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「はて。私はシスティアを監視しているわけではないからな。行動の逐一を把握しておらん。何せあの子はとても特別な子だ。あの子であれば、どんなことでも起こり得るだろうからな」
国王の側近であるユーリは、執務の合間に王女システィアとシーナの関係を尋ねた。すると、国王は不思議そうな顔をしながらも、そう笑ったと言う。
侯爵も宰相補佐という立場から、国王と接触する機会は多い。ユーリのようにそれとなく聞いてみるも、「これからも仲良くやってくれ」と言われただけだった。
あまりしつこく訊いて不審に思われたら、堪ったものではない。
システィアが、どこまでシーナのことを知っているのか。その上で、どこまで国王たちにシーナのことを話しているのか。あまりにも情報がないため、迂闊なことが言えない。今までは病弱で通せたが、元々違う。ここで病弱を理由に断ろうとして、システィアを通して今の姿を知られていたら、王族、まして国王への虚言として、不敬罪となる。
本当であれば、システィアに会い、話を聞きたかった。しかし先日のような偶然でもなければ、いくら宰相補佐とは言え、王女に会うには許可が必要だ。交友関係のことが聞きたいなどと、プライベートなことを聞くために許可を得ることが出来ようはずもない。さらにとても間の悪いことに、システィアは学園に入ってより忙しくなる前にと、招待された数カ国へ外遊に出てしまっていた。
結果、何の情報もないまま、シーナの入学の時が迫っている。
出仕のため馬車に乗り込むと、二人は溜め息を吐くことが日課のようになっていた。
「父上、シーナが学園に通うとなると、また侯爵家の空気が悪くなります。使用人たちの仕事にも差し障る。寮に入れて我々の目が届かないと、何をやらかすかもわからない。領地なら構いませんが、王都では致命的な醜聞になりかねない。今更別邸を建てるにも時間がない。お手上げです」
「本当に忌々しい出来損ないだ。おまえやラーナの十分の一でも出来ていれば、もう少し何とかなったというのに」
侯爵家は、出来損ないと蔑むシーナのことで時間を取られ、煩わされることが、非常に不快だった。
*~*~*~*~*
王女システィアが、とても特別な子、と言われるには、当然理由がある。
現王家に、精霊の加護を持つものはいない。
それは、国民誰もが知っていた。
そんな中、激震が走る。
なんと、王女システィアが、精霊の加護持ちであると発表がなされた。
生まれたときにすぐに加護の鑑定を受けることは、王家ももちろん例外ではない。
精霊は、生まれたばかりの真新しい生命を好む。その時に加護を与えられなかった者が、時と共に精霊からの加護を与えられるなど考えられないことだったからだ。
だが国民たちは、王家が発表したのならそうなのだろう、とめでたいと喜ぶだけであったが、その現場を目撃した貴族たちは、感涙に噎び、システィアと、その存在に平伏した。
それは、王女システィアの十四歳の誕生パーティーでの出来事。
祝いに集まる貴族たち。
システィアが会場に姿を現すと、それは起こった。
………
……
…
「システィア殿下も来年は学園か」
「いやはや、どれほどこの時を待ったか。殿下はなかなか人前に姿を見せませぬ故」
「貴殿の次男は同年でしたな。あれほどの美貌が毎日拝めるとは、いやはや、羨ましい限りだ」
「誰が殿下のお心を射止めるか、気が気でないわ」
「ほんにほんに。いくら殿下たちには伴侶は自由にとは言っても、ある程度素養のあるものを見初めていただかねば国が沈む」
「幸い今までそのようなことはなかった。だが、これからもそうとは限らん。せめて高位貴族の中から選んで欲しいものよ」
そんなことを密やかに口にする者たちもいる。
だが、偶然今まで無事だった、ということではない。王家の人を見る目は確か。
それをわからない者が、そう口にするのだ。
*つづく*
国王の側近であるユーリは、執務の合間に王女システィアとシーナの関係を尋ねた。すると、国王は不思議そうな顔をしながらも、そう笑ったと言う。
侯爵も宰相補佐という立場から、国王と接触する機会は多い。ユーリのようにそれとなく聞いてみるも、「これからも仲良くやってくれ」と言われただけだった。
あまりしつこく訊いて不審に思われたら、堪ったものではない。
システィアが、どこまでシーナのことを知っているのか。その上で、どこまで国王たちにシーナのことを話しているのか。あまりにも情報がないため、迂闊なことが言えない。今までは病弱で通せたが、元々違う。ここで病弱を理由に断ろうとして、システィアを通して今の姿を知られていたら、王族、まして国王への虚言として、不敬罪となる。
本当であれば、システィアに会い、話を聞きたかった。しかし先日のような偶然でもなければ、いくら宰相補佐とは言え、王女に会うには許可が必要だ。交友関係のことが聞きたいなどと、プライベートなことを聞くために許可を得ることが出来ようはずもない。さらにとても間の悪いことに、システィアは学園に入ってより忙しくなる前にと、招待された数カ国へ外遊に出てしまっていた。
結果、何の情報もないまま、シーナの入学の時が迫っている。
出仕のため馬車に乗り込むと、二人は溜め息を吐くことが日課のようになっていた。
「父上、シーナが学園に通うとなると、また侯爵家の空気が悪くなります。使用人たちの仕事にも差し障る。寮に入れて我々の目が届かないと、何をやらかすかもわからない。領地なら構いませんが、王都では致命的な醜聞になりかねない。今更別邸を建てるにも時間がない。お手上げです」
「本当に忌々しい出来損ないだ。おまえやラーナの十分の一でも出来ていれば、もう少し何とかなったというのに」
侯爵家は、出来損ないと蔑むシーナのことで時間を取られ、煩わされることが、非常に不快だった。
*~*~*~*~*
王女システィアが、とても特別な子、と言われるには、当然理由がある。
現王家に、精霊の加護を持つものはいない。
それは、国民誰もが知っていた。
そんな中、激震が走る。
なんと、王女システィアが、精霊の加護持ちであると発表がなされた。
生まれたときにすぐに加護の鑑定を受けることは、王家ももちろん例外ではない。
精霊は、生まれたばかりの真新しい生命を好む。その時に加護を与えられなかった者が、時と共に精霊からの加護を与えられるなど考えられないことだったからだ。
だが国民たちは、王家が発表したのならそうなのだろう、とめでたいと喜ぶだけであったが、その現場を目撃した貴族たちは、感涙に噎び、システィアと、その存在に平伏した。
それは、王女システィアの十四歳の誕生パーティーでの出来事。
祝いに集まる貴族たち。
システィアが会場に姿を現すと、それは起こった。
………
……
…
「システィア殿下も来年は学園か」
「いやはや、どれほどこの時を待ったか。殿下はなかなか人前に姿を見せませぬ故」
「貴殿の次男は同年でしたな。あれほどの美貌が毎日拝めるとは、いやはや、羨ましい限りだ」
「誰が殿下のお心を射止めるか、気が気でないわ」
「ほんにほんに。いくら殿下たちには伴侶は自由にとは言っても、ある程度素養のあるものを見初めていただかねば国が沈む」
「幸い今までそのようなことはなかった。だが、これからもそうとは限らん。せめて高位貴族の中から選んで欲しいものよ」
そんなことを密やかに口にする者たちもいる。
だが、偶然今まで無事だった、ということではない。王家の人を見る目は確か。
それをわからない者が、そう口にするのだ。
*つづく*
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