10 / 65
第二章 あ、忘れてた
5.
しおりを挟む
5.
それからしばらくは、心配していたような何かが起こることもなく、平和な学校生活が過ぎていった。
変わったことと言えば、来叶にベッタリな美歌と話をすることがほとんど無くなったことぐらいで。
「でもさあ、やっぱ、三年も離れてたせいかなぁ?それでも全然寂しくないんだよねぇ」
「…」
「私って、結構薄情なやつかも」
そんな風に、チサ相手に呑気にしていたのが良くなかったのだろうか、厄介事は、また突然やって来た。
「…おい、放課後、緑地公園に来い」
「来叶?何で?」
チサとの会話に、背後から突然割り込んだ声に振り返ったが、言うだけ言った来叶は返事をすることもなく、さっさと離れていってしまう。
「何だろ?美歌のことかな?」
「…行くの?」
無表情に聞いてくるチサの声には、嫌悪が滲んでいる。
「うん。何の話かは気になるし。チサも、」
「先に帰る」
「えー!?一緒に行こうよー!」
面倒事だとわかっていて、その面倒事にチサを必死に誘う。
「一人で行ってもしんどいだけだしさー、チサが居てくれるだけで私のモチベが全然違うから!お願い!」
味方が、後で愚痴る相手が欲しいんだよと駄々をこね続ければ、断ること自体面倒になったのか、チサが渋々と承諾を口にする。
「…今回だけ」
「やったー!」
嫌々感満載の返事だったけれど、それでも最後にはチサを巻き込むことに成功した。
6限の授業が終わり、指定された通りに『緑地公園』、正式名称『三嶋自然緑地公園』に足を運んだのは良いけれど、呼び出した本人が見当たらない。
緑地公園自体、園内に大きな池があるくらい、そこそこの広さがある。細かい指定も無かったせいで、来叶を見つけることも出来ず、
「どこだろ?緑地公園しか言われてないから、何処に居るのかがわからない」
「…電話すれば?」
「来叶の番号、知らないんだよね」
「…」
チサの視線が痛い。それでどうやって見つけるつもりだったのかとその視線が言っている。
「あ、居た。あれじゃない?」
グルグルと歩き回ってようやく、見慣れたシルエットを遠目に見つけた。近づくにつれて、ある意味予想通りに、彼の隣に立つ美歌の姿も視界に入ってくる。
「おせーよ」
傍までたどり着けば、開口一番、悪態をつく来叶に苦笑する。
「何処に居るかわからなかったから、探してた」
「は?言い訳か?明莉のくせに、俺を待たせんなよ」
「…来叶くん」
適当な呼び出しをして、携帯の番号も頑なに教えようとしない来叶に責められる謂れはない。堂々と胸を張ってやれば、来叶の顔が盛大に歪んだ。
「チッ」
「それで?何の用なの?」
いつまでも来叶の不機嫌に付き合っていてはきりがない。話を進めようとすれば、来叶の顔が益々不機嫌に歪む。
「…お前、山崎達に何言ったんだよ?」
「山崎さん?美歌のこと〆ようみたいなこと言ってたから、『やめて』とは言ったよ?」
まさか、本当に何か手を出されたのだろうか―?
「はぁ!?ふざけんなよ!お前があいつらに『俺が美歌のことを迷惑がってる』とか、適当なこと吹き込んだんだろうが!」
「いや、そんなことは言ってないよ」
むしろ、それは来叶が実際に言ったのだと思っていたが。違ったのだろうか?彼女達のウソ?それとも、
「…山崎さん達に言われたの、『来叶が迷惑してる。さっさと別れろ』って」
「なるほど。でも、それで何で私が何か言ったことになるの?本当に何も言ってないよ」
はっきりと言いきれば、黙り込んでしまった美歌が、助けを求めるようにチラチラと来叶に視線を送る。
「…山崎達が言ってたんだよ。お前、先週、あいつらと遊びに行ったんだろ」
「遊びに、というかカラオケには行った。けど、そこで二人の関係についてどうこうは、何も、」
「嘘ついてんじゃねーよ!美歌に嫉妬したんだろ!?俺がお前を選ばずに美歌を選んだから」
突然激昂する来叶に違和感を感じる。本当に怒っているというよりは、怒っている振りをしているような?
