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第一部
17、吸血鬼と外の世界
しおりを挟む「肉ぅ!!!!!」
公爵家お屋敷にやってきて早1ヶ月。
いきなしヨシュが叫びました、叫びましたよ。
「何ですかいきなり」
いきなり肉とか何言ってんのこの狼。
「狼ですから!肉食ですから!お肉食べたいんです!」
必死の形相で訴えかけるヨシュ。
あーそうか、そういうことかあ。
このお屋敷の片付けや貴族社会での立ち位置に経済状況、歴史とか色々学んでるうちに時間が過ぎてしまって。
結局一回も領地の外に行ってないや。
お買い物はヨシュさんに頼んでたけど、無駄遣いはいけません!の元、節約してましたからねえ。
お肉も食べてましたけど、まあ人狼としては物足りなかったんだろうなあ。
うーん、公爵家は文句なしに潤ってはいるけれど、それがこれからも続くとは限らない。
そもそもこれから森の整備を筆頭に、あれこれやろうと考えてる身としては、無駄遣いは避けたいところだ。
とは言え、大切な執事をあまり蔑ろにするのも可哀そうだし。リクエストに応えるには……
「森に住む動物を狩りますか?」
それが一番安上がりで手っ取り早いのだけれど
「駄目ぇっ!!!!」
公爵の一声で却下されてしまった。
まあ……確かに。
言っておきながら私もそれは嫌だったので、却下されてホッとする。
「仕方ないですね。たまにはガッツリお肉を買ってきてもらいましょうか」
と提案したら
「いやっほう!!!!!」
とか小躍りしだした。うん、執事にフリフリ尻尾が見える気がするわあ。
「私も行きたいです」
「駄目です」
「一番近くの村や町を把握したいと思うのですが」
「駄目です」
「正体はバラしませんから」
「駄目です」
「ヨシュの背中に乗って行くので安全ですよ」
「もっと駄目!!」
これ小一時間ほどやってます。もぉぉぉぉ!!!!!
過保護の「過」が10個ぐらいついてるんじゃないかというくらいに、公爵は頑として首を縦に振らなかった。
でもこれは私も譲れません!
ヨシュも公爵も過去の吸血鬼公爵も。
みんな自分たちの事しか興味なかった。
そのせいで、吸血鬼公爵のイメージはいつまでも悪いままなんだ!
「これからはオープンな時代です!吸血鬼かっけえ!て言われる時代なんです!」
「フィーリアラがカッコいいと思ってくれたらそれでいい!」
んなんですか、そのデレ発言わぁ!
赤くなるくらいなら言わないでください、こっちが照れるわ!
「あ、私かっこいいとは思ってませんので」
「うそおぉぉぉ!」
いや、そんな驚かなくても。
え、自分で自分の事をかっこいいとか思ってたんだろうか。
肩にミン君を襟巻きのごとく乗せて。
腕にランちゃんを抱いて。
頭に(…)リン君乗せた状態で言われても。
これ、かっこいいとか思う人いるの?吸血鬼公爵素敵!とか思う人いるんだろうか。
まあ可愛いとは思ってますよ。言わないけど。
「と、に、か、く!近隣の方々のイメージが今どんな感じなのか。どういう情報が出回ってるのか。探ってこない事には話にならないんです!」
「そ、そんなことフィーリアラがやらなくても良いではないか!ヨシュにでも……!」
ああ、埒が明かない!
そりゃヨシュさんは今までやらなかっただけで優秀である事は、この1ヶ月でよく分かりましたけど!
彼には執事としての仕事がたんまりあるんです。
特に今でも唯一繋がりのある外界……つまりは王家とのやり取りとか。
ともすれば、彼らはこの公爵家を、いや公爵を利用しようと画策するのだ。
そりゃ吸血鬼を味方にするほど心強い事はないもんなあ。
過去の吸血鬼公爵は知らないけれど、どうみてもゼル様は人が良過ぎる。
頼まれたら何でもホイホイ受けそうだ。それが例え血なまぐさい事であろうとも。
そんな彼を政治道具にしてたまるか!とヨシュと私とは一致団結しておりまして。
付かず離れず、程よい距離を王家と保つのが最優先。
なのでそっちにかなり神経使うヨシュに、これ以上のお仕事任せるわけにはいきません。
……普段から残念な公爵の相手で疲れてるのにね。
そんなわけで。
「ヨシュさんではなく!私が行きたいんです!」
「駄目ったら駄目だあぁ!」
うおお、話が進まない!このままじゃお昼も過ぎて夜になっちゃう!
こうなったら最後の手──!
言いたくなかったけど言うしかない!
私は意を決して口を開いた。
「貴方の妻となる私がすべきことなんです!!!!!」
「行ってらっしゃい!!!!」
吸血鬼ちょろいわ!
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