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番外編
ロベリアの事情
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※「」はイシェラ語『』は帝国語で話しています。
嵐の様な一年生の生活が終わって、私は家族に仮卒業で学園を終えるよう説得されていた。
魔法学園を一年間で仮卒業する生徒なんて珍しくもない。
私も散々だった学園生活を続けたいとはあまり思っていなかったが家に帰るのはそれ以上に嫌だった。
ニリーナ様に叩きつける様に学ばされた現実は家で甘く可愛がられてばかりいた私には衝撃の連続で、学園に身を置く以上に変わらず私を甘やかそうと家族が待ち構える我が家は私にとって落ち着けない異質な場所に感じられていた。
だからこそ極力人と関わりを持たず魔法の鍛錬に力を注いでいた私がルルシア皇女の一時帰国の御一行の一員に選ばれたと知った時は心の底から嬉しかった。
もちろんいい意味で選ばれた訳じゃないことはすぐに分かったが、学園や我が家どころかこの国を離れることができるのは毎日ストレスにさらされていた私にとって久しぶりにゆっくりと息ができるような心地で、心配していた他の同行者も私に興味を示すような人は1人もおらず皆、滅多に行くことができない南の帝国に意識は集中しているようだった。
ルルシアも初めは監視するような疑う様な眼差しを向けてきていたが帝国が近くなるにつれて私のことなど眼中になく気もそぞろといった様子で私はますますこの旅をのびのびと楽しみ始めていた。
基本的には宿に泊まりながらのゆったりとした旅だったけれど昼の休憩や不測の事態で一二度野宿になってしまった時など火を使える私は割と重宝されてそれも嬉しかった。
そうして南の帝国にたどり着いてからも、皇帝との謁見や国のお偉方との晩餐会など末端である私は参加メンバーには含まれず無闇に出歩かなければ自由に過ごしていい幸せな自由時間を楽しんでいた。
ソーマに出会ったのものんびりと散策している最中だった。
なんでも最近全焼してしまった離宮の一つを再建しているらしく忙しそうに立ち働く人たちをぼんやり観察していた時声をかけてきたのだ。
「炎の使い手のお嬢さん、こんな場所にいて面白いですか?」
帝国の人たちは、基本的に私たちをあまり歓迎していないのか、話しかけてくることなど滅多になかった。まぁ言葉が違うから話しかけにくいというのもあるのだろう。
一応全員が帝国語を学んでこの旅に臨んでいるのだが。
『イシェラ語がお上手ですね………殿下。』
初めて誰かに話しかけられたな…
そう思いながら振り返ると見たことのある日焼け顔。太い腕にがっしりとした身体、写真で見た姿とまるで変わらない笑顔に少し引きつる顔を隠す様に慌てて敬称をつけて頭を下げた。
『あれ、バレてた?かしこまらなくていいよ。頭を上げて。
国外の方に初対面で知られているのは初めてだな。
もしかしてルルから聞いてた?』
少し時間をかけて考えていると同じ言葉を今度はイシェラ語に変えて繰り返してくれた。
ゆっくりと顔をあげてからなんと答えようか目が泳いでしまう。
「ルルシア皇女様がお持ちだった写真を無理矢理見せていただいたことがありまして…」
「ふーん、そうか。」
ルルシアに嫌味を言っていたことがバレたらこの人の良さそうな笑顔も消えてしまうだろう。
つくづく過去の自分が嫌になる。
そしてふと先ほどかけられた言葉を思い出した。
『先ほど炎の使い手とおっしゃっていましたが、殿下は私のことをルルシア皇女様からお聞きになっていらっしゃるのでは?』
初めからわたしがロベリア・ハフスだと知っていて声をかけてきたなら私の悪行の数々を知ってのことだろう。
嫌な汗が滲む中、彼は不意を突かれたようなキョトンとした表情を浮かべてから首を横に振った。
「いや、ルルから特にキミの話は聞いてないな。使節団のリストに在学中の優秀な火属性の魔法の使い手と載っていたからキミじゃないかと見当をつけて声をかけたんだけど、違ったかな?」
