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137 ダリア、私の体はね・・

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リュウ達「暁の光」のパーティーハウスに来た。

「みんな、久しぶりだね」

「ユリナ、元気そうだな」
「息災」
「ユリナさん、いなくなるときも事件が起きたけど、今回もすごいインパクトだったわ」

「ダリア、私もあれは意外だった」

右手を失ったマヤは部屋で寝かせてある。

やっと人目もなくなった。失った右腕を治すのは、もう少し休ませてからにする。

意地悪ではない。

マヤはダンジョン内で何日も過ごして気持ちが高ぶっている上に、右腕まで落とした。

少し精神を休めないと、心が不安定になる。

「みんな、私は今、オルシマの街にいるの。私と同じ劣等人、弱い闇属性の子たちが仕事を得られるように、陰で事業をやっているの」

「ユリナって経営ができるの」

「無理。スキルで傷を治した人達が、たまたま力を持っていたみたい。色んな方面で利益を度外視して協力してくれる」

「街に溶け込んでるんだな」

「うん、とんでもなく有能な人達が協力してくれるから、うまくいくと思うわ」

「ユリナ、俺さ・・」
「リュウ、今回はきちんと謝りに来たの。いきなりいなくなった癖にごめん。申し訳ないけど、私にはもうオルシマでの生活がすべて」

「けど、お前に帰ってこいって言ったのは俺だ」

「気にしないで。あなたにはもう、マヤがいるんでしょ。彼女、私の回復スキルで欠損が治せること知らない。それでも、腕をあげたの」

「え、それじゃ、マヤは治す方法がないと思っているのに・・・」
「驚愕」

「そうよダリア、オーグ。リュウと並んで冒険を続けたいのに、病気のフロマージュを見捨てず、右腕をあげたのよ」

「そうか。近くにいすぎて、泣き虫の子供のまんまと思ってた・・」

「人間、変わるんだよ」

「ユリナごめん。ユリナが帰ってきたときのことを考えていたけど、必死なマヤを見ていて・・。ごめん」

「ううん。リュウには心から感謝している」

本当に心から・・

仲間を殺されて本当につらい時、支えてくれた。強引に迫った私を受け入れてくれた。

だから今、私も人のためにも生きられるんだと思う。

「優しさを分けてくれて、ありがとう」

「新しい彼氏もできたんだな。いいやつか」

「あなたと同じくらい優しい。弱い闇属性持ちで、持たざる者だった私は彼に共感できるの」

1個だけ嘘だ。

好きなミシェルとは共感できてる。だけど「彼氏」ではない。

今後も、そうなれない。


4人で色んな話をした。

マヤは帰る前に治すが、思った以上の騒ぎになった。完全回復が知られるのはまずい。

来年くらいしたら、私が「疑似秘薬」でも持ってくる。

それまで、精巧な義手を装ってもらう。金属のカバーを付けて、やり過ごすことに決まった。

私は最終的にはダルクダンジョンの深部に行きたい。
「暁の光」の4人にミールとミシェルも紹介したい。

今後も交流を持とうという話で笑うこともできた。

来て良かったと思う。

そうするうちにダリアがアイサインを送ってきた。2人で話をしたいそうだ。

察したオーグが、リュウをマヤの看病に向かわせて自分は茶菓子を買いに出た。


ダリアがいきなり切り出した。

「ユリナさん、私は複雑な気分です」
「うん、マヤから聞いている」

「マヤが、リュウのために頑張っている。恋が実って欲しいと思うけど、ユリナさんとリュウの命がけの恋も見てしまいました」

「そうだね。リュウには感謝もあるし、今でも好きだね」

「やっぱり・・。それじゃあ、新しい彼氏ってのは」


「好きな人は本当にいるよ。ミシェルっていうんだ。かつてのリュウと同じくらい好きになってる」

「そんな存在がいるんですね。てっきりリュウに安心させるための口実かと」

「だけど、私には本当に大切な妹のような子もできた。その子とミシェルも惹かれ合ってる」

本当に大切な子達だ。

「女の子の名前はミール。回復スキルで救ってから、私に感謝しすぎる。私の従者みたいになってたんだけど、ミシェルと会って自分らしさを見せ始めたの」

「だから、リュウと同じくらい好きになれたのに、そのミシェルさんを妹に譲るというんですか」


「ちょっとだけ違うんだよね。ダリアに聞いて欲しいのは、ここからなんだ。私はもう厳密には「人」ではないの」
「え・・」

「私の腕を触ってみて」

「出会ったころと同じ感じですね。細いし、柔らかい」

「前の測定ではレベルは62。もしかしたら65まで上がっているかも知れない」

「50以上のレベルアップ・・。普通は細いままでも筋繊維が増えたり、明確な変化がありますよね。・・ないことがユリナさんのスキルの秘密ですか」

「恐らくね。私のスキルは応用が利いた。把握したら思ったどころじゃない強さだった。上級ダンジョンを1個、単独踏破できた」

「回復スキルが基本ですよね」

「そう。回復。でもそれは効果が強すぎる。回復というより、完全復元なの」

「え、それじゃあ」

「スキル発動で、体は外も中も、最初にスキルを得たレベル8の形状に完全に戻される。「異物」もすべて弾いてしまうの」

「・・復元」

「だから、女本来の機能も、あるようでない」

「・・・あ、まさか。結婚とかしても」

「当たり。私は妊娠もできない。子供も産めない。半年くらい前に気付いたけど、スキルを得てから「月のもの」も来ていない」

女としての問題は、女にしか分からない。頭がいいダリアは察してくれた。

「私のスキルは任意だけでなく、自動でも働く」

ダリア、涙がこぼれてる。

「奇跡的に愛する人の子を宿せたとしても、少しの怪我や病気に対して自己修復スキルが働いたときは・・」

「赤ちゃんが、スキルによって消えてしまうんですね」


「そう。そういうこと考えると、誰かと本気で愛し合うのが怖い。もうリュウのときのように、手放しで胸に飛び込んでいくなんてできない」

ダリアは静かに泣いてくれた。


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