47 / 83
47 あー、緊張するぅ
しおりを挟む
ライブハウスに到着すると、ちょうどメグのヤツと同じようなタイミングで到着したようで、搬入口のところで鉢合わせした。
「よぉっ。今日もよろしくな」
軽く声をかけると、いかにも力の抜けた調子でメグの方も同じような返事をよこす。
リラックスしている証拠だ。こういう現場をもう何度も経験しているので、お互い無駄に緊張したりすることも流石になくなった。
楽器を持って控室に入ると、すでにTHE TIMEのボーカル意外のメンバーがいて、手続き等を済ませてパイプ椅子に腰掛けていた。
「お疲れでーす」
始まる前からお疲れもないもんだとは思うが、僕とメグは先に来ていたメンバーにそう言って声をかけて、僕らは勧められるままパイプ椅子に腰を下ろした。ライブ前には音源のCDやその日演奏するセットリスト(通称セトリ)を記入して提出したり、結構面倒くさいのでお疲れという声かけもあながち間違っていない。セトリには曲順はもちろん、各曲の演奏時間だったり録音録画の必要不要の確認など、結構細かく記入項目がある。
そういった手続きを終わらせて、雑誌を読んだりお菓子をつまんだり、楽器のメンテをしたり、それぞれが好きに過ごしている。THE TIMEのメンバーはいささか緊張している様子だ。
そこへ遅れて他のメンバーがやってきた。
「こんにちはー」
明るい調子で控室に入ってきた曜ちゃんは荷物を置いて持参してきた温かい飲み物を飲んで一息ついている。
僕はそんな様子を横目に、持参してきたトレーニングパッドをパタパタスティックで叩いてウォーミングアップ中だ。本番前にこうしてルーディメンツを続けていると無心になれるので、ルーティンとまでは言わないが時々こうやって過ごしている。
曜ちゃんがいつもバンド活動の時はよそよそしくて若干心が折れるので、こうしていれば余計なことを考えずに済む。
そうしてメンバーも揃ったところで、ライブの準備を始める。楽器を持ち込んでセッティング、楽器ごとに音出ししてバランスやなんかを音響さんに調整してもらう。パートごとにモニターのミックスバランスなんかも調整してもらう。
演奏者側には中音と外音という言葉があって、中音というのはプレイヤー側のモニターに出ている音のことだ。対して外音というのはオーディエンス側に聞こえる音。中音に関しては各パートごとに、ベースとドラムの音を大きめに欲しいだとか、自分のパートがよく聞こえるようにしてほしいだとか色々あるのだ。
僕はライブハウスの備え付けのドラムセットを使わせてもらうわけだが、スネアとハイハットとキックペダルだけは自前のものに入れ替える。
ライブハウスのドラムセットはその部屋の鳴りに合わせてチューニングされていることが多いので、あまり自分でチューニングを弄らない。たまに他のバンドが変にチューニングを弄ってたりすると、部屋と変な共鳴が起こってハウリングを起こしたりなんかするので下手に弄らない方がよかったりする。
さて、それぞれのセッティングも決まったようだ。全体の音出しも一曲丸々というわけではない。曲中のここっていう部分をバンド全体で音出ししてバランスをとってもらう。今日は単独なのでまだいいが、対バンがあるときなんかは二、三十分で全部終わらせないといけないので戦場だ。とてもじゃないが羽深さんを読んで見学してもらう雰囲気じゃない。
観客が入るとまた音が全然変わるので外音に関しては音響さんの経験におまかせして、我々バンド側としては中音を中心に演奏しやすい状態になるようチェックすることになる。ここで調整しておいても大抵本番になるとテンションが上って音が大きくなりがちだったりするのだけど、多分その辺りは音響さんも心得たものなんじゃないかなと思う。
「お疲れっ。今日はたっくんとメグのリズム隊なんだ。期待できそうだな」
サルタチオでは何度も演奏しているのですっかり顔なじみになっているミキサーの橘さんが、セッティング時に声をかけてくる。
「あ、どうもー。お疲れさまです。そうなんですよ、いつものリズム隊です。よろしくお願いしますね、橘さん」
「まかして! おぉ、今日もベルブラスか。こいつは鳴るよなぁ。たっくんのスネアはうちで演ってるバンドの中じゃ一番音がでかいからな」