なるほど、ルルシアが無理に加えた私がどういう立場でこの旅の一行に加わっているのか疑問だったがそういう立ち位置にしてくれたらしい。お優しいことだ。
『優秀かどうかは知りませんが確かに火属性の使い手ではあります。』
「そうだろうと思った。見た目からして火の女神からの寵愛を感じるからね。」
嫌味など一つも挟まれていない眩しいカラッとした笑顔を向けられてなんだか恥ずかしくなってうつむきそうになった。
でも、それはあまりに私らしくない。
『お褒めいただきありがとうございます。』
シャンと背筋を伸ばして余裕で返せたと思うが相手はなんだかおかしそうにクスリと笑うと帝国風にお辞儀をしてきた。
「申し遅れたが南帝国第三皇子、帝国防衛団副団長ソーマ・フォン・ランタナと申す。以後お見知りおきを。」
『ご挨拶いただきありがとうございます。
イシェラ王国ハフス子爵家の次女ロベリアと申します。』
カーテシーを解いて顔を上げると何故かソーマ皇子の隣にアロイス様の姿を発見しギョッとする。
「な、な、な、何故アロイス様が?」
「まだまだだなぁ、これくらいで動揺してたらニリーナ様に怒られるよ。」
アロイス様はパチンと音がしそうな綺麗なウインクを決める。
「面白い組み合わせの2人だなと思って見にきたんだ。」
気軽な口調に帝国の皇子はどう思うか不安になり視線を向けると…
「アロイス殿は自由でいいなぁ」
相変わらずからりとした笑顔のまま、心底羨ましそうに口にした。
工事現場の作業を監督しているらしき人や通りがかったメイドたちもアロイス様の姿を見てニコニコしているのでどうやらこの国の人たちにも好感をもたれているらしい。
さすが賢者の称号を手にした人物だ。
1人で感心していたら何やら楽しそうに話していた2人にパッと見つめられる。
「確かに面白そう。いいね~彼女も連れて行こう。」
「炎の使い手なら何か気づくこともあるかもしれないし。」
??何の話だろう?
「じゃあロベリア嬢、明日の朝日が昇る前に迎えに来るから着替えて待っててね。」
言うやいなやアロイス様は姿を消し、ソーマ皇子も片手を上げて笑顔で去っていく。
「え?明日…朝日が昇る前?何、なんなの?」
訳が分からないままその場に取り残された私は1人で頭を抱えることになった。
嵐の様な一年生の生活が終わって、私は家族に仮卒業で学園を終えるよう説得されていた。
魔法学園を一年間で仮卒業する生徒なんて珍しくもない。
私も散々だった学園生活を続けたいとはあまり思っていなかったが家に帰るのはそれ以上に嫌だった。
ニリーナ様に叩きつける様に学ばされた現実は家で甘く可愛がられてばかりいた私には衝撃の連続で、学園に身を置く以上に変わらず私を甘やかそうと家族が待ち構える我が家は私にとって落ち着けない異質な場所に感じられていた。
だからこそ極力人と関わりを持たず魔法の鍛錬に力を注いでいた私がルルシア皇女の一時帰国の御一行の一員に選ばれたと知った時は心の底から嬉しかった。
もちろんいい意味で選ばれた訳じゃないことはすぐに分かったが、学園や我が家どころかこの国を離れることができるのは毎日ストレスにさらされていた私にとって久しぶりにゆっくりと息ができるような心地で、心配していた他の同行者も私に興味を示すような人は1人もおらず皆、滅多に行くことができない南の帝国に意識は集中しているようだった。
ルルシアも初めは監視するような疑う様な眼差しを向けてきていたが帝国が近くなるにつれて私のことなど眼中になく気もそぞろといった様子で私はますますこの旅をのびのびと楽しみ始めていた。
基本的には宿に泊まりながらのゆったりとした旅だったけれど昼の休憩や不測の事態で一二度野宿になってしまった時など火を使える私は割と重宝されてそれも嬉しかった。
そうして南の帝国にたどり着いてからも、皇帝との謁見や国のお偉方との晩餐会など末端である私は参加メンバーには含まれず無闇に出歩かなければ自由に過ごしていい幸せな自由時間を楽しんでいた。
ソーマに出会ったのものんびりと散策している最中だった。
なんでも最近全焼してしまった離宮の一つを再建しているらしく忙しそうに立ち働く人たちをぼんやり観察していた時声をかけてきたのだ。
「炎の使い手のお嬢さん、こんな場所にいて面白いですか?」
