吸血鬼公爵に嫁いだ私は血を吸われることもなく、もふもふ堪能しながら溺愛されまくってます

リオール

文字の大きさ
上 下
4 / 40
第一部

3、吸血鬼と婚約破棄された令嬢(3)

しおりを挟む
 
 
「おま……!ふざけんなよ!」
「いだだだ!やめてフィーリアラちゃん!髪が、髪が抜けるぅぅ!!」

 抜いてんだよ!
 痛がるのを無視して、私は父の髪を引っ張り続ける。

 そりゃ怒るわ!
 よりによって……何で、何で!

「吸血鬼公爵ですって!?お父様は私を殺す気ですか!?」

 吸血鬼ってー!

 ランディ公爵──またの名を吸血鬼公爵と言う。

 なんでも古代吸血鬼の末裔だとか。
 強大な力を持った始祖は、人間との間に子をなした後、伴侶の死と共に姿を消した。

 生まれた息子にもまた、強大な力が受け継がれたという。

 その力は魔物をも凌ぎ、かつて大挙した魔王の軍勢を退けた。
 また、国同士の戦争の際に、一人で敵国に乗り込んで滅ぼしたとか。
 そんな伝説まである存在だ。

 たしか今は3代目の公爵となる。つまり始祖の孫、だ。
 気の遠くなるほど昔に存在した始祖の、まだ孫なのだ。
 公爵となって一体どれほどの年数が経ってるのか、正確な事は分からない程だと聞いた。

 そしてそんな吸血鬼公爵の花嫁とは、それすなわちその身を捧げることに他ならない。
 吸血鬼公爵の名のままに生き血を吸われ、最後は干からびて息絶える──それが誰もが知る、けれど隠蔽された事実だ。

 ただしそんなことを頻繁に行われては公爵も危険分子扱いされていたことだろう。
 百年に一度の事だからと、王家も目を瞑っているのだ。

 そして今年がその百年に一度の事、だという。

 そんな花嫁という生贄に私を差し出すだあ?
 お前それでも親か!
 散々家のために頑張ってきた私に対する仕打ちか!

「禿げろ!禿げて私に詫びろぉぉっ!」
「いや~~~!や~めてぇ~え~!」

 この馬鹿親父はきっともうOKの返事をしてるに違いない。そして公爵家相手に言ったことを覆せるわけもなく。

 もし怒りを買うような事になったら、きっとお家断絶……

 あ、待てよ。

 ここで私はふと気付く。

 断絶良くね?こんな家滅んでも良くね?

 禿げ予備軍な父は禿げ、お花畑な母は畑をいじり、お馬鹿な妹はお馬鹿に地に這いつくばる。

 いいんじゃない?良いんじゃない!?

 なんか楽しくなってきた!ワクワクしてきたわ!

 よし、そうと決まったら
「仕方ありません。ランディ公爵様の元へ嫁ぐ事に致します」
 宣言しちゃうよ!

 急に髪を引っ張るのをやめて大人しく受け入れた私を訝しげに思いつつも、気が変わるのは困ると思ったのだろう。

「ありがとう、流石フィーリアラちゃん!大丈夫、君なら血なんて吸われることなく公爵に気に入って貰えると思うよ!」

 なんて調子のいいことを言ってきた。

「そうよ、フィーリアラちゃん。いくら吸血鬼公爵でも後継ぎは必要なんですから。きっと貴女との子を欲しいと公爵様も思われるはずよ。なんてったってフィーリアラちゃんはとっても美人なんですから!」

 と、母も乗ってくる。

 まあね、自惚れでも何でもなく、実際私は美人だと思います!
 顔だけはいい両親の元に生まれましたからね。顔だけは!ここ強調。

「そうですわ、お姉様。顔だけは良いのですから、しっかり吸血鬼公爵を誑かしてくださいな。そして私達のために、貢がせてやればいいのですわ!」

 ……何だろうな、自分で思ってても人に言われるのって何か腹立つよね。それが妹となれば尚更。不思議。

 同じく顔だけは良い妹ウェンティは、ニコニコ無邪気笑顔で応援(?)してくれた。

 ほんとお前、結構酷いこと平気で言うよね。
 さすがに誑かして~とか考えないわ。ないわあ。

「そうだね、フィーリアラなら逆に吸血鬼公爵の血を吸っちゃうかもしれないもんね。大丈夫大丈夫」

 お前の血を吸ったろか!

