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護衛のパラディン大佐隊編(【04】の裏)
04 たぶん優しい悪魔(ヴァッサゴ視点)
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パラディンに呼び出されたエリゴールは、結局、終業時刻を過ぎてから十一班第一号待機室に戻ってきた。
あれほど早く戻ってきてくれと祈っていたヴァッサゴだったが、このときにはもう待ちくたびれてしまっていて、今さら戻ってこられても、とエリゴールに知られたら切られかねないことを思ってしまった。
ちなみに、宿直以外の班員たちは、エリゴールが帰ってきたとたん、「(お疲れ様で)したーッ!」と次々と退室していった。合法的逃亡である。そんな同僚たちを宿直三人は恨めしそうに見送っていた。
「ずいぶん遅かったな。いったいどうした?」
馬鹿でも人情はあるロノウェは純粋に心配していたが、その隣でレラージュは冷笑していた。
「きっと大佐に退役願を受理してもらえなくて、今まで十二班長相手に愚痴っていたんじゃないですか?」
入室したときから見るからに不機嫌そうだったエリゴールは、無言でレラージュを睨みつけた。
図星だったようだ。
そして、宿直たちは声なき悲鳴を上げていた。
「……俺の退役願はともかく、アンドラスは〝自主退職〟するそうだ」
エリゴールはそう言い返すと、ヴァッサゴの近くにあった椅子に腰を下ろして両腕を組んだ。
退役願の件も含めて、すでに予測していたことである。ヴァッサゴたちは驚かなかった。
「そりゃよかった。ザボエスは……もう知ってるな」
馬鹿でも空気は読めるロノウェは、皆まで言わずに自己完結した。
しかし、あえて空気は読まないレラージュが、皆疑問に思いつつも触れてはいなかったことを口にした。
「大佐が元四班長を呼び出したのは、そのことを伝えるためですか?」
エリゴールは少しだけ驚いたような顔をした。
だが、アンドラスを〝自主退職〟に追いこんだのがエリゴールだと知らなければ、抱いて当然の疑問ではある。
実際には、エリゴールが退室した後にヴァッサゴが暴露しているから、レラージュはもちろん、ロノウェやここの班員たちも知っているわけだが。
(もしかして……俺、まずくないか?)
内心、ヴァッサゴはあせっていたが、エリゴールは彼をちらとも見ずに答えた。
「いや。結果的にはそうなったが、たぶん、アンドラスが俺の名前を出したからじゃねえか? 大佐はそうとは言わなかったけどな」
ヴァッサゴは思わずエリゴールを見た。
エリゴールは平然としている。それらしい嘘をいくらでもつける男ではあるが、今のはおそらく真実に近い。
「あの馬鹿……何をどこまで言ったんだ?」
こういう方面では馬鹿ではないロノウェが、苦々しそうに顔をしかめる。
彼が懸念しているのは、エリゴールがアンドラスを騙して偽の転属願を書かせたことではない。もっと古くて、もっと酷いことだ。
「さあな。それも大佐は言わなかったが、本当にヤバいことは話してねえはずだ。あんな馬鹿でも、プライドだけは一丁前にあるからな」
「そういやそうか。……ん? じゃああいつ、今どこにいるんだ?」
「とりあえず、ザボエスんとこにはいなかったな」
開き直ったのか、エリゴールは自分からそう言った。
「たぶん、自宅じゃねえか? 実質、クビみてえなもんだからな。きっとこのまま、こっちには顔を出さずに消えるだろ」
「そいつはよかった。つっても、俺はあの整列んときから一度も会ってねえけどな」
「俺はダーナ大佐隊の予備ドックで会ったのが最後だ」
しかし、電話で話してはいる。
改めて考えると、あんな電話だけで〝自主退職〟させられるとは、やはりエリゴールは恐ろしい。
だが、エリゴールに言わせれば、それだけアンドラスが馬鹿だったからということになるのだろう。
つい最近までアンドラスと顔を合わせていたヴァッサゴも、多少見た目がよかろうが、あの種の馬鹿は救いがたいという感想しか抱けない。
それでも、ザボエスにとっては、ムルムスよりもアンドラスのほうがましだったのだろう。ムルムスだったら、アンドラスでさえ言わなかったことをパラディンに言っていたかもしれない。
「というわけで、ヴァッサゴ。明日からは安心してザボエスんとこにいられるぞ」
「へ?」
これで自分の元同僚である班長は残り何人になったのだろう……などど考えていたところにいきなりそんなことをエリゴールに言われ、ヴァッサゴは間抜けな声を漏らした。
エリゴールはにやにや笑っていた。元がつかない四班長だったときには、よくしていた表情だ。
「いや、俺は別に……」
むしろ、ムルムスのほうが不安だった……と言いそうになってしまったヴァッサゴは、あわてて口を引き結んだ。
いけないいけない。ザボエスがいないから、つい気がゆるんでしまった。
「あいつは、まともな人間の前ではまともな人間のふりするからな」
そんなヴァッサゴをからかうように、エリゴールは言葉を続けた。
「まあ、せいぜい頑張れ」
ヴァッサゴだけでなく、ロノウェもレラージュも、あっけにとられたような眼差しをエリゴールに向けていた。
確かに、ムルムスやアンドラスよりは、自分のほうがまともだとは思う。
しかし、今のエリゴールの言い方は、ザボエスがまともな人間のふりをしつづけるように、おまえはまともでいつづけろという命令のようだ。
