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142 等身大のユリナ様
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死なないと約束したくせに、カミユが約束を破った。
血まみれのカミユに『超回復』を何時間唱えても、何も言ってくれなかった。
ごめんよカミユ。何も求めないようなことを言って、ミシェルに愛して欲しいなんて願ってしまった。
「モナ、ナリス、アリサの3人に大切な人を助けるって言ったのに・・。あっちを優先したから、バチが当たったんだ」
もう「凶信者部隊」のみんなも、私の無力さを知っただろう。
「みんな、ごめんね。私にはカミユを助ける力があった。なのに、間に合わなかった。ごめんよ」
抱き締めたけど、カミユの体は冷たいまんまだ。
◇◇教会暗部ミハイル◇◇
今、ユリナ様が俺達に謝りながら泣いている。
なぜ謝るのだ。
彼女は悪くない。
カミユの死の責任があるのは、本人、ダンジョン行きを許した俺だ。ユリナ様に何の責も及ばない。
なのに泣いてくれた。
イーサイド男爵家、カナワ領主の三男とのトラブルの際、我々が微力ながら手助けしたあと、「凶信者部隊」を受け入れていただいた。
カナワの街ではオルシマ帰還後に、闇属性の信者達を集めて焼き肉パーティーを約束をしてもらえた。
その時、少しのぞかせる悲しそうな表情が気になり、次の日から同胞に「暁の光」護衛を任せユリナ様を追った。
キセの街で見つけた。
しかしそこから、走り出した。時速40キロ越えのハイペースからスピードが落ちない走り方に1度は引き離された。
だが、しばらくすると、目に涙を浮かべながら戻ってきた。またもハイスピードで。
そして道を逸れて林の中で転がって泣き出した。
めまぐるしい。何が起こったのだろうか。
いけないと思いながら聞き耳を立てると、ミシェルに失恋したようだ。
イーサイドとのトラブル時に救出した、ミシェルに好意を寄せているのは知っていた。
それすらも、愛する「妹」ミールのためにあきらめるようだ。
オオカミに食いつかれても気にせず、1人で泣いていた。
ようやく泣き止んでキセの方向に向かったが、いきなりホセが現れてユリナ様をダンジョン前に連れていった。
追っていくと、新参ながら頑張っていたカミユが死んでいた。
ユリナ様も分かっていただろう。
しかし、カミユに回復スキルを使い続けてくれた。
そこにいるのは、感情のコントロールも出来ない1人の女だった。
聖なる光も発しない。
時にカミユを罵倒して、カミユに謝って、効果がない回復スキルを使い続けた。
何時間もカミユのために回復を唱えてくれた。
ずっとカミユを抱き締めてくれた。
ホセ達がカミユの亡骸を受け取ろうとしても、抱き締めて離さない。
ただの、母親のようだった。
我々が勝手に作り上げていた「清貧聖女像」と、かけ離れている。
普段の飄々とした姿はどこにもない。
まだ大した関わりもないカミユのために、本気で泣いている。
この人は、何者なんだろうか。
数人の同志が気づいただろうが、ユリナ様はスキルを「拾ったオーブ」にもらったと言った。
1800年前、初代聖女ユーリス様は女神マリルートより玉、要するにスキルオーブのようなものを託され、回復スキルを手にした。
私は同志ミールと話すチャンスがあったとき、驚きの事実を知った。
ユリナ様とミールのパーティー名は「アイリス」
ユーリス様に付き従った少女アイリスの名前と同じた。なんという偶然なのか。
そしてユリナ様もユーリス様と同じく『』の中に、他人を治すための回復スキルを望んだ。
ここまでの偶然はあるのだろうか。まさか、「名もなき神」とは・・
ユリナ様は泣きながら、自分を偽聖女だと言う。
確かに彼女は聖職者のイメージとは、かけ離れている。しかし、極限の中で他人のために回復術を選んだ。
ユーリス様の死後、『』に望んだスキルが入るオーブを見つけた人間は何人かいたと思う。
選んだのは、自分のためだけに役立つスキルだっただろう。
当たり前だ。
だけど思う。
状況に迫られたと言ったが、他人のためにスキルを願ったのはユーリス様の次は、1800年の時を経てユリナ様が2人目だったのでは、ないだろうか。
再び言うが、ユリナ様は自分が聖女ではないと言う。
聖女とはなんなのだ?
