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第一部

16、吸血鬼とトマジュー

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 仕事が一段落したので、ヨシュと共にゼル様を探してたらフワモフ部屋に居た。

 フワモフ部屋とは何のことかって、その名の通り。

 エミリーが掃除してくれた綺麗な部屋でノビノビと楽しそうに過ごすフワモフ達。

 その中心で座り込む存在。

 ランちゃんを胸に抱きしめ。
 頭にリン君が乗っかり。
 背に寄り添うのはミン君。
 そして膝には真っ白な猫。

 猫──そう、犬が居るなら当然のように猫も居る。

 フワフワの代表種、ペルシャ猫。

 犬と猫どころか全てのモフモフが平和に同居とか凄いよね。草食肉食関係ないとか。

 猫ちゃんの名前は……タンちゃん。
 なんとしても「〇ン」にしたいのか。そこ公爵のこだわりか。

 そんなフワモフに囲まれて、ガックシと項垂れ茫然と座り込む公爵が一人。これ吸血鬼なんだよ、ビックリだよね!

「フィーリアラが頬を赤らめてあんな声を……あれは破廉恥ではないのか……あのような妖艶な姿を私以外の者が見るなんて……出来れば二人きりの時にもっと……こう、色々と…いろいろエロエロと……」

 なんかどっかの中年親父のようなこと言ってますけど!気にしちゃ駄目なの、これ!?

 呟きの内容さえ気にしなければ、状況は見目良い吸血鬼がモフモフ達と戯れてる。なかなかの眼福ものだ。気にしないで黙って見てよう、うん。深く考えちゃ駄目なんだ、きっと。

 頭に乗ったオウムの爪が刺さって痛そうだけど、吸血鬼って確か頑丈だよね。問題ないか。むしろいいツボ押しにならないか。

「ほらゼルストア様、機嫌直して。今週のブラッドデーですよ」

 ヨシュが気にせず近寄って話しかける。
 ブラッドデー、即ち血の日だ。そのまんま。

 前回の一気飲みから一週間経ったので、そろそろ飲む時期だとの事で。

「はい、じゃあ本日もヨシュの3分クッキ……」
「あ、それもういいので。本当にもういいので。普通にしてください」
「……ちっ」

 ちっ、じゃないわ!毎回あれはキツイわ!
 あと……

「ワインも厳禁ですからね。トマジューにしてください」

 と、ドンと側にあったテーブルに真っ赤なトマトジュースを置いた。

「え、どこから出てきたんですか」
「さて?」

 ヨシュも前回やっただろう。あれだよ。何とかポケットだよ。

「しっかりトマジュー用意してるくせに、なぜ前回はワインだったんですか?」
「え、だから面白そうだったから」
「しばらく草食になってくださいね」
「それだけはあぁぁぁ!!!」

 勝った……!

 初めてヨシュが焦るのを見て、なんか勝った気分になったところで。

 スッと公爵に近付いた。
 まだ放心してるよこの人。
 さっきのミンとのやり取り、そんなショック受けることだった?

「ゼル様」
「ふへ!?」

 ぬっと公爵の顔を覗き込んで呼びかけたら、ようやく反応があった。
 ふへって!可愛いし!

「ゼル様。そろそろ血を摂らないといけないのではありませんか?」
「あ、ああ……そうだな」
「そこで質問です」
「?」
「ヨシュと私の血、どちらがいいですか」
「フィーリアラでお願いします!!!!」

 迷いないな。予想してたけど。
 分かっちゃいたけど、やっぱり嬉しい。
 ……血が欲しいと選ばれることに喜び感じるとか、これって狂愛かしら。

 じゃあ、とグラスと小型ナイフを用意したところで「あ!」と公爵が声を上げた。
 なんか焦ってる?

「なんでしょう?」
「い、いや……フィーリアラに痛い思いをさせるのとか……その美しい指に傷をつけるのとか嫌だと思って、その……やっぱりヨシュでいいだろうか?」
「あははははははははははは、僕の痛みや指の心配ナッシングですか」

 ヨシュ、顔が笑ってませんよ。ちょっと怖い。
 公爵、鞭ばかりでなくたまには飴あげないと狼逃げまっせ。

 アワアワなってる公爵面白いので、助け船は少し待とうと思いました。




 





===作者の呟き=================

別連載のラブコメと比べると、何だかアダルティーな雰囲気漂ってますね(作者基準)
今回ギャグ大したことなくてスミマセン。いやいつものことか(^_^;)
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感想 60

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