帝国の人たちは、基本的に私たちをあまり歓迎していないのか、話しかけてくることなど滅多になかった。まぁ言葉が違うから話しかけにくいというのもあるのだろう。
一応全員が帝国語を学んでこの旅に臨んでいるのだが。
『イシェラ語がお上手ですね………殿下。』
初めて誰かに話しかけられたな…
そう思いながら振り返ると見たことのある日焼け顔。太い腕にがっしりとした身体、写真で見た姿とまるで変わらない笑顔に少し引きつる顔を隠す様に慌てて敬称をつけて頭を下げた。
『あれ、バレてた?かしこまらなくていいよ。頭を上げて。
国外の方に初対面で知られているのは初めてだな。
もしかしてルルから聞いてた?』
少し時間をかけて考えていると同じ言葉を今度はイシェラ語に変えて繰り返してくれた。
ゆっくりと顔をあげてからなんと答えようか目が泳いでしまう。
「ルルシア皇女様がお持ちだった写真を無理矢理見せていただいたことがありまして…」
「ふーん、そうか。」
ルルシアに嫌味を言っていたことがバレたらこの人の良さそうな笑顔も消えてしまうだろう。
つくづく過去の自分が嫌になる。
そしてふと先ほどかけられた言葉を思い出した。
『先ほど炎の使い手とおっしゃっていましたが、殿下は私のことをルルシア皇女様からお聞きになっていらっしゃるのでは?』
初めからわたしがロベリア・ハフスだと知っていて声をかけてきたなら私の悪行の数々を知ってのことだろう。
嫌な汗が滲む中、彼は不意を突かれたようなキョトンとした表情を浮かべてから首を横に振った。
「いや、ルルから特にキミの話は聞いてないな。使節団のリストに在学中の優秀な火属性の魔法の使い手と載っていたからキミじゃないかと見当をつけて声をかけたんだけど、違ったかな?」
なるほど、ルルシアが無理に加えた私がどういう立場でこの旅の一行に加わっているのか疑問だったがそういう立ち位置にしてくれたらしい。お優しいことだ。
『優秀かどうかは知りませんが確かに火属性の使い手ではあります。』
「そうだろうと思った。見た目からして火の女神からの寵愛を感じるからね。」
嫌味など一つも挟まれていない眩しいカラッとした笑顔を向けられてなんだか恥ずかしくなってうつむきそうになった。
でも、それはあまりに私らしくない。
『お褒めいただきありがとうございます。』
シャンと背筋を伸ばして余裕で返せたと思うが相手はなんだかおかしそうにクスリと笑うと帝国風にお辞儀をしてきた。
「申し遅れたが南帝国第三皇子、帝国防衛団副団長ソーマ・フォン・ランタナと申す。以後お見知りおきを。」
『ご挨拶いただきありがとうございます。
イシェラ王国ハフス子爵家の次女ロベリアと申します。』
カーテシーを解いて顔を上げると何故かソーマ皇子の隣にアロイス様の姿を発見しギョッとする。
「な、な、な、何故アロイス様が?」
「まだまだだなぁ、これくらいで動揺してたらニリーナ様に怒られるよ。」
アロイス様はパチンと音がしそうな綺麗なウインクを決める。
「面白い組み合わせの2人だなと思って見にきたんだ。」
気軽な口調に帝国の皇子はどう思うか不安になり視線を向けると…
「アロイス殿は自由でいいなぁ」
相変わらずからりとした笑顔のまま、心底羨ましそうに口にした。
工事現場の作業を監督しているらしき人や通りがかったメイドたちもアロイス様の姿を見てニコニコしているのでどうやらこの国の人たちにも好感をもたれているらしい。
さすが賢者の称号を手にした人物だ。
1人で感心していたら何やら楽しそうに話していた2人にパッと見つめられる。
「確かに面白そう。いいね~彼女も連れて行こう。」
「炎の使い手なら何か気づくこともあるかもしれないし。」
??何の話だろう?
「じゃあロベリア嬢、明日の朝日が昇る前に迎えに来るから着替えて待っててね。」
言うやいなやアロイス様は姿を消し、ソーマ皇子も片手を上げて笑顔で去っていく。
「え?明日…朝日が昇る前?何、なんなの?」
訳が分からないままその場に取り残された私は1人で頭を抱えることになった。
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