そう言ってクックと笑われた。ベルブラスというのはシェル(胴体)の材質名のことで、シンバルと同じ素材のものだ。特にベルブラスと言ったらTAMAというドラムメーカーのものを指すことが一般的なのだがこれがとにかくよく鳴る。親父が使っていたもので、その親父も中古で購入したビンテージの高級品なのだが、確実に銘器と言っていい部類の楽器だ。
ただでさえでかい音が出るベルブラスを、僕はオープンリムショットでひっぱたくからバカでかい音が鳴るわけだ。まぁ、ドラマーにも色々なスタイルがあって、ムキムキのパワーヒッタータイプでしょっちゅうスティックを折っちゃうドラマーもいれば、大きな音を出さないのが好みというドラマーもいる。僕は筋肉系じゃなくて細いタイプなんだけど、音はでかいらしい。スティックはそんなにしょっちゅう折る方じゃないけど。
あ、ちなみにオープンリムショットというのは、スネアドラムの縁の金属の輪っか部分とドラムのヘッド面を同時に叩くという奏法で、ジャズ意外の音楽では主流の叩き方(ジャズでも部分的に使うことはある)だ。意外と初心者ドラマーには知られていないっぽいけど、特にロック系ではマストな奏法かもしれない。当然音もでかくなるし、爆音の中でもヌケが良くなるので好んで使われることが多い奏法だ。敢えてやらないというドラマーもいるけどね。
一通り音出しも終えて控室に戻る途中でトイレに立ち寄ろうとしたら、曜ちゃんから声をかけられた。
「あの、タクミ君。えと……ライブの後ちょっと時間もらえるかな……?」
もじもじしながら言うこの感じ……まさかとは思うけど、まさかなのか⁉
てか、本番前に思わせぶりなこと言ってくれちゃって……テンション上がるっての。でも舞い上がってミスるかも……。
あー、なんか緊張してきた。別の緊張だけど。あー、緊張するぅ。
「よぉっ。今日もよろしくな」
軽く声をかけると、いかにも力の抜けた調子でメグの方も同じような返事をよこす。
リラックスしている証拠だ。こういう現場をもう何度も経験しているので、お互い無駄に緊張したりすることも流石になくなった。
楽器を持って控室に入ると、すでにTHE TIMEのボーカル意外のメンバーがいて、手続き等を済ませてパイプ椅子に腰掛けていた。
「お疲れでーす」
始まる前からお疲れもないもんだとは思うが、僕とメグは先に来ていたメンバーにそう言って声をかけて、僕らは勧められるままパイプ椅子に腰を下ろした。ライブ前には音源のCDやその日演奏するセットリスト(通称セトリ)を記入して提出したり、結構面倒くさいのでお疲れという声かけもあながち間違っていない。セトリには曲順はもちろん、各曲の演奏時間だったり録音録画の必要不要の確認など、結構細かく記入項目がある。
そういった手続きを終わらせて、雑誌を読んだりお菓子をつまんだり、楽器のメンテをしたり、それぞれが好きに過ごしている。THE TIMEのメンバーはいささか緊張している様子だ。
そこへ遅れて他のメンバーがやってきた。
「こんにちはー」
明るい調子で控室に入ってきた曜ちゃんは荷物を置いて持参してきた温かい飲み物を飲んで一息ついている。
僕はそんな様子を横目に、持参してきたトレーニングパッドをパタパタスティックで叩いてウォーミングアップ中だ。本番前にこうしてルーディメンツを続けていると無心になれるので、ルーティンとまでは言わないが時々こうやって過ごしている。
曜ちゃんがいつもバンド活動の時はよそよそしくて若干心が折れるので、こうしていれば余計なことを考えずに済む。
そうしてメンバーも揃ったところで、ライブの準備を始める。楽器を持ち込んでセッティング、楽器ごとに音出ししてバランスやなんかを音響さんに調整してもらう。パートごとにモニターのミックスバランスなんかも調整してもらう。
演奏者側には中音と外音という言葉があって、中音というのはプレイヤー側のモニターに出ている音のことだ。対して外音というのはオーディエンス側に聞こえる音。中音に関しては各パートごとに、ベースとドラムの音を大きめに欲しいだとか、自分のパートがよく聞こえるようにしてほしいだとか色々あるのだ。
僕はライブハウスの備え付けのドラムセットを使わせてもらうわけだが、スネアとハイハットとキックペダルだけは自前のものに入れ替える。