現実に私が育てた弟子も含めて闇属性、魔力ゼロの虐げられた人間が何人も救われた。
最近も、悲しい気持ちを押さえてカミユ達を励ましてくれた。
この方の力は強力だ。
元が弱かったユリナ様は工夫を続けている。
スキルの応用方法を見つけ、ドラゴンでも相手にできる力を身に付けている。
望めば、支配者の一角となることも可能だろう。
それを知る私達の前で、弱い闇属性持ちのカミユの死を嘆いている。
心が強くもない、ただの女だ。
俺はもう、「聖女像」に幻想を抱いていない。
だけど言わせてもらう。
「俺は探し当てた」
この人のため、命をかけてもいいと思える、本物を見つけた。
悲しみを抱え切れず、耐えられなくなったら泣く。貴重なスキルの垂れ流しで、善悪の区別も適当だ。
マルコ達には悪いが、ユリナ様は深い思慮など持たない。ただ思うままに、回復と破壊を繰り返している。
教会の勝手な判断に照らし合わせると、彼女は「偽聖女」だ。
彼女は聖女にあるまじき、殺人もためらわずに遂行する。
俺は初代聖女ユーリス様が時として「人間」に対して鬼になったというのが、信じられなかった。
たが、今では信じられる。
ユリナ様が強大な力を得たことを自覚し、時に同じ人間を殺めてでも、守りたい人間を守ろうとしている。
その守る者の中には、虐げられてきたカミユも入っていた。
ユリナ様、ここにいる闇の子達は、カミユを亡くした悲しみを感じています。
同時に、カミユに注がれた愛情も、ひしひしと感じています。
カミユの最期は、闇の子の間に伝わっていくでしょう。
ユリナ様、迷惑かもしれませんが、これからなお、あなたの元を訪れる闇の子は増え続けると思います。
どうか、受け入れてやって下さい。
血まみれのカミユに『超回復』を何時間唱えても、何も言ってくれなかった。
ごめんよカミユ。何も求めないようなことを言って、ミシェルに愛して欲しいなんて願ってしまった。
「モナ、ナリス、アリサの3人に大切な人を助けるって言ったのに・・。あっちを優先したから、バチが当たったんだ」
もう「凶信者部隊」のみんなも、私の無力さを知っただろう。
「みんな、ごめんね。私にはカミユを助ける力があった。なのに、間に合わなかった。ごめんよ」
抱き締めたけど、カミユの体は冷たいまんまだ。
◇◇教会暗部ミハイル◇◇
今、ユリナ様が俺達に謝りながら泣いている。
なぜ謝るのだ。
彼女は悪くない。
カミユの死の責任があるのは、本人、ダンジョン行きを許した俺だ。ユリナ様に何の責も及ばない。
なのに泣いてくれた。
イーサイド男爵家、カナワ領主の三男とのトラブルの際、我々が微力ながら手助けしたあと、「凶信者部隊」を受け入れていただいた。
カナワの街ではオルシマ帰還後に、闇属性の信者達を集めて焼き肉パーティーを約束をしてもらえた。
その時、少しのぞかせる悲しそうな表情が気になり、次の日から同胞に「暁の光」護衛を任せユリナ様を追った。
キセの街で見つけた。
しかしそこから、走り出した。時速40キロ越えのハイペースからスピードが落ちない走り方に1度は引き離された。
だが、しばらくすると、目に涙を浮かべながら戻ってきた。またもハイスピードで。
そして道を逸れて林の中で転がって泣き出した。
めまぐるしい。何が起こったのだろうか。
いけないと思いながら聞き耳を立てると、ミシェルに失恋したようだ。
イーサイドとのトラブル時に救出した、ミシェルに好意を寄せているのは知っていた。
それすらも、愛する「妹」ミールのためにあきらめるようだ。
オオカミに食いつかれても気にせず、1人で泣いていた。
ようやく泣き止んでキセの方向に向かったが、いきなりホセが現れてユリナ様をダンジョン前に連れていった。
追っていくと、新参ながら頑張っていたカミユが死んでいた。
ユリナ様も分かっていただろう。
