかな。いるなら、お前たちより先に会いに来ていそうなものだが」
「まだ生まれていなかったり、まだ幼かったりするのかもしれない」
「ハルトのように、か?」
アルミエスは、自分で言ったことにくすりと笑う。
「そうだといいがな」
名前を出されて驚いたのか、ハルトは目を丸くしたあと、上目遣いでアルミエスを見つめる。
「よくわかりませんけれど、ぼくで、よければ……」
その仕草に、アルミエスはまた笑ってしまう。
「戯言だ。お前は気にしなくていい」
アルミエスはまたおれに顔を向ける。
「生まれ変わりなど、やはりあり得なかったんだ。人は、死んだら終わりなんだよ」
「わたしは、そうは思いません」
ソフィアが綺麗な黄色い瞳でアルミエスを見つめる。
「わたしが亡き父の魂を受け継いで、それがショウさんや、他の方々にも伝わっていったように……。たとえ開発者が亡くなったとしても、より良い物を何人もの赤の他人が生み出すように……。誰かの魂は、特定のひとりのみに受け継がれるものとは限らないのではないでしょうか」
「面白い考え方だな。生まれ変わりは、ひとりでないかもしれないわけか……」
おれも感心して同意する。
「おれは彼の技術を【クラフト】で受け継いで、その名前も不思議な縁でもらったけれど……あなたを愛した心や約束の記憶は、他の誰かに受け継がれているかもしれないね」
「だとしたら、嬉しいのだがな」
肩をすくめてから、アルミエスは身を翻した。顔だけをこちらに向ける。
「さあ、もう用事は済んだだろう。馴れ合うつもりはないんだ。さっさと帰って、この私に認められるような物を作ってみるんだな」
「そうだね。そろそろ、そうさせてもらうよ」
「じゃあね、アルミエス。また会いに来るわ。今度はお祖母ちゃんも連れて。きっと会いたがってるから」
「来なくていい。余計なお世話だ」
ノエルの言をにべもなく断る。すると、ハルトはショックを受けたようだった。
「あいにきては、だめなのですか……?」
「むぅ……」
「あー、アルミエス。小さい子泣かせるんだぁ?」
「アルミエス、それは良くない。こんな愛らしい少年を泣かせるなんて、本当に極悪非道の魔王だ」
アリシアもノエルに乗っかって、冗談めかして責める。
「お前たち、ハルトを盾にするんじゃない。わかった。来るなとは言わない。ただし、歓迎はしないからな」
「それは良かった。なら今度は私の子のロイドも連れてこよう。この前話していた愛玩用の合成生物を見せてやって欲しいんだ」
「歓迎しないと言っているだろ!」
「そう言わないでください。あなたの凄い技術の片鱗だけでも拝見したいのです。あなたは、わたしたちの憧れなのですから」
「おだてるな、まったく!」
アルミエスは、ぷいっ、とそっぽを向いて、今度こそ立ち去っていく。
ただ、最後に見えた表情はどこか嬉しそうだった。
「これからもよろしく、アルミエス」
返事はなかったが、その背中からは拒絶の空気は感じられなかった。
「……これから、また忙しくなりそうだ」
「王様になるには、もっと色々と作らなきゃならないものね。実績に、人脈に、もちろん新技術も。頑張らなきゃね~♪」
「頑張るのは君もだよ、ノエル? おれひとりじゃきっと不足だからさ。手伝ってもらうことがいっぱいある」
「お任せあれ。なんでも頼ってくれていいからね」
「ショウ、貴方はどんな王になって、どんな国にしたい?」
アリシアに問われて、おれは少しだけ考える。
「そうだなぁ……どんな王になるかっていうのは、まだ思い浮かばないけど……。物作りでみんなが幸せになれる国にしたいな。それを世界中に振りまいてさ。どこかで技術の使い方を間違えたとしても、必ず正して、苦しむ人が少なくなるような……そんなことができる国にしたい」
「いいな。それはきっと、今以上に良い国になる」
「はい。これから、楽しみですね。アルミエスさんと約束の十年間。その先の切磋琢磨の日々に……わたしたちの後の世代の発展……」
ソフィアは優しい表情で、ハルトを瞳に映す。
「ずっとずっと先の進歩も、すべて見守っていられるアルミエスさんが羨ましいです」
「そうだね。でも、そのずっと未来の礎を作るのがおれたちなら、それはそれで、やっぱりわくわくするよ」
おれはグラモルの城下町を眺める。そこには、もうすでに発展の兆しがある。
アルミエスはグラモルを、どのように豊かにしていくだろう?
そしておれたちは、メイクリエでどこまでやれるだろう?
この競い合いで、どれほど世界に幸せを作れるだろう――?
