辺境の娘 英雄の娘

リコピン

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第三章(最終章)

7-6.

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7-6.

遠ざかる馬車を見送って、ラギアスが馬首の向きを変える。歩き出した馬の後ろ、少し離れてついてくる複数の蹄の音。

耳元で、低く声がする。

「いつ、コルネルトが南の辺境のもんだって気づいた?夜会で会った時には、南との繋がりなんてなんもなかっただろ?」

「以前から、ヘスタトル様と話していたんだ『南の辺境が英雄を取り込もうとした』という話の真実について」

―可能性は十分にあるという結論になった

「彼のことだから、取り込まれることはなくとも、子どもの一人くらい出来ていそうだな、と。思い当たったのが、それだった」

「身も蓋もねぇな」

「16年前というのは母が、恐らくはカインが死んだ年だ。私が母を看取ったのも南の方だったと記憶している」

カインと南の間に何があったのかは不明だ。しかし、国との軋轢に対する緩衝材になる者がいなかったのは、確かなことで。

「…コルトには辛い思いをさせてしまったな」

その存在を秘匿されるしかなかったもう一人の弟。それは自身も、リュクムンドも同じだが。けれど、私たちには互いが居た。父を、母を失い、それでも―

「…ヴィア、お前は英雄の娘だってことが、嫌か?」

突然の問いかけは、何を意味するのか。

「…だとしたら?あなたが私を連れて逃げてくれるのか?」

仰ぎ見る。そこにあるのは、夜会の夜、彼が見せたのと同じ悲痛な、覚悟。

「お前が望むんならな」

「そんな顔をするな、ラギアス。ただの戯れ言だ」

そしてそれを口にするほどには、私はあなたになら甘えられる。

「私は、自分の生き方を気に入っている。辺境に生きることも、この身に、皆を守ることのできる英雄の血が流れていることも」

―あなたなら、わかるだろう?

「ラギアス、あなたはヂアーチの家に生まれたことをいとうか?」

「…面倒なこともあるが、嫌ってはいねえ」

そういう、ことなのだ。

「私もあなたのご家族の生き方が好きだ。家に、血に囚われ、そしてそれを誇りに思って生きている。ただ、それを人にまで強要はしたくないというだけのこと」

浮かぶのは、重く、厳しく、そして他者を包み込む強さを持つ、彼の家族。

「あなたの家も、結局は私達のわがまま、結婚を許してくれているしな」

それ以上、言葉が見つからずに、心地よい揺れと体温、暫しの沈黙に包まれる。

「…ヴィア、お前のこと、薄々だろうがあいつらにはばれちまったと見ていい。今は確信できてなくても、いずれは行き着く」

「そうだな。不滅者と戦っていく以上、いつかはと思っていたことだ」

露見することで危険は増すが、動ける範囲、手を組む相手も増えるだろう。

「南にも出ばるようになりゃ、力の方については、どうしようもねえだろうな」

その言葉に、焦りや不安は見当たらない。

「…英雄の血については、サリアリアが嫌がってっからな。マクライドが何かしら手を打つとは思うが、」

低くなる声。

「お前がしてることがばれたら、それを英雄と結びつけるやつは絶対出てくんぞ」

「そうだろうな。しかしまぁ、英雄だとて、突然生まれたのだ。同じように、魔を封じる者がたまたま他に生まれたとしても、不思議ではないだろう?」

彼との、父との結び付きの証など、誰が立てられるというのか。そんなもの、己の内にしか在りはしない。

「北は魔境に近い。そんな者も産まれて来るだろう」

「…帰るか、家に」

ラギアスの言葉にうなずく。帰ろう、皆が待っている。母が愛し、父が守った、帰るべき北の地へ。




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