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第一章 突然始まった非現実
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無事にトーコの装束を預け終え、工房を後にする。持ち込んだ衣装はやはり珍しいものらしく、工房の主人には「どこで手に入れたのだ」と興奮ぎみに問い詰められてしまった。古代遺跡に潜った際に手に入れたと言えば、納得はしていたが、トーコの存在は伏せておいたままがいいだろう。
自分達とは顔立ちが異なるトーコは、街中にあっても人目をひくことが多い。己が傍に居るため、彼女に声をかけたり、深く関わってくる者は居ないが。彼女が身内から逃げている可能性を考えて、なるべく人との接触は避けておきたい。
いや、本当は―
トーコを他の人間に関わらせないようにしているのは、単に己自身の感情の問題だ。トーコの身の安全を考えていることも、全くの嘘ではないが。
彼女を保護した森からここまではかなりの距離がある。当初より彼女が捕まる可能性は格段に低くなっている。それでも、他人を近づかせたくないのは、トーコがその誰かを受け入れてしまったら。もっと悪く、その相手についていくと言い出したら。
出会って間もないはずのトーコが傍に居る心地よさ。仕事を終え、彼女の元に戻る。それを笑って迎え入れてくれるトーコ。意味までは理解できずとも、嬉しそうに『ありがとう』と言うトーコの明るい声。ずっと、泣きそうな顔をしていた彼女の顔に浮かぶその表情がもっと見たくて、何かをしてやりたいと、つい願ってしまう。装束を修復に出したのも同じ。
ずっと、物心つく頃には一人で旅を続けながら世界中を巡ってきた。瘴気に覆われ滅び行くこの世界で、病に人が絶え、魔獣が蔓延る辺境の村や町をいくつも見てきた。いつかは、己もそれに体を蝕まれ朽ちていく、それだけの生なのだと思っていたのだが。
浮かんだ顔に、口元が緩む。
突然、己の前に現れた存在、トーコが、日常を変えた。誰かを気遣い、何かをしてやれることにこれ程の楽しみを見いだすとは思いもしなかった。傍に居てくれる存在に、これ程、心満たされるとも。
だから、彼女がどう思っているのかはわからないまま。出来る限り長く、彼女と共に居ることを願ってしまっている。その気持ちが、彼女に近づこうとする者を遠ざける狭量に繋がっているのだが。
ギルドでいくつか仕事を受けた後、宿への道を急いだ。市場に寄って帰りたいが、工房に寄ったせいで時間がかかってしまっている。早足で宿へと帰り、出迎えた宿の主人の蒼白な顔を見て、嫌な予感がした。階段を駆け上がり、廊下を走り抜けてたどり着いた部屋、開いたままの扉の奥には、誰の気配も無い。部屋を見渡して、トーコの姿が無いことを確認し、後ろからついてきていた主人を問い詰める。
「彼女はどこだ!?」
血の気の無い顔、大量の汗をかきながらも、首を振るだけで答えない主人に、嫌な予感は膨らむ。
「…何があった?」
それでも、答えない男に頭が冷えていく。
突然、姿を消したトーコ。扉の惨状からも、連れ去られたのは間違いないだろう。そして、目の前の男の、この反応。ただの人さらいという話ではない。一体、誰がトーコを?彼女を、どこに連れ去った―
無事にトーコの装束を預け終え、工房を後にする。持ち込んだ衣装はやはり珍しいものらしく、工房の主人には「どこで手に入れたのだ」と興奮ぎみに問い詰められてしまった。古代遺跡に潜った際に手に入れたと言えば、納得はしていたが、トーコの存在は伏せておいたままがいいだろう。
自分達とは顔立ちが異なるトーコは、街中にあっても人目をひくことが多い。己が傍に居るため、彼女に声をかけたり、深く関わってくる者は居ないが。彼女が身内から逃げている可能性を考えて、なるべく人との接触は避けておきたい。
いや、本当は―
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出会って間もないはずのトーコが傍に居る心地よさ。仕事を終え、彼女の元に戻る。それを笑って迎え入れてくれるトーコ。意味までは理解できずとも、嬉しそうに『ありがとう』と言うトーコの明るい声。ずっと、泣きそうな顔をしていた彼女の顔に浮かぶその表情がもっと見たくて、何かをしてやりたいと、つい願ってしまう。装束を修復に出したのも同じ。
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浮かんだ顔に、口元が緩む。
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だから、彼女がどう思っているのかはわからないまま。出来る限り長く、彼女と共に居ることを願ってしまっている。その気持ちが、彼女に近づこうとする者を遠ざける狭量に繋がっているのだが。
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「彼女はどこだ!?」
血の気の無い顔、大量の汗をかきながらも、首を振るだけで答えない主人に、嫌な予感は膨らむ。
「…何があった?」
それでも、答えない男に頭が冷えていく。
突然、姿を消したトーコ。扉の惨状からも、連れ去られたのは間違いないだろう。そして、目の前の男の、この反応。ただの人さらいという話ではない。一体、誰がトーコを?彼女を、どこに連れ去った―
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