吸血鬼公爵に嫁いだ私は血を吸われることもなく、もふもふ堪能しながら溺愛されまくってます

リオール

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第一部

22、吸血鬼と妹(3)

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「や~さすがに重かったです」
「お姉さまがでしょ?」
「そうだね、ウェンティの頭の中身は少なそうだから軽いだろうね」

 最初のヨシュの言葉だけ平和。
 後の二人の会話はドロドロしてるのがお分かりいただけただろうか。

 狼姿になったヨシュに驚いてはいたけれど、すんなり受け入れるところは肝が据わってるというか何というか……なんも考えてないんだろうと思うけど。

 大きな狼姿のヨシュの背は、私とウェンティ二人が乗っても安定していた。
 ……前後に座るとき、ウェンティが前で、私がなんだか彼女を包み込むような体制になったのは許せないけれど。なぜ私が彼女を守るような状態にならねばならないのだ。

「わ~ドロドロしてますわねえ」

 私とお前の間の空気もな!
 空気を読まない妹を白い目で見るけれど、当然気付かない。その気楽さが羨ましいわ。
 のほほんとした顔でウェンティは屋敷を見上げていた。

 不意に、ギイ……と音と共に、扉が開き。
 次いでバンッ!と勢いよく開いた。

 そして飛び出してきたのは……

「わふっ!」
「キュイ!」
「にゃ~ん!」

 ランちゃん(犬)⇒ミンくん(キツネ)⇒タンちゃん(猫)
 と出て来て、私に飛びついて来てくれた!ひゃっほう、ふわふわ~!

 ……あれ、ふわふわじゃないのが一匹いるな。
 でかいし。抱きしめてくる力強いし、苦しいし。

「……って、ゼル様!?」

 何やってんですか、貴方!
 なんでふわもふ達に混ざって、ちゃっかり私に抱きついてるんですか!というか抱きしめてくるんですか!

「お帰り、フィーリアラ!よく無事で……!」
「いや、町に行ってきただけですから」

 この過保護っぷりはどうにかならないかしら。嬉しいけど。とは言わないけど。調子乗るから。

「不安で不安で仕方なかったんだよ!ジッとしてられなくて森の中を全力ダッシュ三週しちゃったよ」

 いやこの広大な森を全力三週とか凄いですね。無駄に感心しますわ!

「本当に無事で良かった。もし危険な目に遭ってたらと思うと……そうなったらちゃんとヨシュを犠牲にして逃げるんだよ?」
「ちょっと僕グレてもいいですかね。何この吸血鬼、ワイン飲ますぞ畜生」

 ヨシュが本気で拗ねそうだったので、私はグイと公爵を押しやった。

「冗談でもそんなこと言っちゃ駄目です。ヨシュに謝ってください」
「ごめんごめん」
「軽いな!」

 長い付き合いの二人だから本気で拗れる事はないけれど、よく二人きりで今までやってこれたなと思ってしまう。

 その時だった。

「あのう……」

 忘れてた、というか忘れたかった存在が言葉を発したのは。

 いっそヨシュの背中から突き飛ばして、荒野にでも捨て置きたかった存在の声がした。

「えっと、そちらは……?」

 ウェンティが不思議そうな顔で公爵を見ていたのだ。
 あ、なんかウルウルした目で見てる。泣きそうとかじゃなくて、熱っぽい目で。ヤバイこれヤバイ目だ。

 嫌な予感がするので何も言えずにいたら

「誰だお前は」

 と、公爵が口を開いた。
 すんごい睨みつけてるんですけど。
 全然ウェンティは気にしてないんですけど。

「あ、わたくしファインド伯爵家が娘、ウェンティ・アリス・ファインドと申します」
「ファインド家の?」
「はい、フィーリアラお姉さまの可愛い妹です」

 自分で可愛いとか言うな。寒いとか思わないのか。

「そうなの、フィーリアラ?」
「……はい。実の妹です」

 公爵の目が何を言いたいかよく分かる。
 本当なのか怪しんでる目だ。

 なにせ私とウェンティは似てない姉妹なので、いつも疑われてきたものだ。

 実際は、私は両親のいいとこを貰い(禿げは貰ってない事を祈る)、ウェンティは父方の祖母にそっくりなのだ。
 でも似てるのは外見のみ。私は両親のふざけた性格は受け継いでないし。祖母はウェンティのような馬鹿とは真逆、賢母で祖父をいつも側で支えてたと聞く。私が幼い頃に亡くなったけれど、優しい笑みの奥に聡明な光を見たものだ。

 そんなわけで公爵も、本当の妹なのか怪しんだんだろうな。
 悲しいかな、正真正銘の妹ですよ。あのバカップル両親が不貞を働くことはまず無いので。そこだけは感心してる。心底愛し合ってるんだ、あの両親は。

「ひょっとして吸血鬼公爵様ですか?」
「ああ、そうだ」

 恐る恐る聞くウェンティは、公爵が頷いた途端。

「お兄様ぁぁぁん!!」

 とふざけた叫びと共に。

 ガバッと。
 もう気持ちいいくらいにガバァッと!

 公爵に抱きついたのだった!





 
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