TS女子になるって、正直結構疲れるもんですよね。

星加のん

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第五章 パラレル

第146話 勘違い

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 いや、確かに黛っていう姓からもしかして親戚? ってチラッと思わなくもなかったけど、まさか黛君のお祖父さんの養子だったとは……。そんなこと思いもよらなかったわ。

「そのことは当然政府側も認識しているようですが、どうやら黛先輩がその前に別世界からやってきていた黛さんの血縁だとは知らないようです。というか、先輩がそのことは隠しているみたいなんです」

「そうなんだぁ。私には案外すんなり話してくれてたけどな」

「確かに何の拷問もしないですんなり吐いたな」

「ちょっと十一夜君?」

 クラスメイトに拷問とか物騒な。十一夜君じゃないんだからね、全く。

「まあ、そもそも政府側からも聞かれてないから答えてないって可能性もありますからね」

「なるほど、確かに」
 
「もしかして、そっちの黛さんからも何か情報を得られるかもしれないな」

 十一夜君が言うと、待ってましたと言わんばかりの顔で聖連ちゃんが言葉を継ぐ。

「一応、恭平さんに言われてすぐに病院のカルテ情報を元にいろいろ調査したんですけど」

 さすが仕事が早い。聖連ちゃんもやっぱりただの可愛い女の子じゃなくて十一夜家の一員なのだ。

「それで、どうだったんだ?」

「特別な情報は出てきませんでしたが、養子縁組が法的にもちゃんと成立していて、相続財産も引き継いでいました。財産目録にも特にこれといって目立ったものはなかったけど、まぁ、個人的に接触して直接話を聞けば何かは出てくるのじゃないかと」

 うーん。つまり特にこれと言って情報はなしってことか。
 でも確かに本人と直接話せれば何か有用な情報を得られる可能性はありそう。
 あ、そうだ。こういうのはどうだろう。

「あのぉ……黛君と会わせてみるっていうのはあり? なしかな?」

「なるほど。黛君とか……うぅん……」

「ありじゃないでしょうか」

 聖連ちゃんはありという意見だ。十一夜君もなるほどと言ったから反対ってわけじゃなさそうだけど、何か考え込んでいる様子。

「それはやってみる価値はあるけど、政府筋に見つかるのは避けたい。上手いこと隠して会わせたいところだが……いっそのこと思い切ってうちに呼ぶか」

 なるほど、外だと監視が付くしバレないわけにはいかないもんね。とはいえ、黛さんの方をどうやって呼び出すかって話よね。

「そうですね。ここは華名咲先輩にひと肌脱いでもらうとしましょう」

「え、わたし? 脱ぐの?」

 頓珍漢なわたしの発言に、何か思い出したのか聖連ちゃんが真っ赤になっている。ま、確実にあの時のことだな。何せ一緒にお風呂入った時鼻血出した子だから。はは。
 と思ったら、十一夜君まで顔を真っ赤にしている。あら、そういえばあの時彼にも全裸を見られているんだった。
 想像するんじゃない、そこの男子!
 思い出して今更自分まで赤面する。
 あの頃は女子という自覚が少々足りなくてあんまり恥ずかしさを感じなかったんだけど、今やなかったことにしたい超恥ずい過去だ。

 十一夜君が仕切り直しとばかりに咳払いをして話を切り出す。

「黛さんの方は、彼女の義父と黛君の関係のことを持ち出せば必ず食いついてくると踏んでいる。黛君の方は、事情を話せば絶対乗ってくるだろ。そっちはは一緒に勉強するって体裁を取れば監視から怪しまれずに済むはずだ」

「はぁ~、なるほど。そういう意味でわたしがひと肌脱ぐのね……。あ、だったら私の家に呼んだ方がよくない?」

「いいのか?」

「うん。別に全然問題ないけど」

「そうか。だったらまだ僕らが事情を知ってることは黛君にバレない方がいいだろうし、そうしてもらった方が都合がいいな。じゃあ、黛さんの呼び出しはこっちで抜かりなくやるから、華名咲さんには黛君の方とうまく話をつけてもらっていいか?」

「了解。あ、だったら病院でわたし、黛さんうちの学校に親戚いませんかって訊いたんだけど、その話題も何かの足しになるかも」
 
 そんな調子で話はとんとん拍子に進み、週末に黛家の二人の都合がつけばうちでご対面ということになった。
 幸いというのか、うちは現在一人暮らしで誰もいない。まあ階下と階上に住人がいるけども問題あるまい。美味しいケーキでも調達しておかなくちゃ。

「はぁ……」

「どうしたの、十一夜君? 溜息なんか吐いて、珍しい」

「いや、任務だからな」

「ん?」

 何のことやらだわ。任務をめんどくさがる彼を想像できないんだけど?

「ははぁ~ん」

 聖連ちゃんが訳知り顔でにやついている。
 訳が分からず間抜けヅラを提げてポカンとしている私に向かって聖連ちゃんが言うには、「ジェラってる」だそうだ。
 流れから行くと、十一夜君がってこと? 誰に、何を?
 うーん。十一夜君がジェラシーを感じる相手、ちょっと気になる……。
 って何でだよ! べ、別に気にしてなんてないしっ!