 ふざけた事をぬかす元婚約者に殺意を覚えた私をお許し下さい。

 よし、いいだろう。吸血鬼公爵の元へ行ってやろうじゃないか!

 ……違う。

 行くフリをして逃げてやる!
 そして怒った公爵にこの家を滅ぼしてもらおう!

 人生最大の選択肢は、こうして決定したのだった。


 
しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

王子からの縁談の話が来たのですが、双子の妹が私に成りすまして王子に会いに行きました。しかしその結果……

水上
恋愛
侯爵令嬢である私、エマ・ローリンズは、縁談の話を聞いて喜んでいた。 相手はなんと、この国の第三王子であるウィリアム・ガーヴィー様である。 思わぬ縁談だったけれど、本当に嬉しかった。 しかし、その喜びは、すぐに消え失せた。 それは、私の双子の妹であるヘレン・ローリンズのせいだ。 彼女と、彼女を溺愛している両親は、ヘレンこそが、ウィリアム王子にふさわしいと言い出し、とんでもない手段に出るのだった。 それは、妹のヘレンが私に成りすまして、王子に近づくというものだった。 私たちはそっくりの双子だから、確かに見た目で判断するのは難しい。 でも、そんなバカなこと、成功するはずがないがないと思っていた。 しかし、ヘレンは王宮に招かれ、幸せな生活を送り始めた。 一方、私は王子を騙そうとした罪で捕らえられてしまう。 すべて、ヘレンと両親の思惑通りに事が進んでいた。 しかし、そんなヘレンの幸せは、いつまでも続くことはなかった。 彼女は幸せの始まりだと思っていたようだけれど、それは地獄の始まりなのだった……。 ※この作品は、旧作を加筆、修正して再掲載したものです。

【完結】義母が来てからの虐げられた生活から抜け出したいけれど…

まりぃべる
恋愛
私はエミーリエ。 お母様が四歳の頃に亡くなって、それまでは幸せでしたのに、人生が酷くつまらなくなりました。 なぜって? お母様が亡くなってすぐに、お父様は再婚したのです。それは仕方のないことと分かります。けれど、義理の母や妹が、私に事ある毎に嫌味を言いにくるのですもの。 どんな方法でもいいから、こんな生活から抜け出したいと思うのですが、どうすればいいのか分かりません。 でも…。 ☆★ 全16話です。 書き終わっておりますので、随時更新していきます。 読んで下さると嬉しいです。

【完結】メンヘラ製造機の侯爵令息様は、愛のない結婚を望んでいる

当麻リコ
恋愛
美しすぎるがゆえに嫉妬で嘘の噂を流され、それを信じた婚約者に婚約を破棄され人間嫌いになっていたシェリル。 過ぎた美貌で近付く女性がメンヘラストーカー化するがゆえに女性不信になっていたエドガー。 恋愛至上の社交界から遠ざかりたい二人は、跡取りを残すためという利害の一致により、愛のない政略結婚をすることに決めた。 ◇お互いに「自分を好きにならないから」という理由で結婚した相手を好きになってしまい、夫婦なのに想いを伝えられずにいる両片想いのお話です。 ※やや同性愛表現があります。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

幼馴染の婚約者ともう1人の幼馴染

仏白目
恋愛
3人の子供達がいた、男の子リアムと2人の女の子アメリアとミア 家も近く家格も同じいつも一緒に遊び、仲良しだった、リアムとアメリアの両親は仲の良い友達どうし、自分達の子供を結婚させたいね、と意気投合し赤ちゃんの時に婚約者になった、それを知ったミア なんだかずるい!私だけ仲間外れだわと思っていた、私だって彼と婚約したかったと、親にごねてもそれは無理な話だよと言い聞かされた それじゃあ、結婚するまでは、リアムはミアのものね?そう、勝手に思い込んだミアは段々アメリアを邪魔者扱いをするようになって・・・ *作者ご都合主義の世界観のフィクションです

処理中です...