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「アビアント侯爵様、ご機嫌よう」
宰相補佐として、また、次代の宰相としての引継も兼ねて、最近は忙しくしているアビアント侯爵は、王女システィアに、声をかけられた。
「これは、王女殿下。ご機嫌麗しく」
臣下の礼を取る侯爵に、システィアは続けた。
「学園には、シーナも通うのでしょう?王都にはいつ戻りますの?」
「は?」
侯爵は、何を言われたのかわからなかった。
「学園に通えば、毎日一緒よ。今から楽しみだわ。領地から戻ったら報せてね」
システィアは一方的にそう告げると、去って行った。
「え?は?え?」
侯爵は、去って行く背中に、意味のなさない言葉を投げかけることしか出来なかった。
………
……
…
侯爵家は混乱した。
何故、王女がシーナの存在を気にしているのか。
長女ラーナは、確かに第一王子の婚約者だ。もちろん、病弱な妹がいることは告げてある。いくら兄の婚約者の妹とはいえ、“毎日一緒にいられるようになるから楽しみだ”とは、解せない。
「どこで、どうやって、なぜ、どんな関わりが」
それはそうだ。王都から比較的離れた領地に、シーナはいる。王侯貴族が所有する領地に、別の王侯貴族が訪れる際は、必ず先触れを出す。経由地として通過するだけであれば許可の必要はないが、宿泊や逗留となれば、必要となる。通過するだけで親しくなるなんてこと、あり得るのだろうか。
呟く侯爵の言葉に、集まった家族たちも一様に困惑の表情を浮かべている。
シーナは学園に通わせず、変わらず領地で過ごさせる。そう決定していた。入学まで三ヶ月もない。
「本当に、どういうことなのでしょう。あの王女殿下と、一体、どこで関わりが」
嫡男ユーリも頭を抱えている。
「勝手にあの邸から出たと言うことなの?」
侯爵夫人の言葉に、侯爵が顔を上げる。
「なるほど。それならば納得出来る。情報統制のため、侍女が一人であることが裏目に出たか」
シーナを見る者は、侍女たった一人。その目をかいくぐるなど、容易いことだろう。または、領地にいる年月の間に、情に絆されたか。
「チッ。ユーリは陛下に伺ってみてくれ。私は王女殿下に、何故そのようなことになっているのか、伺わなくては」
*~*~*~*~*
療養の名目で領地に送られたシーナについて行ったのは、たった一人の侍女、リイザ。
シーナが六歳になる少し前から世話係となったリイザは、良き理解者だった。
リイザは幼い頃両親を亡くし、厳しくも優しい祖母に育てられた、子爵家の次女だ。彼女の祖母の父は、精霊の使いだった。そのため、祖母はよく精霊の話を聞かせてくれた。
精霊は見えないだけで、確かにいるのだと。精霊の使いでさえ、見える者は稀だという。だが、祖母の父は普段は見えないが、何かの拍子にその姿を見ることは度々あったらしい。愛らしい姿に、笑顔が零れたと言っていたという。
リイザは大きくなり、侯爵家で働くことが出来た。超名門の一家だ。素晴らしく優秀な一家であったが、一番下の娘だけが、その輪から外れていた。
リイザに両親はなく、地位も子爵家と低いもの。何かあったらどうとでもなると考えたのだろう。リイザは末娘、シーナのお世話係にと採用された。周囲は、災難を押しつけられて可哀相、と嗤った。
そう言われる度、リイザは首を傾げる。一番下っ端のリイザが、先輩たちに何か言えるわけもないが。
それでもリイザは不思議に思っていた。
自分は身近に精霊に関与した者がいたからそう思うのかも知れないが、シーナ様の“奇行”は、精霊が関与していると、何故誰も思わないのだろう。生まれたときの鑑定結果は、確かに加護なしだったのかもしれない。だが、自分たちの想像も付かないような存在を、あの水晶だけで図れるものなのだろうか。水晶に反応がなかった、という事実しかわからないではないか。鑑定にケチを付ける気は毛頭ない。しかし、それがすべてではないと、考えないことがおかしいのではないか。
何度でも言うが、自分たちとは次元の違う存在なのだ。