「ごめんね、本当にごめんね、明莉ちゃん!」
「え?いや、」
「言っとくけどな!いくらお前が俺を好きでも、俺がお前を選ぶことは絶対にねーよ!」
どうやら、私が嫉妬から『来叶は美歌に迷惑している』という発言をしたということで、話を決着させたいらしい―
「ブスなだけじゃなく、性格まで歪んでる女を誰が選ぶか!二度と俺らに話しかけんじゃねえ!」
「待って、来叶くん!ごめんね、明莉ちゃん!」
言い捨てた来叶が背を向けて歩き出し、その後を美歌が小走りで追いかけていく。二人の背中を、一瞬ぼうっと見送って、ハッとした。
「え?あれ、メッチャふられた?」
意味不明の状況に、理解が追いつかない。
「…あの男のこと、本当はまだ好きだったの?」
「いやいや、本当にもう、これっぽっちも恋心は残ってないんだけど、それでも幼馴染みだからさぁ。友達?じゃないけど」
そんな関係を続けていくんだと思っていたのに。
「絶縁?されてしまった…」
「良かったわね」
「え?あれ?そう?良かったかな?」
当然だとばかりに頷くチサに、自分でもよく考えてみる。確かに、幼馴染みを一人失ったことは寂しいと感じるけれど、これで来叶達と山崎さんとの間のゴタゴタに巻き込まれることは無くなった。なら―
「良かった、かも?」
「…」
それでもまだ断言出来ずに疑問符がついてしまったが、満足気な微笑を浮かべるチサに、つられて笑ってしまう。気分も晴れて、さあ、改めて帰るか、とチサに声をかけようとした瞬間、チサの表情が凄みを帯びた。
それはかつて、魔王討伐の旅をしていた頃に彼女がよく見せていた表情だった。
それからしばらくは、心配していたような何かが起こることもなく、平和な学校生活が過ぎていった。
変わったことと言えば、来叶にベッタリな美歌と話をすることがほとんど無くなったことぐらいで。
「でもさあ、やっぱ、三年も離れてたせいかなぁ?それでも全然寂しくないんだよねぇ」
「…」
「私って、結構薄情なやつかも」
そんな風に、チサ相手に呑気にしていたのが良くなかったのだろうか、厄介事は、また突然やって来た。
「…おい、放課後、緑地公園に来い」
「来叶?何で?」
チサとの会話に、背後から突然割り込んだ声に振り返ったが、言うだけ言った来叶は返事をすることもなく、さっさと離れていってしまう。
「何だろ?美歌のことかな?」
「…行くの?」
無表情に聞いてくるチサの声には、嫌悪が滲んでいる。
「うん。何の話かは気になるし。チサも、」
「先に帰る」
「えー!?一緒に行こうよー!」
面倒事だとわかっていて、その面倒事にチサを必死に誘う。
「一人で行ってもしんどいだけだしさー、チサが居てくれるだけで私のモチベが全然違うから!お願い!」
味方が、後で愚痴る相手が欲しいんだよと駄々をこね続ければ、断ること自体面倒になったのか、チサが渋々と承諾を口にする。
「…今回だけ」
「やったー!」
嫌々感満載の返事だったけれど、それでも最後にはチサを巻き込むことに成功した。
6限の授業が終わり、指定された通りに『緑地公園』、正式名称『三嶋自然緑地公園』に足を運んだのは良いけれど、呼び出した本人が見当たらない。
緑地公園自体、園内に大きな池があるくらい、そこそこの広さがある。細かい指定も無かったせいで、来叶を見つけることも出来ず、
「どこだろ?緑地公園しか言われてないから、何処に居るのかがわからない」
「…電話すれば?」
「来叶の番号、知らないんだよね」
「…」
チサの視線が痛い。それでどうやって見つけるつもりだったのかとその視線が言っている。
「あ、居た。あれじゃない?」
グルグルと歩き回ってようやく、見慣れたシルエットを遠目に見つけた。近づくにつれて、ある意味予想通りに、彼の隣に立つ美歌の姿も視界に入ってくる。
「おせーよ」
傍までたどり着けば、開口一番、悪態をつく来叶に苦笑する。
「何処に居るかわからなかったから、探してた」
「は?言い訳か?明莉のくせに、俺を待たせんなよ」
「…来叶くん」
適当な呼び出しをして、携帯の番号も頑なに教えようとしない来叶に責められる謂れはない。堂々と胸を張ってやれば、来叶の顔が盛大に歪んだ。
「チッ」
「それで?何の用なの?」
いつまでも来叶の不機嫌に付き合っていてはきりがない。話を進めようとすれば、来叶の顔が益々不機嫌に歪む。
「…お前、山崎達に何言ったんだよ?」
「山崎さん?美歌のこと〆ようみたいなこと言ってたから、『やめて』とは言ったよ?」
まさか、本当に何か手を出されたのだろうか―?
「はぁ!?ふざけんなよ!お前があいつらに『俺が美歌のことを迷惑がってる』とか、適当なこと吹き込んだんだろうが!」
「いや、そんなことは言ってないよ」
むしろ、それは来叶が実際に言ったのだと思っていたが。違ったのだろうか?彼女達のウソ?それとも、
「…山崎さん達に言われたの、『来叶が迷惑してる。さっさと別れろ』って」
「なるほど。でも、それで何で私が何か言ったことになるの?本当に何も言ってないよ」
はっきりと言いきれば、黙り込んでしまった美歌が、助けを求めるようにチラチラと来叶に視線を送る。
「…山崎達が言ってたんだよ。お前、先週、あいつらと遊びに行ったんだろ」
「遊びに、というかカラオケには行った。けど、そこで二人の関係についてどうこうは、何も、」
「嘘ついてんじゃねーよ!美歌に嫉妬したんだろ!?俺がお前を選ばずに美歌を選んだから」
突然激昂する来叶に違和感を感じる。本当に怒っているというよりは、怒っている振りをしているような?
「ごめんね、本当にごめんね、明莉ちゃん!」
「え?いや、」
「言っとくけどな!いくらお前が俺を好きでも、俺がお前を選ぶことは絶対にねーよ!」
どうやら、私が嫉妬から『来叶は美歌に迷惑している』という発言をしたということで、話を決着させたいらしい―
「ブスなだけじゃなく、性格まで歪んでる女を誰が選ぶか!二度と俺らに話しかけんじゃねえ!」
「待って、来叶くん!ごめんね、明莉ちゃん!」
言い捨てた来叶が背を向けて歩き出し、その後を美歌が小走りで追いかけていく。二人の背中を、一瞬ぼうっと見送って、ハッとした。
「え?あれ、メッチャふられた?」
意味不明の状況に、理解が追いつかない。
「…あの男のこと、本当はまだ好きだったの?」
「いやいや、本当にもう、これっぽっちも恋心は残ってないんだけど、それでも幼馴染みだからさぁ。友達?じゃないけど」
そんな関係を続けていくんだと思っていたのに。
「絶縁?されてしまった…」
「良かったわね」
「え?あれ?そう?良かったかな?」
当然だとばかりに頷くチサに、自分でもよく考えてみる。確かに、幼馴染みを一人失ったことは寂しいと感じるけれど、これで来叶達と山崎さんとの間のゴタゴタに巻き込まれることは無くなった。なら―
「良かった、かも?」
「…」
それでもまだ断言出来ずに疑問符がついてしまったが、満足気な微笑を浮かべるチサに、つられて笑ってしまう。気分も晴れて、さあ、改めて帰るか、とチサに声をかけようとした瞬間、チサの表情が凄みを帯びた。
それはかつて、魔王討伐の旅をしていた頃に彼女がよく見せていた表情だった。
52
あなたにおすすめの小説
何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています
鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。
けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。
指示を出さない。
判断を奪わない。
必要以上に関わらない。
「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。
それなのに――
いつの間にか屋敷は落ち着き、
使用人たちは迷わなくなり、
人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。
誰かに依存しない。
誰かを支配しない。
それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。
必要とされなくてもいい。
役に立たなくてもいい。
それでも、ここにいていい。
これは、
「何もしない」ことで壊れなかった関係と、
「奪わない」ことで続いていった日常を描く、
静かでやさしい結婚生活の物語。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」
イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。
ある日、夢をみた。
この国の未来を。
それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。
彼は言う。
愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる