精霊の使い?いいえ、違います。

らがまふぃん

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 システィアは、とても美しい王女だった。
 夜空のように輝く黒髪に、深い海のような青い瞳。抜けるような白い肌に、鮮やかな赤い唇。美しすぎるシスティアは、精巧な人形のようで、実際その表情も滅多に変わらない。けれど、王家の誰もがシスティアを溺愛していた。
 「ああ、今日は一段と美しいね、システィー」
 「本当に。エスコートできる栄誉に今にも倒れそうですよ、システィー」
 第一王子リュクスと第二王子リュセスが、システィアの左右に立ち、人前では見せられないほどデレている顔でシスティアを見つめている。二人の手に自身の手をそれぞれ預け、システィアは二人の顔を交互に見た。
 「お兄様、ありがとうございます」
 微笑むシスティアに、二人は胸を押さえて倒れかける。
 「ぅぐうっ、システィー、システィーの誕生日を兄様の命日にしないでくれっ」
 「ああ、システィー、女神過ぎて女神ですっ」
 兄バカの二人を、親である王と王妃は生温か~い目で見つめながら、先を促した。
 「ほれ、行くぞ。主役をいつまでもこんなところに置いておくわけにはいかん」
 王の声に、打って変わって二人は苦虫を噛み潰したような顔になる。
 「父上、危険、だと思いませんか」
 リュセスの言葉に、王と王妃は互いに顔を見合わせる。
 「何かあるのか、リュセス」
 王がそう言うと、リュセスは強い眼差しを父である王に向けた。
 「わかりませんかっ?このシスティーを見て何も思わないのですかっ?」
 「そうですっ。システィーが美しくてっ、美しすぎて危険だっ」
 「扉を開けよ」
 王は兄バカたちを無視して、衛兵に会場への扉を開けるよう命じたのだった。


 王族の入場に、会場中の人々が頭を下げている。
 「おもてを上げよ」
 一斉に上げられた面々は、ある者は感嘆の息を吐き、ある者は知らず息をのみ、またある者は陶然とした様子でシスティアを見つめた。
 美しいシスティア。精巧な人形のように表情のないシスティア。
 そんなシスティアが、なんと口元に淡く笑みを浮かべているのだ。
 これまでのパーティーなどでも、こんなことは一度もなかった。それが、どうしたというのだろう。どんな理由があるかはわからない。けれど、誰もの目を奪うことは、当然だった。


 国王の祝辞が終わり、システィアが謝辞をべようとしたときのこと。
 ひらり、一片ひとひら、舞い落ちた。
 「む?」
 国王の目の前に、ひらりと落ちる、白いもの。また一枚、また一枚。
 どこからともなく白い花弁が、雪のように舞い落ちる。
 王族たちだけでなく、貴族たちも何事かと天井を見上げる。
 天井のほど近くに、ゆっくり花弁が渦巻いている。
 その光景に、誰もが目を奪われていた。そんな中でも、王族たちだけは何が起きているのかをわかっていた。

 ついに、この時が来た。
 来て、しまった。

 この上ない歓喜と、同じくらいの淋しさを胸にいだきつつ、膝をついてを待った。
 その中心が淡く光り出し、そこからゆっくりと人影が降りてきた。
 驚きに皆が目を奪われていると、精霊の使いたちが一斉に膝をつき、頭を垂れた。その動きに、会場中が何事かとまた驚く。気付けば、王族一同、同じように膝をついて頭を下げているではないか。気付いた者たちから王族や精霊の使いに倣う。誰もが平伏して少し。完全に姿を顕したその人影に、国王が、感極まった声で、その存在を口にした。

 「精霊王様」

 その言葉に、誰もが耳を疑った。



*つづく*
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