42 / 42
エピローグ
そして始まる18歳
しおりを挟む「何も言わなくていいのか?」
執務室を出て、自分の部屋に戻る。必要最低限の物が詰まったカバンを手に持つ。
「いいのよ。また戻ってくることもあるでしょ」
先は長いのだから。
そう言えば、「まあいいけど」と返って来る。メルビアスからしたらどうでもいいのだろう。長く生きてる彼は、家族というものに執着がない。
「そんなことより、私の時間は本当に止まっているの?」
確認すれば「ああ」と返って来た。
「お前の体の時は俺が止めている、心配するな」
「そ。ならいい」
私は今日、18歳になった。焦がれて焦がれて……けれどけして到達することのなかった時間。それをついに手にした今日、私の肉体時計は止まる。メルビアスが止める。
「じゃ、行きましょうか」
「どこに?」
「どこでも。お勧めの場所は?」
私達は旅に出る。行く当てのない旅。時間はたっぷりあるのだ、世界中を全て見て回るのもいいかもしれない。
「危ない場所はよしてよね。死んでまた戻るのは面倒だから」
「俺をなんだと思ってる、危険を感じたら世界の時を止めて常に回避してきたんだぞ」
「でもそうしたら、あなたの肉体時計が進んでしまうじゃない。私は時が止まったままなのに、あなただけ進んだら年齢差が開いてしまうわ。そんなの嫌よ」
「なんだ、ジジイになった俺は興味ないか?」
「……そんなことないけど」
不覚にも、ナイスミドルなオジサマメルビアスを想像して、ちょっと見たいと思ってしまったではないか。
「ま、とりあえずは安全圏での旅だな」
「とりあえずって何よ」
「たまには刺激も欲しいってこった」
「……まったくもう……」
話しながら、私達は馬車に乗り込む。私がコッソリ用意した馬車。といっても、執務に夢中な祖父に気付かれる心配は全くなかったけれど。
「ねえメルビアス」
「ん?」
ゆっくりと馬車が走り出す。揺れると触れるメルビアスの体。相変わらず、彼は正面ではなく私の横に座る。
それをドギマギしてることに気付かれないようにと、平静を装って私は質問する。ずっと聞きたかったことを。
「どうして、亡くなった奥さんの肉体時計を止めなかったの?」
そうすれば、ずっと一緒に居られたのに。
「あいつはそれを望まなかった。それだけだ」
こともなげに答えられて、なんだか拍子抜け。もっと深い意味があるのかと思ったのに。
「奥さんが望んだら、止めた?」
「さあ、どうだろうな」
ふわあと大きな欠伸をして、メルビアスは目を閉じる。寝るつもりか。
「……どうして、私の時を止めて一緒に旅してくれるの?」
それを望んだのは私。彼が私の時を止められると言った時に、願ったのは私。でも旅も一緒にしてくれるとは思っていなかった。
「一緒に居たいからに決まってるだろ」
またも、なんでもないことのようにサラッと答えが返って来る。そんな赤面するようなこと、平然と言うかあ!?
「そ、そう……」
「なに赤くなってんだよ。ガキか」
「んな!」
寝ようとしてたくせに、いつの間にか目を開けて私の顔を覗き込んでくる。そういう不意打ちはいらない!
「ま、とりあえず」
ボボボッと赤くなる私をからかうように、頬をなで、金の髪を指に絡ませるメルビアス。彼の口が私の耳に近付いて……
「フルーツケーキでも食うか?」
色気の「い」の字もないようなセリフ。この状況で言うようなセリフではないはずのそれに、私はキョトンとして。
それから満面の笑みを浮かべて「うん!」と頷いた。
「18歳おめでとう」
メルビアスの綺麗な唇が、私の唇に触れそうな距離で動いた。
~fin.~
応援ありがとうございます!
23
お気に入りに追加
1,919
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(80件)
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
面白かったー!
ありがとうございまーす!\(*´▽`*)/
うーむ、『ざまぁ』系を書く時はそれなりの覚悟がないと全くお話になりません。
それなら『ざまぁ要素あり』などにすれば良いだけです。
作者さんは「死はいきすぎかなぁ」と書かれていますが、ではあなたが同じようにされたらゆるせますか?
弟だって迫害していたのは変わりありません。
私は同じようにされたことがあるので、当然許せません。
なんちゃって『ざまぁ』を書きたいなら『ざまぁ要素』と書いて欲しいです。
ありがとうございます!
とても嬉しいです!(感涙