ダンジョン菌にまみれた、様々なクエストが提示されるこの現実世界で、【クエスト簡略化】スキルを手にした俺は最強のスレイヤーを目指す

名無し

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第45回 隔たり

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 もう、俺には時間を気にしている余裕なんてなかった。

 カウントダウンの表示は、目にすると焦燥感を助長させるだけなので、20秒を切ってからは見ていない。とにかく、ほんのあと数秒の間に俺と風間の運命が決まると断言していい。

 それでも、結局答えを見つけることはできなかった。大体、火に対する対処法なんて、普通に考えたらそんなのあるわけがない。

 しかも、全体を炎で包み込むっていう情け容赦のない攻撃だからな。そんなの避ける方法なんてあるわけないのに、いくら考えても意味がないんだ、バカげている。俺たちの置かれた状況とは対照的すぎるボスの平穏な顔が、そうしきりに訴えているかのようだ。

 ん? いや、待てよ、だって……? そうか、その手があった――!

「――風間さん、目を瞑って、なるべく心を無にしてくださいっ!」

「……へ?」

「いいですから、俺の言う通りに――」

「――フシュウウウゥゥゥッ……」

 目を瞑り、なるべく雑念を排除して心を無にする。そうすることで、炎に包まれていても熱さを感じるどころか、涼しささえ覚える。

 これぞ、心頭滅却すれば火もまた涼し、という有名な言葉が表しているものだ……っと、こんなことを考えても見る見る体が熱くなってくるので、無になりきらなければ……。



「…………」

 あれからどれくらい時間が経ったのか、それは誰にもわからない。頭の片隅でぼんやりと心頭滅却を意識しながら、ただただ何も考えずに俺は目を開けることにした。

 すると、デスマスクが仮面を被っているのが見えた。よかった……なんとか乗り切ったみたいだな……って、風間のほうを見たら、ズボンの尻の箇所に火がついていた。

「か、風間さん、ズボンに火がっ!」

「なっ、ななっ!? アヂイイィッ!」

 多分、風間は目を瞑ったまではいいが、途中で無になり切れずに何か余計なことを考えちゃったっぽいな。それでもボヤ程度ですぐに火は消えたし、とにもかくにも一件落着だ。

 この楽のフェーズでわかったことは、この場面だけは攻撃してやろうなんて余計なことは考えず、ひたすら心を無にしてじっと耐えるべきってことだ。

 っていうか今のところ、俺たちがボスに反撃できるのは怒りの顔が現れた局面だけだな。多分、これでボスの攻撃パターンは出尽くしただろうから、討伐する上でかなり前進できたっていうか、文字通り楽になったように思う。

「――スウウゥゥゥッ……」

 お、早速ボスの仮面が剥がれ落ちていき、怒りの形相が現れたわけだが、俺は驚きのあまり混乱してしまった。なんか、楽の顔からこれは、結構心臓に悪いっていうか、あまりにも表情が違いすぎたのでまさに面食らった格好だった。

「……さ、佐嶋よ、正直、わしは心臓が止まるかと思った……」

「……そ、そうでしょうね……」

 俺は風間の言葉に対して素直に同調した。これほど彼に親近感を覚えたことは、多分今まで一度もなかったように思う。

「――ここにいたか。ようやく会えたなあぁ……」

「……か、風間さん、こんなときに冗談きついですって……」

 前言撤回だ。いくら風間の声は羽田の声にちょっと似てるからって、よりによってこういう場であんな男の真似をするなんて、心臓に悪いとかそういうレベルじゃないからだ。

「……な、何を言っておるんだ、佐嶋よ。わしは、何も言っておらんぞ……?」

「……あのねえ、風間さん、バレバレなんですってば……!」

「バ、バレバレって言われても、わしは何がなんだかさっぱり――」

「――何がバレバレなんだぁ?」

「「っ!?」」

 い、今、風間と喋っている最中に、の声がしたような……。

 いや、そんなはずはない。やつは破壊者の鬼木龍奈と戦っていたし、この広い学校ダンジョンで、【クエスト簡略化】スキルもないのにここまで容易に辿り着けるはずがないんだ。

 頼む頼む頼むっ、どうか違っていてくれ……俺はそう心の中で強く念じつつ、恐る恐る声がした方向を見やると、そこには憎たらしいくらいスーツの似合う男が、白い歯を覗かせながら宙に浮かんでいた。

「久しぶりだな、ネクロフィリアの佐嶋ぁ。元気にしていたかぁ……?」

「「……」」

 それは紛れもなく、虐殺者の羽田京志郎であり、俺たちは言葉を失っていた。よりによって、こういう場面で一番遭遇したくないやつと出会ってしまったからだ。

 あまりの衝撃に目眩がしそうになるが、ここであきらめるわけにはいかない。やつが俺たちを殺すつもりならとっくに殺しているだろうし、こうして話しかけてきたということは、まだ望みがあるということだ……。
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