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タコキノコ
しおりを挟む一度はねねの生存を諦めたノブナガだったが、根の成長と変形を進ませながらも、時々ねねの名前を呼んだ。
キノコに睡眠はない。光合成ができない闇夜でも意識はある。
月明かりに映える雑木林のなかで、ノブナガはねねの名を叫び続けた。
なぜなら、生存の可能性が残っているから。
キノコは、本体が死んだ後で、意識だけが毛根に飛ぶ。
ねねが返事をしないのは、死んだ(消滅)したからではなく、まだブタ人間に食べられず、保管用の壺に入ったままだから。
ねねが生きているから、戻ってこないだけ。
歩行に挑戦しているのも、ブタ集落の保管壺にいるだろうねねを助け出すため。
集落まで自分が移動できれば、ねねを担いで連れ戻せる。
重くて無理なら、せめて壺から出して、軒下に隠れてもいい。
様々なことを想像しながら、ノブナガはねねを呼び続けたのだった。
返事が無いまま一週間。
ノブナガの根は、直径2cm長さ4cmが8本。
イメージどおりにタコ足に成長した。
ゆっくりと動かす。
歩くには地面に立たなければならない。
土の中で動かせたときは毛根だった。
太くしたせいで摩擦抵抗が強くなり、動かせないかと思っていたが――、
ミシッミシッと土を割く鈍い音をさせ、一本の真っ白い根が土から出現した。
土の外は抵抗が全くないので、ぐにぐにと根が動く。
まさしくタコ足。
残り7本の根も土から出し終え、いよいよ身体を持ち上げる。
歩行には体重軽減が必要と考え、傘は作らなかったが、
それでも根の成長に比例して柄が自然成長してしまい現在全長10cm。
なんとかなるだろう。
8本足全てに力を込めた。
くいっと浮かんだキノコボディ。
わずか数cmだが、間違いなく地面から浮いている。
根で全体重を支えているのだ。
たぶん、この世界のキノコ始まって以来の快挙。
さて、次は、いよいよ歩行に挑戦。
歩行が出来て、初めて立った意味があるのだから。
トコトコ。
トコトコ。
2~3歩進んで止まり、それから2~3歩進む。
その繰り返しでなら、歩行は可能だった。
脚を担うよう成長させた根は、人間に例えると指だ。
ちょうど5本の指先を逆さまに立てて、指歩きしている感覚に近い。
連続で歩行できないのは、歩くと10cmの筒本体が揺れて倒れそうになる。
停止して揺れを鎮めてからまた歩行するという、歪な進行。
無理もない。
キノコはもともと歩く生物ではないので、歩行に必要なバランス感覚(踏ん張るとか)、詳しくは分からないが、そういった機能がないからだろう。
歩く練習をしているうちに、獲得してゆくかもしれない。
そう期待して、ノブナガは散歩に出かけた。
きゅー? きゅぴきゅぴぃ?
子供たちの中には、そんな『どこ行くの?』みたいに思える鳴き声をするキノコもいた。
キノコに感情が芽生えた?
それとも俺の思い過ごし?
そう聞こえてしまっているだけ?
今のノブナガに答えは導き出せない。
滑らかな歩行ができるようになれば……。
それだけを思い、ノブナガは雑木林を進んだ。
この勇姿をねねに見せたいなぁ~。
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