(まあ、ザボエスに消されないためには、そうするしかないと俺も思うが……)
いずれにせよ、今後も気の抜けない日々は続きそうだ。
ヴァッサゴは溜め息をついてから、わかったと力なく答えた。
あれほど早く戻ってきてくれと祈っていたヴァッサゴだったが、このときにはもう待ちくたびれてしまっていて、今さら戻ってこられても、とエリゴールに知られたら切られかねないことを思ってしまった。
ちなみに、宿直以外の班員たちは、エリゴールが帰ってきたとたん、「(お疲れ様で)したーッ!」と次々と退室していった。合法的逃亡である。そんな同僚たちを宿直三人は恨めしそうに見送っていた。
「ずいぶん遅かったな。いったいどうした?」
馬鹿でも人情はあるロノウェは純粋に心配していたが、その隣でレラージュは冷笑していた。
「きっと大佐に退役願を受理してもらえなくて、今まで十二班長相手に愚痴っていたんじゃないですか?」
入室したときから見るからに不機嫌そうだったエリゴールは、無言でレラージュを睨みつけた。
図星だったようだ。
そして、宿直たちは声なき悲鳴を上げていた。
「……俺の退役願はともかく、アンドラスは〝自主退職〟するそうだ」
エリゴールはそう言い返すと、ヴァッサゴの近くにあった椅子に腰を下ろして両腕を組んだ。
退役願の件も含めて、すでに予測していたことである。ヴァッサゴたちは驚かなかった。
「そりゃよかった。ザボエスは……もう知ってるな」
馬鹿でも空気は読めるロノウェは、皆まで言わずに自己完結した。
しかし、あえて空気は読まないレラージュが、皆疑問に思いつつも触れてはいなかったことを口にした。
「大佐が元四班長を呼び出したのは、そのことを伝えるためですか?」
エリゴールは少しだけ驚いたような顔をした。
だが、アンドラスを〝自主退職〟に追いこんだのがエリゴールだと知らなければ、抱いて当然の疑問ではある。
実際には、エリゴールが退室した後にヴァッサゴが暴露しているから、レラージュはもちろん、ロノウェやここの班員たちも知っているわけだが。
(もしかして……俺、まずくないか?)
内心、ヴァッサゴはあせっていたが、エリゴールは彼をちらとも見ずに答えた。
「いや。結果的にはそうなったが、たぶん、アンドラスが俺の名前を出したからじゃねえか? 大佐はそうとは言わなかったけどな」
ヴァッサゴは思わずエリゴールを見た。
エリゴールは平然としている。それらしい嘘をいくらでもつける男ではあるが、今のはおそらく真実に近い。
「あの馬鹿……何をどこまで言ったんだ?」
こういう方面では馬鹿ではないロノウェが、苦々しそうに顔をしかめる。
彼が懸念しているのは、エリゴールがアンドラスを騙して偽の転属願を書かせたことではない。もっと古くて、もっと酷いことだ。
「さあな。それも大佐は言わなかったが、本当にヤバいことは話してねえはずだ。あんな馬鹿でも、プライドだけは一丁前にあるからな」
「そういやそうか。……ん? じゃああいつ、今どこにいるんだ?」
「とりあえず、ザボエスんとこにはいなかったな」
開き直ったのか、エリゴールは自分からそう言った。
「たぶん、自宅じゃねえか? 実質、クビみてえなもんだからな。きっとこのまま、こっちには顔を出さずに消えるだろ」
「そいつはよかった。つっても、俺はあの整列んときから一度も会ってねえけどな」
「俺はダーナ大佐隊の予備ドックで会ったのが最後だ」
しかし、電話で話してはいる。
改めて考えると、あんな電話だけで〝自主退職〟させられるとは、やはりエリゴールは恐ろしい。
だが、エリゴールに言わせれば、それだけアンドラスが馬鹿だったからということになるのだろう。
つい最近までアンドラスと顔を合わせていたヴァッサゴも、多少見た目がよかろうが、あの種の馬鹿は救いがたいという感想しか抱けない。
それでも、ザボエスにとっては、ムルムスよりもアンドラスのほうがましだったのだろう。ムルムスだったら、アンドラスでさえ言わなかったことをパラディンに言っていたかもしれない。
「というわけで、ヴァッサゴ。明日からは安心してザボエスんとこにいられるぞ」
「へ?」
これで自分の元同僚である班長は残り何人になったのだろう……などど考えていたところにいきなりそんなことをエリゴールに言われ、ヴァッサゴは間抜けな声を漏らした。
エリゴールはにやにや笑っていた。元がつかない四班長だったときには、よくしていた表情だ。
「いや、俺は別に……」
むしろ、ムルムスのほうが不安だった……と言いそうになってしまったヴァッサゴは、あわてて口を引き結んだ。
いけないいけない。ザボエスがいないから、つい気がゆるんでしまった。
「あいつは、まともな人間の前ではまともな人間のふりするからな」
そんなヴァッサゴをからかうように、エリゴールは言葉を続けた。
「まあ、せいぜい頑張れ」
ヴァッサゴだけでなく、ロノウェもレラージュも、あっけにとられたような眼差しをエリゴールに向けていた。
確かに、ムルムスやアンドラスよりは、自分のほうがまともだとは思う。
しかし、今のエリゴールの言い方は、ザボエスがまともな人間のふりをしつづけるように、おまえはまともでいつづけろという命令のようだ。
(まあ、ザボエスに消されないためには、そうするしかないと俺も思うが……)
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