辺境の娘 英雄の娘

リコピン

文字の大きさ
33 / 74
第二章

6-2.

しおりを挟む
6-2.

深夜の鍛練場での稽古を何度か重ねるうちに、ヴィアンカの『強さ』が見えてきた。攻撃は軽いが、当たりは正確、確実に急所を狙ってくる。

これに身体強化をのせれば、一撃必中も可能だろう。たまに、強化された攻撃を放たれては、本気でヒヤリとした。

そうやって、何度かの交流で彼女を少しずつ知るうちに、ついにそれが始まった―





「全門閉鎖を継続。まだ破られていません。が、空を翔ぶのが何種か。魔術部隊と、弓をそれぞれ分散して配置させてます」

城塞を取り囲む魔物の大群、大攻勢が始まった。既に丸一日続いた攻勢、数は多いが、ヴィアンカ達の働きで事前に入手できた情報もある。時間はかかるが、殲滅せんめつは可能だろう。

「門を破壊するような大型が出てくるまでは、今の形での出撃と撤退を繰り返す。休めるやつは、今のうちに休ませとけ」

「了解。あと一日くらいはぶっ通しで回せるように組んどきます。ただ、余裕は無いんで、」

「!!っ何だ!?」

ダグストアの報告の途中、地面が揺れた。駆け寄る窓の外、見えたのは、城壁の内、強制転移で送りこまれたか―

「ゴーレム!!」

「ミスリルゴーレムです!」

「くそっ!」

窓から飛び降り、部下二人を連れてゴーレムの表れた場所、中庭へと走り出す。やつの動きを止めなければ、内から崩されてしまう。風魔法による補助を使って加速する。あと少し―

「ヴィアンカ!?」

たどり着いた先、巨大なゴーレムの一撃を止める小さな姿。きもが冷えたが、恐らく身体を強化しているヴィアンカは、ゴーレムの拳を掴んでその体を転がした。

大きな地響きを立てて、横たわるゴーレム。まだ動きを止めてはいない。機動力に欠ける巨体が起き上がろうともがいている。

「ヴィアンカ様!あそこ!」

ヴィアンカに駆け寄った補佐官達の一人が空間を差して、叫んだ。

「また来る!」

その声が聞こえるや否や、空間が歪み、銀色に輝く巨体がまた一つ現れた。

「ゴーレムの背後!他にもいます!っ!シャドウウルフ!」

ゴーレムの影から現れたのは、警戒していたシャドウウルフ、それが三体。それを認めて、物影へと身を隠す。

「マイワット!バーデを呼べ!」

「は!」

短い返事で、マイワットが駆け出す。

「ラギアス!」

身を隠した場所、魔物達を警戒しながらヴィアンカ達が近づき、隣へと身を滑らす。

「ミスリルゴーレムがシャドウウルフの盾だ。先に奴等を叩く。魔法が通じないのが面倒だが、とにかく削ろう」

「俺達が新しい方を。お前らは、さっきの、」

「!?っ!」

城壁の遥か彼方、遠望の空を焼く、突然の巨大な魔力の出現。城壁を囲む魔物とは一線を画す、その質量に、予感がする。

「魔人か!?」

城内の魔物だけではなく、桁違いの化け物の出現。これは、覚悟を決めねば―

「ヴィアンカ様!」

逼迫ひっぱくした状況に、背後から恐慌をきたした女の叫びが響く。

「ヴィアンカ様!あれ!あれ!ヤバイ奴!前のみたいな!」

足をもつれさせ、転がるようにして現れたのは、ヴィアンカの協力者。震えながら、女の指差す先には禍々しいほどの魔の力―

「わかった。フラン、お前は安全な場所へ」

ガクガクと頷いた女は、来た道へと走り出す。見送ったヴィアンカが振り返り―

「ラギアス」

重なる視線に、震えが走る。その強さに、覚悟を見て。何を、言い出すつもりだ。

「…私達が魔人を叩きに行く」

「っダメだ!」

考える間もなく、口から言葉が飛び出す。絶対に、ダメだ!

「出現したのは魔石鉱山の辺り。魔人はこちらを誘っている。放っておくわけにはいかないだろう?元から、魔人が出たら私達が動く予定だったはずだ」

「ダメだ!俺が!」

お前は行かせない!

「それこそ駄目だ。状況を判断しろ。…時間が惜しい。行く」

「待て!」

既に背を向けたその姿を呼び止める。振り返らない女に、

―ダメだ!俺はまだ、お前に何も

「死ぬな!」

走り去る背に、乞う。

「ホーン!ヘインズ!頼む!死なすな!!守れ!」

ヴィアンカを追う2つの背に託す。祈るしか、頼るしか無い己の代わりに、どうか―

控える副官を振り返る。案じる視線に、一瞬でも、己の立場を捨ててしまいたいと思った不明を恥じる。

「すまん…バーデ達が来るまでに、ゴーレムを削っておく。無茶はするな」

指示を出し、未だ転がった巨体へと駆け出す。こいつらを倒し、城の周りのやつらも倒す。そして、一刻も早く彼女の元へ。あいつを、ヴィアンカを死なせはしない。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

「結婚しよう」

まひる
恋愛
私はメルシャ。16歳。黒茶髪、赤茶の瞳。153㎝。マヌサワの貧乏農村出身。朝から夜まで食事処で働いていた特別特徴も特長もない女の子です。でもある日、無駄に見目の良い男性に求婚されました。何でしょうか、これ。 一人の男性との出会いを切っ掛けに、彼女を取り巻く世界が動き出します。様々な体験を経て、彼女達は何処へ辿り着くのでしょうか。

転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。 前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。 恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに! しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに…… 見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!? 小説家になろうでも公開しています。 第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品

公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる

夏菜しの
恋愛
 十七歳の時、生涯初めての恋をした。  燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。  しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。  あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。  気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。  コンコン。  今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。  さてと、どうしようかしら? ※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

悪役令嬢はSランク冒険者の弟子になりヒロインから逃げ切りたい

恋愛
王太子の婚約者として、常に控えめに振る舞ってきたロッテルマリア。 尽くしていたにも関わらず、悪役令嬢として婚約者破棄、国外追放の憂き目に合う。 でも、実は転生者であるロッテルマリアはチートな魔法を武器に、ギルドに登録して旅に出掛けた。 新米冒険者として日々奮闘中。 のんびり冒険をしていたいのに、ヒロインは私を逃がしてくれない。 自身の目的のためにロッテルマリアを狙ってくる。 王太子はあげるから、私をほっといて~ (旧)悪役令嬢は年下Sランク冒険者の弟子になるを手直ししました。 26話で完結 後日談も書いてます。

処理中です...