「ほほぉ~ん」

 って今度は私を見ながらにやついている聖連ちゃん。
 な、何っ。キャラ違ってるし。黒聖連出してるんじゃないっ。

「ふぅ~ん。黛先輩……か」

 黛君? 彼の名前を呟いて相変わらずニマニマしている聖連ちゃん。
 はて? まさかとは思うけど……え、聖連ちゃんが黛君のことをっ!? んでもって、十一夜君がそれに気づいて嫉妬とかっ!?
 うわぁ~、意外。あのクールな男が妹かわいさに嫉妬って、意外なんですけど。プププ。

「華名咲先輩」

「あ、うん?」

「多分勘違いしてます」

「うん?」

 聖連ちゃんから指摘を受けるが何が勘違いだったのか。私は何も言ってないのにまさか頭の中でも覗かれた? 忍者ってそんなこともできるわけ!?

「それと、もうひとつ重要な情報があります」

 何かしら……? 黛さんのことでも結構すごい情報かと思ったんだけど、この上何が?

「あの、高等部に木下きのした優子ゆうこ先生っていらっしゃいますよね」

「うん……いるね」

 十一夜君も頷いている。ディディエが木下先生に暗い影が見えると言っていたことが脳裏をよぎる。

「その教師、MSと繋がっています。ていうかかなり熱心な信者です」

「んなぁっ」

 思わず言葉にもならない声を発して口が暫くあんぐり開きっぱなしだった。
 ディディエが言ってたのはそっちだったかぁ。
 てっきり私は木下先生の身に何か大変なことが起こるのかと心配していたんだけど、そうじゃなくて私にとって災厄をもたらすっていう意味だったかもなぁ。

「それで、木下先生に何か怪しい動きはあるのか?」

 十一夜君は頭を抱える私には構わず聖連ちゃんに質問する。

「うーん……これは私の推測ですけど、今まで校内で生徒を使って行ってきたこと――例えば華名咲先輩を襲ったりですが――これって、木下先生が関与していた可能性が高いと思うんです」

 なんですとぉっ!? いや、仮にも教師が生徒を襲うかぁ? いやまぁ、何が起こるか分からない世の中ではあるけども。それにしたってもし真実だったら結構な衝撃なんですけど。

「なるほどなぁ。どうもだれかもうひとり校内で関与する人間がいる気がするとは思っていたけど、木下かぁ」

 おっと。既に十一夜君は木下先生を呼び捨てか。すっかり犯人扱いですか。

「はい。一応この一週間木下優子の動向を覗っていましたが、通常使用している携帯電話とは別に使っている携帯があって、パケットを監視していたところそっちの通信は高度に暗号化されてました。明らかに一般に使用されるレベルではなかったので、確実に水面下での活動があると思われます」

「なるほど。それは確かに怪しいなぁ。よし、その調子で引き続き調査を頼む」

 首肯で応じる聖連ちゃんの眼鏡がキラリと光った……気がする。

「あ……」

「どうした華名咲さん?」

「うん、いや……そう言えばさっき、五組の進藤君が木下先生に叱られてたっぽいところを見かけたんだよねぇ……関係ないかもしれないけど」

「うぅん……それは、関係ないかもしれないけど、相手が進藤君となると多少気になるなぁ。そこも洗っておいた方が良さそうだ」

「何か、いよいよ進展してきた感じ?」

 そんな気がするんだけど、私だけかな? これ。

「うん、そうだな。かなりカードが出揃ってきたのは確かだ。あとは点と点をどう繋げていくか……」

 おぉ。いよいよ捜査進展の気配が? それにしてもよくよく考えてみたら、この捜査のゴール地点って結局どこなんだっけ? 何かあれよあれよと巻き込まれてしまったけど、何なの?
 私にとっては女体化とMSから狙われてる件の解決だけど、もう何だか自分のことだけじゃ済まないどでかい事件に巻き込まれているのは間違いない。
 何しろ違う世界線からやってきた人と同じジャンルに括られてるしな。壮大にも程があるわ。
 黛君じゃないけど、私って何者なんだっけ? なんか自分のアイデンティティ完全崩壊してる気がする。

「それにしても木下先生……」

 この学校どこに危険人物が潜んでいるか分からないわ。ホント恐ろしすぎる。経営陣の家族としてこの学園の状況はいかがなものかと思うんだけど? て、その私が渦中にあるってそもそもどうなのかってことよね。うーん……悩ましい。

「よし、じゃあ決まったな。華名咲さんは黛君と勉強会の名目でアポを取ること。聖連は引き続き調査続行。そのウサビッチとやらと兎の関係も洗うこと。僕は黛さん関連と木下の裏を探ってみる」

 リーダーっぽく取りまとめて、十一夜君はまたむしゃむしゃと食事(?)の続きへと没入していった。
 食いしん坊将軍万才。
 白馬にまたがった十一夜君が、バンザイしながら浜辺を颯爽と走っている映像が、テーマソングと共に脳内再生される大凡おおよそ青春という言葉と程遠い放課後だった。
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