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第34話 リアちゃん

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 次の日。

 起きた金髪の女の子とシャリーには朝早くに風呂に入って貰った。

 異世界らしいというか、この世界での風呂は中々貴重なモノとなっている。

 貴族ともなれば、屋敷に風呂を作っているらしいが、平民はそれが難しいので、桶に水を汲んで部屋で体を洗うのが普通だ。

 水を沸かすのにも色々大変でお金がかかるが、今はクレアが弱い魔法で一瞬で水を沸かしてくれる。

 ルークはどちらかと言えば、派手で強い魔法が得意なのだが、クレアは繊細な魔法が得意である。

 こういった弱い魔法はクレアの方が得意だ。

 二人が体を洗っている間に朝食を食べる。

 相変わらず、ここの宿屋の朝食は美味しい。

「珍しいね。エマちゃんがここに座るなんて」

「えへへ~お兄ちゃんにちょっと聞きたい事がありまして~」

 ニヤケる彼女は宿屋店主の娘さんで看板娘なのだが、俺とシャリーを見てはいつもニヤニヤしている。

「どうしたんだ?」

「お兄ちゃんってシャリーお姉ちゃんとどこまでいったんですか?」

「ぷふっ!」

「まさか何もないとかないですよね?」

「な、何もないよ!」

 異世界の子供ってみんなこうマセているのか!?

「え~せっかく同じ部屋にしているのに、どうして何もないんですか?」

「…………まさか、それで今まで部屋が空いてないと?」

「大正解~お兄ちゃんのために?」

「はあ…………いや、俺のためにはならないだろ。そもそも俺は女性恐怖症みたいなもんだ。だから興味もないんだよ」

「ほえ~若い男なのに色々悟っていますね~」

「いや、君にだけは言われたくないよ」

「えへへ~」

「褒めてないよ!」

 飽きたようでテーブルを後にした彼女は、話を聞かせてくれたお礼だと美味しい飲み物を一杯サービスしてくれた。

 ルークと一緒に朝食を堪能し終えた頃に、階段からシャリーと共に金髪の女の子がやってきた。

「ええええ!? 獣人族!?」

 思わず声をあげてしまった。

 一瞬ビクッとして目が潤んでいく。

「あ! ご、ごめん! 責めるとかじゃなくてちょっと驚いただけなんだ。俺は獣人族をあまり見た事がなくてな。ごめんな?」

 少し濡れた目を袖で拭いて、小走りでやってきては俺の手を握り締める。

 そして、声には出ないが「ありがとう」という言葉と共に深々と頭を下げてくれた。

 頭を上げた彼女に自然と手が伸びて、優しく頭を撫でてあげる。

 こういうのもあれだが、動物のような可愛らしさを感じてしまい、なでなでしたくなるというか、保護欲をそそられるというか。

 気持ちよさそうに笑顔を浮かべる女の子はますます可愛らしい。

「アルマくん。彼女はリアちゃんって言うみたい」

「リアちゃんか。可愛い名前だね。凄く似合うよ」

 口を開ける程笑顔になるリアちゃんはますます可愛い。

「シャリーもありがとうな。朝食を食べたらスザクに向かおう」

「分かった。エマちゃん~私とこの子の分の朝食をお願いね~」

 カウンターに座っていたエマちゃんが手を振ってすぐに店舗裏に入って行った。

 少し待っていると美味しい朝食二人分が届いて食べ始める。

 食べている姿も可愛らしい。

「アルマくん…………」

「ん?」

「顔が凄く…………怖いよ?」

「はっ!?」

「薄っすらと笑みを浮かべてリアちゃんをずっと眺めていると……こう…………いけないおじさんみたいな雰囲気が出てるよ?」

 ぐはっ!?

 た、たしかに前世の分を足したらおじさんだけどさ!

 そんなにやばい顔だったのか……ちょっと反省。

 二人が朝食を食べ終わったタイミングで宿屋を後にして、レストラン『スザク』に向かった。



 ◆



「おかえりなさい~! アルマ様!」

 真っ先に出迎えてくれるのは、猫耳族のソフィアちゃんだ。

 俺が奴隷達の中で一番怒りを覚えた理由にもなったのが彼女だ。

 病気も持っており、幼い事もあり、買い手が付くはずもなく、あのまま死ぬ運命だった。

 彼女だけではないが、彼女のような幼い子供がああいう目に遭うのはどうしても許せなかった。

 今は病気も治って元気になって、好きな事を頑張っている。

「ただいま。みんなもただいま~」

「「「おかえりなさいませ!」」」

 レストランの修行を頑張っているみんなが挨拶をしてくれる。

「今日はみんなに仲間を紹介したくてな。さあ、リアちゃん。みんなに挨拶してくれる?」

 緊張の面持ちのリアちゃんが一歩前に出て、ペコリと頭を深く下げた。

「リアちゃんは衰弱が酷くてまだ喋れないんだ。みんな仲良くしてくれると助かるよ」

「「「よろしくね! リアちゃん!」」」

 みんなが気持ちよく受け入れてくれて良かった。

「リアちゃん。これからはここでみんなと一緒に――――――」

 その時、リアちゃんの表情が絶望色に染まる。

 そして――――――彼女は真っすぐ俺の腹に抱き付いた。

「リアちゃん!?」

 全身が震えていて、涙をボロボロと流しながら俺を見上げて首を横に振る。

「みんなリアちゃんに優しくしてくれるよ?」

 それでも彼女は泣き止む事なく全力で首を横に振る。

「参ったな……どうしたもんか…………」

「あの……アルマ様」

「ん?」

「リアちゃんはきっと、アルマ様と離れたくないんだと思います」

「俺と?」

「はい。リアちゃんは恐らく犬耳族だと思います。犬耳族は守ってくれた人から離れたがらないと聞いた事があります。まだ幼いリアちゃんだからこそかも知れません」

 なる……ほど。

 獣人族ならではの感覚か。

 それに長い間鉄格子の中で暮らしていたようだからな。無理もないか。

「分かった。悪かったね。リアちゃん。これからも俺と一緒にいてくれるか?」

 ようやく顔が晴れて、勢い良く頭を上下させる。

 そんな俺達を悲しそうに見つめていたもう一人の視線がある事に俺は気付かなかった。
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