*つづく*
宰相補佐として、また、次代の宰相としての引継も兼ねて、最近は忙しくしているアビアント侯爵は、王女システィアに、声をかけられた。
「これは、王女殿下。ご機嫌麗しく」
臣下の礼を取る侯爵に、システィアは続けた。
「学園には、シーナも通うのでしょう?王都にはいつ戻りますの?」
「は?」
侯爵は、何を言われたのかわからなかった。
「学園に通えば、毎日一緒よ。今から楽しみだわ。領地から戻ったら報せてね」
システィアは一方的にそう告げると、去って行った。
「え?は?え?」
侯爵は、去って行く背中に、意味のなさない言葉を投げかけることしか出来なかった。
………
……
…
侯爵家は混乱した。
何故、王女がシーナの存在を気にしているのか。
長女ラーナは、確かに第一王子の婚約者だ。もちろん、病弱な妹がいることは告げてある。いくら兄の婚約者の妹とはいえ、“毎日一緒にいられるようになるから楽しみだ”とは、解せない。
「どこで、どうやって、なぜ、どんな関わりが」
それはそうだ。王都から比較的離れた領地に、シーナはいる。王侯貴族が所有する領地に、別の王侯貴族が訪れる際は、必ず先触れを出す。経由地として通過するだけであれば許可の必要はないが、宿泊や逗留となれば、必要となる。通過するだけで親しくなるなんてこと、あり得るのだろうか。
呟く侯爵の言葉に、集まった家族たちも一様に困惑の表情を浮かべている。
シーナは学園に通わせず、変わらず領地で過ごさせる。そう決定していた。入学まで三ヶ月もない。
「本当に、どういうことなのでしょう。あの王女殿下と、一体、どこで関わりが」
嫡男ユーリも頭を抱えている。
「勝手にあの邸から出たと言うことなの?」
侯爵夫人の言葉に、侯爵が顔を上げる。
「なるほど。それならば納得出来る。情報統制のため、侍女が一人であることが裏目に出たか」
シーナを見る者は、侍女たった一人。その目をかいくぐるなど、容易いことだろう。または、領地にいる年月の間に、情に絆されたか。
「チッ。ユーリは陛下に伺ってみてくれ。私は王女殿下に、何故そのようなことになっているのか、伺わなくては」
*~*~*~*~*
療養の名目で領地に送られたシーナについて行ったのは、たった一人の侍女、リイザ。
シーナが六歳になる少し前から世話係となったリイザは、良き理解者だった。
リイザは幼い頃両親を亡くし、厳しくも優しい祖母に育てられた、子爵家の次女だ。彼女の祖母の父は、精霊の使いだった。そのため、祖母はよく精霊の話を聞かせてくれた。
精霊は見えないだけで、確かにいるのだと。精霊の使いでさえ、見える者は稀だという。だが、祖母の父は普段は見えないが、何かの拍子にその姿を見ることは度々あったらしい。愛らしい姿に、笑顔が零れたと言っていたという。
リイザは大きくなり、侯爵家で働くことが出来た。超名門の一家だ。素晴らしく優秀な一家であったが、一番下の娘だけが、その輪から外れていた。
リイザに両親はなく、地位も子爵家と低いもの。何かあったらどうとでもなると考えたのだろう。リイザは末娘、シーナのお世話係にと採用された。周囲は、災難を押しつけられて可哀相、と嗤った。
そう言われる度、リイザは首を傾げる。一番下っ端のリイザが、先輩たちに何か言えるわけもないが。
それでもリイザは不思議に思っていた。
自分は身近に精霊に関与した者がいたからそう思うのかも知れないが、シーナ様の“奇行”は、精霊が関与していると、何故誰も思わないのだろう。生まれたときの鑑定結果は、確かに加護なしだったのかもしれない。だが、自分たちの想像も付かないような存在を、あの水晶だけで図れるものなのだろうか。水晶に反応がなかった、という事実しかわからないではないか。鑑定にケチを付ける気は毛頭ない。しかし、それがすべてではないと、考えないことがおかしいのではないか。
何度でも言うが、自分たちとは次元の違う存在なのだ。
*つづく*
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