上 下
45 / 159

(44)

しおりを挟む
「異世界最高じゃねーか!シノイチもレベル34。もう安心だろう!」

「その通りだ。俺のタツイチもレベル25にしたから、二体が揃えば敵なしだな」

 油断している冒険者を狩る為に、夜に襲撃させている二人。

 残りの三体の<淫魔族>については、毎晩のように相手をさせられている。

 冷静に考えればかなり遅い速度ではあるのだが、今の所は一応ダンジョンのレベルも順調に上昇し、見た目が貧相であった地上型ダンジョンの外観・・も立派にしている。

 内部のコアルームに関しても豪勢なベッドや風呂等を整備して内包魔力1600近くを早々に消費していた。

 湯原と水野達はイーシャとプリマが生活魔法レベルで全ての魔法を当初から使えたほか、<属性族>のレインの力で汚れを落とす事は出来ている。

 豪華なベッドなどは身の安全が最優先であるので後回しにしていたので、未だに柔らかい床に寝ているのだが、最近はスラエとスラビが地面に広がってその上に寝る様に言われ、更に寝心地の良い環境になっている。

 そんな湯原と水野のダンジョンとは異なり、内包魔力の溜まり方も遅いのは……眷属との信頼関係なのだろうか……内包魔力もあまりなく、ダンジョンのレベルから召喚できる魔物もレベル1の50体しかない状態ではあるのだが、数カ月経過して何もないので、このまま楽しく過ごせると信じ切っている四宮と辰巳。

 その無駄に豪華になっている地上型の二つのダンジョンを慎重に調査している冒険者達。
 
 そして、その中にはビーの分身である蜂の魔物も同じ様に監視している。

 これだけ小さい個体であれば、その下にある僅かな隙間を縫って地下型のダンジョンへの侵入も容易だが、余り深追いはしない。

 自分の存在が侵入者としてカウントされ、敵となる可能性のあるダンジョンの糧になるのを防ぐ為だが、既に星出と岡島の状況は完全に把握しており、もう先は長くないと判断している。

 周囲の冒険者達とは異なって睡眠なしで活動し続ける事が出来る事と、レベルに物を言わせた動きによって、短期間で得られる情報量に大きな差があるのだ。
 
 冒険者達も慎重に調査を行っているので、目の前のダンジョンに所属する眷属が<淫魔族>である事は突き止めている。

 逆に地下型ダンジョンマスターである星出と岡島も、冒険者達に上のダンジョンが見つかっている事は把握しているので、最近は夜も本当に少しだけ空間を開けるだけに留めており、仮に人族が侵入するには這って進む必要がある事から、誰もがダンジョンだとは思っていない。

 そこには安堵した二人だが、夜の活動も停止せざるを得ずに蓄えを慎重に消費しつつ冒険者達が消えるのを待っている。

 冒険者が消えると言う事は、上のダンジョンのマスターである四宮や辰巳に始末されるか、または逆の事だと分かっているのだが、どちらでも構わないので早く決着をつけてくれないか‥‥‥むしろ、邪魔な上の二人を始末してくれないかと思っている程だ。

 冒険者達は、やけに目立つ外装をしているダンジョン故に非常に慎重に行動している。

 ここまで自己顕示欲が強いダンジョンであれば、攻略には相当な犠牲を払う高レベルのダンジョンである事が一般的だからだ。

 まさか、一階層しかない低レベルダンジョンだとは、誰一人として思っていない。

 夜に必ず出てくる淫魔族は二つのダンジョン共に必ず一体で、そのレベルは彼らが判定できる20を軽く超えている事だけは分かっている。

 その事も、最低でも数十階層の深いダンジョンであるとの誤解を生んでいるのだ。

「どうする?取り敢えず<淫魔族>は女だ。だとすると、こっちも女性の冒険者でないと同士討ちにされるぞ?」

「それは分かっているが、内部に男の<淫魔族>がいれば同じ事だ。こうなったら、思い切って突入するか?あのバカみたいにレベルの高い<淫魔族>が不在時に突入するのも有りだろう?」

 交代しているが、常に四宮と辰巳のダンジョンを監視している冒険者達なので、逆に眷属で毎晩獲物を取ってくるように命じられているシノイチやタツイチも、彼らの存在には気が付いている。

 眷属の二体は非常に悩んでいる。

 主を裏切る事は出来ないが、積極的に自ら守りたいかと言うと……そうではない。

 しかし、何故か危機の時には守る行動をとらざるを得ないだろうと理解しているのは、眷属故か。

 そうなると、いくらレベル34の<淫魔族>と言えレベル20近辺の冒険者が魔道具を駆使して複数襲い掛かってくれば、主を守る行動を強制的に取る立場としては負ける可能性が高い。

 即ち……自らの消滅なのだが、今のこの状況を主である四宮や辰巳に進言したとしても、具体的な対策を出して実行してくれるとはとても思えない。

 寧ろ、丸投げされてその対処によって自分の存在が想定よりも早く消える可能性が高いとさえ思っていた。

 この様子を監視している蜂の分裂体から情報を受けた本体は、デルやレインの通訳によってその情報を湯原と水野に与えているのだが、二人は今の所狙われている四宮と辰巳を助けるつもりもなく、もし星出と岡島のダンジョンが冒険者達に見つかったとしても、こちらも助けるつもりは無かった。

 やがて、毎晩のように冒険者が犠牲になるのを見ている事に痺れを切らした冒険者一団が、シノイチとタツイチの不在時を狙って一気にダンジョンに流れ込んだ。

「いくぞ!」

 各々が武器や魔道具を持ち、豪華なダンジョンの入り口に突入する。

 即異常を感じ取ったダンジョンマスターの四宮と辰巳は、今この場にいる眷属である各三体の淫魔族をコアルームから一階層に突入させる。

 既に突入した冒険者達は、目の前に明らかに豪華な扉がある事や地上や地下に続く階段が見えない事から、何か罠が隠れているのではないかと警戒して直ぐに攻める事はできなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

【18禁】ゴブリンの凌辱子宮転生〜ママが変わる毎にクラスアップ!〜

くらげさん
ファンタジー
【18禁】あいうえおかきくけこ……考え中……考え中。 18歳未満の方は読まないでください。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

異能幸運レアドロップでイキ抜く♡学校最後の男子ピネスと眼帯プラチナ女校長の不気味なダンジョン冒険記

山下敬雄
ファンタジー
年齢不詳の美人校長に捨て石にされたはずの男子生徒がダンジョンでレアドロップを掘り当て、愛しき我が学びの校舎へと戻るそんなダークでちょっとエッチな毎日がはじまる。

処理中です...