「さぁて、次はみんな、なにが作りたい?」
尋ねると、ソフィアもノエルもアリシアも、ハルトまで思い思いにアイディアを口にする。
そんな心地よい響きが、各々の胸にわくわくを宿す。
さっそく武装工房車に乗り込んで、おれたちは物作りしながら帰路を征くのだった。
そして帰り際、おれはアルミエスに声をかける。
数日前に語らい合ったとき、彼女が見せた寂しそうな顔がずっと引っかかっていた。
「アルミエス、ショウ・シュフィール氏の件だけれど……。あなたは期待外れと言ったけれど、おれじゃなくて、べつに生まれ変わりがいるのかもしれないよ」
アルミエスは表情に諦観を滲ませる。
「どうかな。いるなら、お前たちより先に会いに来ていそうなものだが」
「まだ生まれていなかったり、まだ幼かったりするのかもしれない」
「ハルトのように、か?」
アルミエスは、自分で言ったことにくすりと笑う。
「そうだといいがな」
名前を出されて驚いたのか、ハルトは目を丸くしたあと、上目遣いでアルミエスを見つめる。
「よくわかりませんけれど、ぼくで、よければ……」
その仕草に、アルミエスはまた笑ってしまう。
「戯言だ。お前は気にしなくていい」
アルミエスはまたおれに顔を向ける。
「生まれ変わりなど、やはりあり得なかったんだ。人は、死んだら終わりなんだよ」
「わたしは、そうは思いません」
ソフィアが綺麗な黄色い瞳でアルミエスを見つめる。
「わたしが亡き父の魂を受け継いで、それがショウさんや、他の方々にも伝わっていったように……。たとえ開発者が亡くなったとしても、より良い物を何人もの赤の他人が生み出すように……。誰かの魂は、特定のひとりのみに受け継がれるものとは限らないのではないでしょうか」
「面白い考え方だな。生まれ変わりは、ひとりでないかもしれないわけか……」
おれも感心して同意する。
「おれは彼の技術を【クラフト】で受け継いで、その名前も不思議な縁でもらったけれど……あなたを愛した心や約束の記憶は、他の誰かに受け継がれているかもしれないね」
「だとしたら、嬉しいのだがな」
肩をすくめてから、アルミエスは身を翻した。顔だけをこちらに向ける。
「さあ、もう用事は済んだだろう。馴れ合うつもりはないんだ。さっさと帰って、この私に認められるような物を作ってみるんだな」
「そうだね。そろそろ、そうさせてもらうよ」
「じゃあね、アルミエス。また会いに来るわ。今度はお祖母ちゃんも連れて。きっと会いたがってるから」
「来なくていい。余計なお世話だ」
ノエルの言をにべもなく断る。すると、ハルトはショックを受けたようだった。
「あいにきては、だめなのですか……?」
「むぅ……」
「あー、アルミエス。小さい子泣かせるんだぁ?」
「アルミエス、それは良くない。こんな愛らしい少年を泣かせるなんて、本当に極悪非道の魔王だ」
アリシアもノエルに乗っかって、冗談めかして責める。
「お前たち、ハルトを盾にするんじゃない。わかった。来るなとは言わない。ただし、歓迎はしないからな」
「それは良かった。なら今度は私の子のロイドも連れてこよう。この前話していた愛玩用の合成生物を見せてやって欲しいんだ」
「歓迎しないと言っているだろ!」
「そう言わないでください。あなたの凄い技術の片鱗だけでも拝見したいのです。あなたは、わたしたちの憧れなのですから」
「おだてるな、まったく!」
アルミエスは、ぷいっ、とそっぽを向いて、今度こそ立ち去っていく。
ただ、最後に見えた表情はどこか嬉しそうだった。
「これからもよろしく、アルミエス」
返事はなかったが、その背中からは拒絶の空気は感じられなかった。
「……これから、また忙しくなりそうだ」
「王様になるには、もっと色々と作らなきゃならないものね。実績に、人脈に、もちろん新技術も。頑張らなきゃね~♪」
「頑張るのは君もだよ、ノエル? おれひとりじゃきっと不足だからさ。手伝ってもらうことがいっぱいある」
「お任せあれ。なんでも頼ってくれていいからね」
「ショウ、貴方はどんな王になって、どんな国にしたい?」
アリシアに問われて、おれは少しだけ考える。
「そうだなぁ……どんな王になるかっていうのは、まだ思い浮かばないけど……。物作りでみんなが幸せになれる国にしたいな。それを世界中に振りまいてさ。どこかで技術の使い方を間違えたとしても、必ず正して、苦しむ人が少なくなるような……そんなことができる国にしたい」
「いいな。それはきっと、今以上に良い国になる」
「はい。これから、楽しみですね。アルミエスさんと約束の十年間。その先の切磋琢磨の日々に……わたしたちの後の世代の発展……」
ソフィアは優しい表情で、ハルトを瞳に映す。
「ずっとずっと先の進歩も、すべて見守っていられるアルミエスさんが羨ましいです」
「そうだね。でも、そのずっと未来の礎を作るのがおれたちなら、それはそれで、やっぱりわくわくするよ」
おれはグラモルの城下町を眺める。そこには、もうすでに発展の兆しがある。
アルミエスはグラモルを、どのように豊かにしていくだろう?
そしておれたちは、メイクリエでどこまでやれるだろう?
この競い合いで、どれほど世界に幸せを作れるだろう――?
「さぁて、次はみんな、なにが作りたい?」
尋ねると、ソフィアもノエルもアリシアも、ハルトまで思い思いにアイディアを口にする。
そんな心地よい響きが、各々の胸にわくわくを宿す。
さっそく武装工房車に乗り込んで、おれたちは物作りしながら帰路を征くのだった。
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