僕は美女だったらしい

寺蔵

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心配

八鬼の手料理

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 その夜、僕はまた悲しい夢を見た。
 堕ちていく、悲しい夢。

『なつき』

 誰かの声が僕を呼んだ。
 誰?
 温もりが覆い被さってくる。
 あぁ、あったかい。
 絶望と悲しみが、温もりに少しだけ癒される。

 この暖かさを知ってる。と思った。

 八鬼だ。

 昨日、抱き締められた時と同じ熱だ。

(夢に見るぐらい、衝撃だったのかな)
 ただ、労わるみたいに抱き締められることが。

 相手は、僕をずたずたに犯した男だっていうのに。





「!」

 目を覚ますなり、驚きに呆然と固まってしまった。
 八鬼に背中から抱き締められ、八鬼の腕枕で寝ていたんだ。
 この状況は一体何なんだ。どうしていいのか検討もつかない。
 トクン、トクン。くっ付いた体から、どっちとも付かぬ心音が聴こえてきた。
 このゆっくりとした力強い脈動は僕のじゃないな。八鬼の心音だ。

 ……気持ちいいな。

「起きたのか……?」
 身動ぎすると、八鬼が後ろから尋ねてきた。起きていたのか。

「、う、ん」
「お早う」

 後ろからぎゅって抱き締められて挨拶されてびっくりしてしまう。

「お、おはよ……」
「今何時だ……? あぁ、丁度いい頃だな。そろそろ飯の時間だ」

 八鬼が僕を抱き締めたまま体を起こした。
 時間を確認したスマートフォンで、そのまま誰かに連絡を入れる。
 相手は取り巻きの誰かなんだろう。飯を二人分持ってこいって命令してた。

 あ。僕の服が変わってる。

 昨日は暴れ疲れて眠ってしまったから制服から着替えさえしないままだった。
 なのに、見慣れたハーフパンツとシャツを着てる。八鬼が着替えさせてくれたのかな?

 顔を洗って歯を磨いて身支度を整えた頃、ドアが乱暴にノックされて「八鬼君、飯持ってきました」と声がした。

「座ってろ」

 出ようとした僕を止めて、八鬼がご飯を二人分受け取ってきた。

 う……。

 今日の朝ごはんは目玉焼きとサラダ、焼いた厚いハムが二枚、ほうれん草のおひたしにカボチャの煮物……。
 しかもお味噌汁が豚汁だ……。

 見るだけで体が重たくなる。

「待ってろ」
 八鬼は僕の分の茶碗を持って冷蔵庫が置いてる場所へ入って行った。

 何をするつもりだろう?
 待ってても戻ってこなかったんでドアを開けて覗く。

「八鬼……? ご飯、冷めちゃうよ……?」

 八鬼はミネラルウォーターを横に置いて、カセットコンロで何かを作っていた。

「もう出来る」

 できる?

 カチン、とガスを切る音がする。
 火に掛けられてたのは一人用の土鍋だった。

 八鬼は僕の前にその土鍋を置くと、蓋を開いた。
 中に入っていたのは薄い黄色が綺麗な卵粥だ!

「わ……」
「いきなり米なんか食えねえだろ? 食べられる分だけでいいから無理すんな。吐いたら元も子もねえ」

「……あ……りがとう、いただきます……」

 いつの間に土鍋なんか。食堂から借りてきたのかな?
 一緒に用意してくれてた蓮華を使って、ゆっくり冷まして口に入れる。
 八鬼が作ったとは到底思えない、優しい味のお粥だった。

「おいしい……」
「うっせ、黙って食え」

 思わず呟いてしまうと怒られた。
 でも八鬼は、どこか照れたような顔をしてて笑ってしまった。

 え? 笑う?

 高校へ入学してから、笑うなんて殆どなかった。いつも、辛くて苦しくて痛くて……。僕を追い詰めたのは目の前のこの男なのに、どうしてこんなに寛いでいるんだ?

「笑うな。殴るぞ」
「殴っていいよ。もう慣れたから」
「バカ。お前を殴るのなんか手加減しまくってんだよ。俺が本気出したらお前なんか簡単に死ぬぞ」

 八鬼の長身に見合った長い腕が伸びて、僕の髪を掻き回した。
 大きな掌が気持ちいい。


「俺が作った粥が美味いなら、学食の飯なんかもっと美味いだろ。なんで食わなかった」

 食欲が無かったのは、毎日みたいに八鬼に犯されてこの世の全てに絶望していたからだよ。

 でも。
 言われて見れば、どうして。
 どうして僕は。

 八鬼がつくったこのお粥が、美味しいって、思うんだろう?
 八鬼が怖くて食欲がなかったのに、どうして八鬼の作ったご飯が美味しかったんだろう?
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