辺境の娘 英雄の娘

リコピン

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第二章

4-3.

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4-3.

「よお、わざわざこんな時間に鍛練かよ。ご苦労なこった」

灯りの乏しい訓練場に、上衣を脱いだいつもより軽装の女を見つける。

「ヂアーチ大隊長。お邪魔でしたら、」

「それ、やめろ」

己の存在を認め、退出しようとする女。

「?それとは?」

「名で呼べ。後、言葉もだ。普通に喋れ、気色悪い」

女は少し逡巡して、結局、首肯しゅこうした。

「…わかった。ラギアス殿が、」

「『ラギアス』だ。殿も様も無しだ」

「…ラギアスがその方がやりやすいなら、そうしよう」

「わかりゃいいんだよ」

短い言葉だが、会話が普通に続いたことに自分で驚く。

「?何か用があったのでは?」

「別にねえよ」

「では、私は鍛練に戻る」

言って、身体を伸ばし始めた女の動きを目で追う。

「お前、俺を避けてんだろ?」

「ラギアスが私に嫌悪を抱いているのは知っているからな。なるべく不快にさせないよう、不要な接触は避けていた」

その返答に、構える様子はない。偽りでは無いのだろう。

「避けてんなよ。そっちの方が気分わりい」

「そうか?それはすまなかった。今後は気を付けよう」

身体を伸ばし終わった女が立ち上がる。女の手には何も握られていない。

「…なんの鍛練だ?剣は?」

「私は剣を使えない。体力強化の訓練と近接格闘の型をいくつかこなす予定だ」

「いつも腰にぶら下げてんのは飾りかよ。…組手、相手してやる」

返事は待たずに、さっさと上衣を脱ぎ捨てた。

「その必要は、」

「俺がやるっつってんだから、やるんだよ」

「わかった、いいだろう」

訓練場の暗さでは、ヴィアンカの姿がよく見えない。ここ数年の実戦で身に付いた夜目のスキルを使う。

構えた後、確認するように軽く打ち込まれる拳を流し、続く蹴りを耐える。次第に速くなる攻撃に捕らえるのが難しくなる。

しかし、やはりその攻撃は軽い。いくつかかわしきれずに入ったまともな当たりも、重さが無いため、大した傷みにはならない。

それでも、真剣な打ち込みと、その回避に動き回れば、身体からは汗が吹き出した。一回り以上の体格差、見上げる頬はうっすらと上気し、そんな場合ではないとわかっていても、女の色香に惑わされる。

「!ラギアス?」

「逃げてみろよ」

打ち込まれた拳を捕らえる。すかさず動いた右足の蹴りをわざと受けて、その足も掴んだ。

体勢を崩した身体を抱き込んで、背中から倒れる。転がるようにして体を入れ換えて、ヴィアンカを床に縫い止めた。

「どうした?早く逃げろよ」

足を挟み込まれ、両手首を床に押さえつけられた女の目が瞬いた。驚いているのか、何も言わず、己を見上げる。その濡れた黒に、ドクリと己の一部が反応した。

「…組手につきあってくれるのでは?」

「付き合ってんだろ?今」

ヴィアンカが抵抗しないのをいいことに、のしかかったまま硬くなったものを、彼女の下半身に押し付ける。柔らかい足の付け根、その肉に己を、何度も擦り付けて快感を追う。

「どいてくれ、ラギアス」

「っ!はあ、クッソ。服、邪魔だ」

服の下、この柔らかな肉の奥に己を埋めて、欲望を全てぶちまけたい。

「ラギアス」

服の中で暴発しそうになり、動きを止める。荒い息のまま、見下ろせば、耳の下から続く、白く滑らかな肌。血の流れさえ見えそうな―普段は上衣に隠された―透き通った肌をなめあげる。

「!ラギアス!いい加減にしろ」

「…だから、逃げろよ」

耳をみ、首に吸い付く。赤い痕が一つ。ダメだ。こんなんじゃ、全然足りねえ。

「ラギアス。痛い思いをしたくなければ、どけ」

「は!どうやって?お前は弱い。この柔い身体で、逃げることもできねえだろうが」

本当に、こんな身体で魔物とやりあって、よく無事で来た。下手をすれば、こうやって押さえつけられ、この柔らかい首に鋭い牙や爪が―

ろくでもない想像に動揺する。ダメだ。誰にも、何にも触れさせない。惹き寄せられるまま顔を近づけ―

「ッ!」

強く立てた己の歯。その痕をヴィアンカの首筋に確認し、獰猛な喜びが膨れ上がり、自然口角があがる。

―瞬間、黙りこんだ女の気配が膨れ上がり、身体を押し退けられた

「ぐっ!?」

股間に走る激痛、息が上手く吸えずにうずくまった。自由になったヴィアンカが立ち上がり、衣服の乱れをなおす。

「警告はした」

「っ!!」

一瞥して、後は振り返りもせず去っていく。訓練場に一人とり残された。

激痛を逃すために蹲ったまま、屈辱や怒りを感じてもいいはずで、しかし、ひいてくる痛みとともに浮かんで来たのは、己の滑稽さに対する可笑しさ。

痛快だ。調子に乗りすぎて、手痛い反撃を受ける。これが他人事なら大笑いしてやるところなのだが。

わかってはいるが戻る気配の無い女。存外に楽しんだ時間、早々に壊してしまった己に、やり過ぎたことを後悔した。




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