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第40話 もう一人の仲間

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「「「乾杯ー!」」」

 レストラン『スザク』では、俺の旅立ちとこれからの店舗繁栄のためにパーティーが開かれた。

 すっかり元気になった元奴隷の皆さんは店員の服を着こんでいて、穏やかな笑みを浮かべている。

 普段着よりも店員の服が好きのようで、メイドさんが休日もメイド服で過ごすような職業病とも思われるけど、彼らにとっては制服に腕を通しているのがプライドであり、心が安らぐと話していた。

 テーブルには美味しい料理と飲み物が並んでいてどれも美味しく、妹弟たちもご機嫌で食べている。

 ルークはリアちゃんの肩に乗ったままついばんでいて、クレアは――――

「あうあう……クレア様……私の髪が食べ物じゃありませんよ!?」

【いいのよ。シャリーのくせに顔を見せなかった罰だから】

 お互いに会話はできないはずなのに、ちゃんと会話している気がする。

 三日も顔を出さなかったシャリーにクレアが怒って頭をツンツンと突いて遊んでいる。時々、クレアが取ってくれた料理を食べてご満悦そうだ。

 楽しい時間を過ごして、夜が更けていく。

 箸休めのために一度会場から繋がっているテラス席に出て来た。

 中の騒がしい声とは裏腹に、外は静かで穏やかな時間がゆっくりと流れていた。

 その時、後ろの扉が開いてこちらにやってきたのは――――

「ソフィアちゃん? 飲み物持ってきてくれたんだ。ありがとう」

「い、いえ!」

 飲み物を大事そうに抱えて持ってきてくれたソフィアちゃんは、少し嬉しそうに笑みを浮かべてテーブルに置いてくれた。

「と、隣にいてもいいですか!」

 緊張したように少し大きな声を出すソフィアちゃん。

「もちろんいいよ?」

「あ、ありがとうございましゅっ!」

 ソフィアちゃんもすっかり病気を治して元気になってくれた。

 リアちゃんと同じく獣人族ならではの可愛らしさがあって、すぐに手を伸ばして撫でたりモフモフしたくなる。ただ、モフモフはクレアの承諾を得ないとできないので、普段はルークのぷよぷよした体でモフモフしかできない。

「あ、あの! アルマ様!」

「うん?」

「シ、シャリー様も旅を共にすると聞きました……」

「そうだね。旅って大変だと思うんだけど、リアちゃんもシャリーも一緒に来たいらしいね。少し不安はあるけど、仲間は多い方が楽しいと思うし、これから一緒に世界を回ろうと考えているよ」

 そもそもまだ旅という旅を経験したことがない。辛うじて、前世で山登りくらいか。それも山がある場所までは電車やバス、タクシーなど、いろんな乗り物を使って移動しているからね。

 異世界では馬車という乗り物があるけど、馬車を所有している人はそう多くない。

 それに馬車旅がしたい訳でもないから、どんな大変な事が待ち受けているか心配でもある。

「……っ………………」

「ん? どうかしたの?」

「あ、あのっ! アルマ様! お、お願い……が…………あり……」

 ふと見つめた彼女は――――大きな粒の涙を流していた。

「ソフィアちゃん!?」

「わ、私もっ! 私もアルマ様と一緒に行きたいです!」

「えっ!?」

「一目見たとき……アルマ様と初めて目が合った時、アルマ様の隣で仕えたらどんなにいいかと……シャリー様が羨ましかったんです。私は病気で動く事もままならなくて……でもこうしてアルマ様に助けて頂いて、私がやりたい料理を学ばせてくださって、私にとって救世主で憧れて……でもっ…………リアちゃんがアルマ様の隣にいられるのなら、私も……そこに……一緒にいたい……いたいんです!」

 大きな涙を流しながらそう答えるソフィアちゃんに、少しだけ心が痛む。

 本来ならリアちゃんはこの街に残していきたい。

 でもどうしてか俺の隣がいいという彼女を見捨てていくのは良くない気がした。

「でも旅は大変だと思うよ? 俺が言うのもあれだけど、命の危機がすぐ近くで、ソフィアちゃんにとっては過酷なことも多くて、不自由なことも多くて、せっかくの手に入れた自由を捨てる事になるんだよ?」

 その時、扉が開いて支配人が出て来た。

 小さく会釈した支配人がやってきた。

 中からは、リアちゃん、妹弟たち、シャリーがこっそりと覗いている。

「失礼します。アルマ様。わたくしからもお願いさせてください。どうかソフィアちゃんを連れてはくださいませんか?」

「支配人さん……」

「彼女はここに来てすぐにアルマ様の役に立てるなら何でもすると言って頑張ってきました。それは仲間の全員が見て来ました。最もアルマ様に役に立つには、自分が好きな料理を沢山勉強して上手くなるしかないと、毎日寝る時間を惜しんで練習を頑張っていた程です。私達は彼女の努力を認めています。それくらい彼女にとって本気なんです」

「そこまで…………」

 そういや、いつも彼女の両手には絆創膏が沢山貼られているのを見かけた。

 以前聞いた時は、料理の練習をしていて負った怪我だと聞かされていて、でも嬉しそうに笑顔を浮かべた彼女だからこそ、俺はそれ以上追及しなかった。

 頑張った理由は俺のためだったんだな…………。

「クレア。聞いているだろ? ソフィアちゃんを連れて行ってもいいかい?」

 選択権はもちろん、うちの妹のクレアに任せる。

 少し開いていた扉からクレアが飛んで来て、涙を流しているソフィアちゃんの頭の上に乗っかる。

【ソフィアちゃんの料理は美味しいから賛成!】

 遠くからルークの【僕も賛成~】という声が聞こえる。

「分かった。でも一つだけ約束して欲しい。辛い時は辛いって言って欲しい。リアちゃんもシャリーも。俺は仲間を軽んじるつもりはないし、みんなのペースでゆっくりでもいいから、そうやって一緒に行こう」

「うん~!」

 シャリーとリアちゃんが嬉しそうな笑みを浮かべてこちらに走って来た。

 リアちゃんは真っすぐソフィアちゃんのもとに向かい、彼女の両手を取った。

 声は出ないが、目を瞑り祈りを捧げると、リアちゃんから眩い光がソフィアちゃんに降り注いだ。

 ソフィアちゃんの傷だらけの手から傷が綺麗に治った。

 満面の笑みを浮かべたソフィアちゃんは、感謝の言葉を並べて俺達の仲間になる事が決定した。

 そんな楽しい一日を過ごし、最後の晩は――――久しぶりにシャリーも混ざり、僕、ルーク、リアちゃん、ソフィアちゃん、クレア、シャリーで大きなベッドで眠りについた。
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