しかし、カミユに回復スキルを使い続けてくれた。
そこにいるのは、感情のコントロールも出来ない1人の女だった。
聖なる光も発しない。
時にカミユを罵倒して、カミユに謝って、効果がない回復スキルを使い続けた。
何時間もカミユのために回復を唱えてくれた。
ずっとカミユを抱き締めてくれた。
ホセ達がカミユの亡骸を受け取ろうとしても、抱き締めて離さない。
ただの、母親のようだった。
我々が勝手に作り上げていた「清貧聖女像」と、かけ離れている。
普段の飄々とした姿はどこにもない。
まだ大した関わりもないカミユのために、本気で泣いている。
この人は、何者なんだろうか。
数人の同志が気づいただろうが、ユリナ様はスキルを「拾ったオーブ」にもらったと言った。
1800年前、初代聖女ユーリス様は女神マリルートより玉、要するにスキルオーブのようなものを託され、回復スキルを手にした。
私は同志ミールと話すチャンスがあったとき、驚きの事実を知った。
ユリナ様とミールのパーティー名は「アイリス」
ユーリス様に付き従った少女アイリスの名前と同じた。なんという偶然なのか。
そしてユリナ様もユーリス様と同じく『』の中に、他人を治すための回復スキルを望んだ。
ここまでの偶然はあるのだろうか。まさか、「名もなき神」とは・・
ユリナ様は泣きながら、自分を偽聖女だと言う。
確かに彼女は聖職者のイメージとは、かけ離れている。しかし、極限の中で他人のために回復術を選んだ。
ユーリス様の死後、『』に望んだスキルが入るオーブを見つけた人間は何人かいたと思う。
選んだのは、自分のためだけに役立つスキルだっただろう。
当たり前だ。
だけど思う。
状況に迫られたと言ったが、他人のためにスキルを願ったのはユーリス様の次は、1800年の時を経てユリナ様が2人目だったのでは、ないだろうか。
再び言うが、ユリナ様は自分が聖女ではないと言う。
聖女とはなんなのだ?
現実に私が育てた弟子も含めて闇属性、魔力ゼロの虐げられた人間が何人も救われた。
最近も、悲しい気持ちを押さえてカミユ達を励ましてくれた。
この方の力は強力だ。
元が弱かったユリナ様は工夫を続けている。
スキルの応用方法を見つけ、ドラゴンでも相手にできる力を身に付けている。
望めば、支配者の一角となることも可能だろう。
それを知る私達の前で、弱い闇属性持ちのカミユの死を嘆いている。
心が強くもない、ただの女だ。
俺はもう、「聖女像」に幻想を抱いていない。
だけど言わせてもらう。
「俺は探し当てた」
この人のため、命をかけてもいいと思える、本物を見つけた。
悲しみを抱え切れず、耐えられなくなったら泣く。貴重なスキルの垂れ流しで、善悪の区別も適当だ。
マルコ達には悪いが、ユリナ様は深い思慮など持たない。ただ思うままに、回復と破壊を繰り返している。
教会の勝手な判断に照らし合わせると、彼女は「偽聖女」だ。
彼女は聖女にあるまじき、殺人もためらわずに遂行する。
俺は初代聖女ユーリス様が時として「人間」に対して鬼になったというのが、信じられなかった。
たが、今では信じられる。
ユリナ様が強大な力を得たことを自覚し、時に同じ人間を殺めてでも、守りたい人間を守ろうとしている。
その守る者の中には、虐げられてきたカミユも入っていた。
ユリナ様、ここにいる闇の子達は、カミユを亡くした悲しみを感じています。
同時に、カミユに注がれた愛情も、ひしひしと感じています。
カミユの最期は、闇の子の間に伝わっていくでしょう。
ユリナ様、迷惑かもしれませんが、これからなお、あなたの元を訪れる闇の子は増え続けると思います。
どうか、受け入れてやって下さい。
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