ライブハウスのドラムセットはその部屋の鳴りに合わせてチューニングされていることが多いので、あまり自分でチューニングを弄らない。たまに他のバンドが変にチューニングを弄ってたりすると、部屋と変な共鳴が起こってハウリングを起こしたりなんかするので下手に弄らない方がよかったりする。
さて、それぞれのセッティングも決まったようだ。全体の音出しも一曲丸々というわけではない。曲中のここっていう部分をバンド全体で音出ししてバランスをとってもらう。今日は単独なのでまだいいが、対バンがあるときなんかは二、三十分で全部終わらせないといけないので戦場だ。とてもじゃないが羽深さんを読んで見学してもらう雰囲気じゃない。
観客が入るとまた音が全然変わるので外音に関しては音響さんの経験におまかせして、我々バンド側としては中音を中心に演奏しやすい状態になるようチェックすることになる。ここで調整しておいても大抵本番になるとテンションが上って音が大きくなりがちだったりするのだけど、多分その辺りは音響さんも心得たものなんじゃないかなと思う。
「お疲れっ。今日はたっくんとメグのリズム隊なんだ。期待できそうだな」
サルタチオでは何度も演奏しているのですっかり顔なじみになっているミキサーの橘さんが、セッティング時に声をかけてくる。
「あ、どうもー。お疲れさまです。そうなんですよ、いつものリズム隊です。よろしくお願いしますね、橘さん」
「まかして! おぉ、今日もベルブラスか。こいつは鳴るよなぁ。たっくんのスネアはうちで演ってるバンドの中じゃ一番音がでかいからな」
そう言ってクックと笑われた。ベルブラスというのはシェル(胴体)の材質名のことで、シンバルと同じ素材のものだ。特にベルブラスと言ったらTAMAというドラムメーカーのものを指すことが一般的なのだがこれがとにかくよく鳴る。親父が使っていたもので、その親父も中古で購入したビンテージの高級品なのだが、確実に銘器と言っていい部類の楽器だ。
ただでさえでかい音が出るベルブラスを、僕はオープンリムショットでひっぱたくからバカでかい音が鳴るわけだ。まぁ、ドラマーにも色々なスタイルがあって、ムキムキのパワーヒッタータイプでしょっちゅうスティックを折っちゃうドラマーもいれば、大きな音を出さないのが好みというドラマーもいる。僕は筋肉系じゃなくて細いタイプなんだけど、音はでかいらしい。スティックはそんなにしょっちゅう折る方じゃないけど。
あ、ちなみにオープンリムショットというのは、スネアドラムの縁の金属の輪っか部分とドラムのヘッド面を同時に叩くという奏法で、ジャズ意外の音楽では主流の叩き方(ジャズでも部分的に使うことはある)だ。意外と初心者ドラマーには知られていないっぽいけど、特にロック系ではマストな奏法かもしれない。当然音もでかくなるし、爆音の中でもヌケが良くなるので好んで使われることが多い奏法だ。敢えてやらないというドラマーもいるけどね。
一通り音出しも終えて控室に戻る途中でトイレに立ち寄ろうとしたら、曜ちゃんから声をかけられた。
「あの、タクミ君。えと……ライブの後ちょっと時間もらえるかな……?」
もじもじしながら言うこの感じ……まさかとは思うけど、まさかなのか⁉
てか、本番前に思わせぶりなこと言ってくれちゃって……テンション上がるっての。でも舞い上がってミスるかも……。
あー、なんか緊張してきた。別の緊張だけど。あー、緊張するぅ。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
痩せたがりの姫言(ひめごと)
エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。
姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。
だから「姫言」と書いてひめごと。
別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。
語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる