3 / 65
第一章 帰って来た三年前
2.
しおりを挟む
2.
三年前―
高校の終業式の日。明日からは夏休みだと浮かれ気味の帰宅途中。通りすがりの公園で見つけてしまった、三年生の一学期も終わりかけという微妙な時期にやって来た転入生の姿。
同い年とは思えないくらい、小柄で童顔のかわいい女の子が黄昏てたら思わず声をかけるでしょ?「大丈夫?」って。そしたら、「困ってる、助けて欲しい」って言われたから、「もちろん!」って頷いた。
結果、気付けば、そこは異世界。「勇者様、魔王を倒して下さい」と可愛い生き物達に取り囲まれて、断れず。のせられるままに、魔王討伐のために魔法やらスキルやらを鍛えまくった日々。本当に辛かった。人生で一番努力したと思う。
その甲斐あってか、何とか一年で終えた魔王討伐。さあ、帰れるって時になって、大問題が発生。
帰還しても、元の世界でも同じように一年が経っているっていうから、「それは困る。何とか元の場所、元の時間に帰して!」って主張したら、『季節外れの転入生』改め、『異世界の大魔導師』チサが、「わかった、何とかするから時間をくれ」って言って、実際、本当に二年で何とかしてくれた。
それが今、彼女がせっせと私の足元に描き続けてる体育館サイズの魔法陣なんだけど。
二年の研究の成果だという、びっちり床を埋め尽くしている文字だか模様だか。私を元の時間に帰すためにこれだけ努力してくれたチサには、とても感謝している。
「…出来た」
「本当?」
「勇者様、それでは、いよいよお別れですな」
チサの言葉にそう告げたこの国の長老ニャンコは、最後にもう一度頭を下げると、魔方陣の外へと下がっていった。
「みんなも、ありがとうね!」
魔方陣の外で見送ってくれる、顔見知りの面々に大きく手を振る。
「…チサも。これだけの魔方陣、大変だったよね。本当に、ありがとう」
「…」
無言のまま首を振って応えるチサ。別れの時まで変わらない彼女のその態度に苦笑する。
「じゃあ、ね?」
「…」
万感の思いを込めて口にした別れの言葉。それに返ってくる応えはなく、何故かマントを脱ぎ出すチサ。
「あれ?チサも高校の制服着てたの?」
彼女のマントの下から現れた姿に、三年前、ご近所の公園で一人項垂れていたチサの姿が思い出された。
「えー、懐かしいなー」
思わず頬が緩んで、しげしげとその姿を眺めてしまう。そんなこちらの視線など全く構わずに、隣に並んで立つチサ。
「え?チサ、ついてくるの?」
「…アカリ、召喚陣、起動できないでしょ?」
「え?うん、そうだけど。でも、チサまであっちの世界に行く必要は、」
「こちらに来るときも、私が連れてきた。あちらにも、私が送り届けるだけ」
「え?え?」
それは大丈夫なの?チサはこっちの世界に帰ってこれるの?確認する間もなく、チサがさっさと呪文を唱えてしまう。
光始めた魔方陣。チサを見ながら、ああ、でも、皆にもお別れを。あたふたしながら、視線を魔方陣の外へと向けた途端、目映い光の洪水が押し寄せた。
三年前―
高校の終業式の日。明日からは夏休みだと浮かれ気味の帰宅途中。通りすがりの公園で見つけてしまった、三年生の一学期も終わりかけという微妙な時期にやって来た転入生の姿。
同い年とは思えないくらい、小柄で童顔のかわいい女の子が黄昏てたら思わず声をかけるでしょ?「大丈夫?」って。そしたら、「困ってる、助けて欲しい」って言われたから、「もちろん!」って頷いた。
結果、気付けば、そこは異世界。「勇者様、魔王を倒して下さい」と可愛い生き物達に取り囲まれて、断れず。のせられるままに、魔王討伐のために魔法やらスキルやらを鍛えまくった日々。本当に辛かった。人生で一番努力したと思う。
その甲斐あってか、何とか一年で終えた魔王討伐。さあ、帰れるって時になって、大問題が発生。
帰還しても、元の世界でも同じように一年が経っているっていうから、「それは困る。何とか元の場所、元の時間に帰して!」って主張したら、『季節外れの転入生』改め、『異世界の大魔導師』チサが、「わかった、何とかするから時間をくれ」って言って、実際、本当に二年で何とかしてくれた。
それが今、彼女がせっせと私の足元に描き続けてる体育館サイズの魔法陣なんだけど。
二年の研究の成果だという、びっちり床を埋め尽くしている文字だか模様だか。私を元の時間に帰すためにこれだけ努力してくれたチサには、とても感謝している。
「…出来た」
「本当?」
「勇者様、それでは、いよいよお別れですな」
チサの言葉にそう告げたこの国の長老ニャンコは、最後にもう一度頭を下げると、魔方陣の外へと下がっていった。
「みんなも、ありがとうね!」
魔方陣の外で見送ってくれる、顔見知りの面々に大きく手を振る。
「…チサも。これだけの魔方陣、大変だったよね。本当に、ありがとう」
「…」
無言のまま首を振って応えるチサ。別れの時まで変わらない彼女のその態度に苦笑する。
「じゃあ、ね?」
「…」
万感の思いを込めて口にした別れの言葉。それに返ってくる応えはなく、何故かマントを脱ぎ出すチサ。
「あれ?チサも高校の制服着てたの?」
彼女のマントの下から現れた姿に、三年前、ご近所の公園で一人項垂れていたチサの姿が思い出された。
「えー、懐かしいなー」
思わず頬が緩んで、しげしげとその姿を眺めてしまう。そんなこちらの視線など全く構わずに、隣に並んで立つチサ。
「え?チサ、ついてくるの?」
「…アカリ、召喚陣、起動できないでしょ?」
「え?うん、そうだけど。でも、チサまであっちの世界に行く必要は、」
「こちらに来るときも、私が連れてきた。あちらにも、私が送り届けるだけ」
「え?え?」
それは大丈夫なの?チサはこっちの世界に帰ってこれるの?確認する間もなく、チサがさっさと呪文を唱えてしまう。
光始めた魔方陣。チサを見ながら、ああ、でも、皆にもお別れを。あたふたしながら、視線を魔方陣の外へと向けた途端、目映い光の洪水が押し寄せた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
959
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる